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12 パーティー名


 目が覚めると、目の前には大きな山が2つ見えた。

 頭には柔らかい感触が触れており、なんだか良い匂いもする。


 「お、目が覚めたか?」


 大きな山の向こうから覗き込むように出てきた顔は、心配そうな声とは裏腹に今にもとどめを刺すかのような目つきを持つアイリスの顔があった。


 「・・・・」

 「ん? おーい。 どうしたー?」


 その表情を見て、気を失うまではいかなかったが、恐怖で身体全身が強張って動けなかった。


 「あれ? おっかしいな~。 う~んと・・・」


 アイリスはナナシノの頭の上に手を乗せると小さく唱える。


 「【 診察開始 】 ・・・・ストレスによる強度な緊張と、性欲の上昇? ・・は~ん?」

 「すみませんでした申し訳ありませんだから命だけは助けてくださいッ!」


 すぐさまにアイリスから離れ土下座をする。


 「別に怒ってないよ。 ・・・ま、こんな顔してるからあんまり信じてもらえないだろうけど」

 「いえ! 信じます! チョー信じます!」

 

 ナナシノは土下座のまま上半身を勢いよく上げ下げを繰り返しながらアイリスの言葉を肯定するが、外から見たら完全に脅され言わされている図である。


 「・・・そうかい? それじゃあお互いの誤解が解けたって事で改めて名乗ろうか」

 (・・・ん? 今なんだか―――)


 アリシアは長い白スカートの中で足を組み態勢を整える。


 「私はアンタと同じ()()()()()のパーティーの1人。 アリシア・ローレンス。 職種はヒーラー。 改めてよろしくね」

 「あ、どうも。 ナナシノと言います。 よろしくお願い致します」

 「あ~、あと敬語はやめてね。 私とアンタ、歳は1つしか変わらないから」

 「へ? じゃあ16歳?」

 「ううん。 14歳」

 「・・・・・・・」


 14歳?

 年上ではなく年下?

 

 ナナシノは目の前に座る少女の姿を足のつま先から頭の上まで見る。

 凹凸のある抜群のスタイル。

 人を殺しそうな鋭い目つきではあるが整った顔立ち。

 そして何処となく感じる大人な女性の雰囲気。

 

 これが・・・14歳?????


 「おーい。 帰ってこーい」

 

 再びフリーズしていたのか、アリシアが目の前で手を振り意識が戻る。


 「ご、ごほん。 あー・・と。 それで、自己紹介も終えたから1つ聞きたい事があるんだけど」

 「うん。 それは良いけど隣座ったら?」

 「隣?」

 「だってアンタさっきからずっと床で正座してるし。 いい加減周りの人達からの視線が恥ずかしいし」

 「周りの人達?」

 

 ナナシノはアリシアが指さす周囲に視線を向ける。

 そこには数人の冒険者がナナシノの事を呆れたような視線を向けていた。


 「え・・と、ここは?」

 「ギルドが雇った馬車の中よ。 アンタが気絶している間に割り振られた馬車で目的地の神域に移動してるの」

 「あ・・失礼・・しました」


 顔から火がでそうなほど暑く火照りながら、ナナシノは身体をなるべく小さくしてアリシアの隣に座る。


 「それで? 聞きたい事って何?」

 「あ、うん・・・。 アリシア、さんは」

 「アリシアでいい」


 今まで同年代の異性とまともに会話をしたことがないナナシノにはハードルが高い試練だったが、どうしても敬語が嫌なアリシアは鋭い目つきが更に殺気立つ目つきとなった為、ナナシノは覚悟を決めた。


 「・・・アリ、シアは・・なんでボクの事を知ってるの?」

 「なんでって、リーダーに聞いたからに決まってるじゃない」

 「その、ボクはキミが所属しているユースラスってパーティーとは関わりがないと思うんだけど」

 「・・・ハ?」

 「あっ! でもあれかな! マリさんがアリシアのパーティのリーダーにボクの事を話してくれていたのかな? うんきっとそうだ。 マリさんも人が悪いな~。 そういう事ならそう言ってくれたらいいのに」

 「ちょっ・・ちょっと待って」

 「え?」


 色々と一人で納得していたナナシノだったが、アリシアの方は頭を抱えていた。


 「ど、どうかしたの?」

 「・・一応聞くけど、アンタが言ってるマリさんってマリーンさんで間違いないわよね」

 「え、うんそうだよ。 まだ加入して一ヵ月も経ってないけどボクが加入したパーティーのリーダーだよ」

 「うん。 そこは分かったわ。 それで、アンタが加入したパーティーの名前は?」

 「・・・・へ? 名前?」

 「そう。 パーティー名。 加入したのなら勿論知ってるわよね」

 「・・・・・」


 そういえば、役立たずの自分の加入させてもらう為だけしか考えていなかった為、マリーンが率いるパーティの名前を聞いた事が無かった。

 その事に加入してしばらく経つと言うのに気にもしていなかった自分にナナシノは恥ずかしくなり、頭を抱える。

 

 「ハァァ~。 加入して聞きもしないアンタもだけど、そもそも伝える事すらしないマリーンさんもあまりに報告不足だわ」

 「全く返す言葉もございません・・・ッ」


 するとアリシアは鞄からギルフォンを取り出してナナシノとアリシアの顔画像が表示された画面を映す。


 「ほら。 これがアンタが今加入してるパーティ名が記載されてるわ」

 「えっと・・パーティ名、ユースラス(役立たず)?」

 「そ。 これが私とアンタが加入してる()()()()()()()()パーティ―名よ。 しっかり覚えておきなさい」


 その日、ナナシノは初めて自分が加入したパーティー名と、マリーン以外のパーティメンバーと出会っていた事を認識した。


 淹れたばかりのコーヒーを片手に、クエストへ向かう前に持ってこられた山の書類に目を通す。


 「・・・あ。 そういえばナナシノ君にパーティー名もアリシアの事も伝えてないな」


 明らかに大事な情報を1つも伝える事もなく涙を浮かばせながらギルドへ向かった少年を思い浮かべる。

 

 「まぁ・・なんとかなるでしょ」


 そういうとマリーンは再び書類に目を通す。

 すでに床には多くの書類が散らばっている。

 

 そして同時刻。

 ナナシノの悲鳴がギルド内に響き渡った。

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