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8 成長させる為に ~1~


 Cランク冒険者がSランクの魔物、フェンリルを討伐した噂は翌日にはギルドだけでなく国全体で広がっていた。

 一体どんな方法が討伐したのか。

 どうして底辺なCランクがフェンリルと遭遇したのか。

 そして、一体その噂の冒険者が誰なのか。

 数多ありきな話題は広がり続け、詳細を尋ねようとギルドに押し掛ける冒険者や記者取材者達が朝からギルドに押し掛けていた。

 おかげでギルドは目が回る忙しさで職員達は働いている。


 「ギルドへようこそ! ってマリさん!!」


 そんな中、多くの冒険者や記者取材者の中に混ざってギルドの受付にマリは現れた。


 「やぁララ。 お疲れ様」

 「本当ですよ~! 一体誰のせいでここまで忙しくなってると思ってるんですか!」

 「ん? 噂のフェンリルを倒した冒険者のせいだろう?」

 「そのクエストを受けたのはマリさんでしょッ!! ・・・あ」


 マリのとぼけた態度の思わず声を上げて言った事にララは思わず口を手に伏せる。

 

 「今あの職員の娘、クエストを受けた・・と言わなかったか?」

 「あれってマリーンだよな。 なんでギルドにいるんだ?」

 「え? まさかフェンリルを討伐したのってマリーン??」

 「バカ。 アイツがCランクなわけないだろう」


 しかしすでに周囲の冒険者達や記者達にはララの言葉に耳が入っており、ギルド内は更にどよめき出してきた。


 「と、とりあえずマリさんはこちらの応接室へお願いします」


 周囲に一通り頭を下げたララは小声でマリに奥の部屋へ移動するように指示をする。


 「分かった。 ほら行くよ」

 「・・・」


 そしてマリの背後にはボロボロのフードを頭深く被り、大きなカバンを背負った少年がマリの後をついていった。


 「それで! どういう事なのかご説明頂けますか!」


 プンプンと頬を膨らませて怒りを表すララに対して、マリは普段通りに煙管に火をつけて一服を始める。


 「説明っていってもね。 ギルフォンで記録されてるだろう?」

 「えぇされてます! されてますけどなんでクエスト登録者がマリさんではなくて私も知らない冒険者の名前になってるんですか!!」

 

 バンッーーとテーブルの上にララが叩きつける様に置いたのは昨日のクエスト内容の書類。

 Sランククエスト【フェンリルの討伐】 登録者 【ナナシノ】と記載されていた。


 「もぉー! また勝手にギルドの管轄システムにアクセスして登録編集しましたね! これは完全に犯罪ですって何度言えば分かってくれるんですかッ!!」

 「そう固い事をいうなララ。 だからこうして詫びの茶菓子と正式な書類を手渡しに来たんだろう?」

 「それで許されるなら自警団も聖騎士団もいらないんですぅー!」


 全く反省の色を見せないマリに、とうとうララは涙目になりながら幼児のように両手をブンブンと振り上げる。


 「はぁ・・それで、このナナシノと呼ばれる冒険者が彼ですか?」


 一通り怒り終えたのか、ララは呼吸を整え本題に入った。

 

 「あぁ、彼がSランクの魔物を一人で倒した冒険者。 ナナシノ君だ」


 マリーンに紹介され被っていたフードを脱ぐ。

 

 「あの、御無沙汰しています」

 「え? 君は・・・」


 ギルドの職員なのだから顔くらいは知られていて当然だろう。

 何故ならつい最近までは別のパーティーで何度かお世話になった事があるからだ。 

 あの頃は当時のパーティーメンバーであるお調子者がララ目的でクエストの申請から報酬受け取りまで1人でこなしていたからだ。

 だから実際にこうしてナナシノがララと会話をするのは今日が初めてだった。


 「そっか。 キミがナナシノ君っていうんだ。 確かに今思えば名前は名簿で見た事あったよ」

 「はは・・その節はお世話になりました」


 お互い初対面と言っても過言ではないので思わずぎこちない空気が流れる。


 「で、でもすごいね! 前のパーティーではあまり活躍は耳に入ってこなかったから分からなかったけど1人であのフェンリルを倒しちゃうなんて! 実は相当な実力を隠していた冒険者だったんだね!」

 「え・・い、いやぁ~。 そんな事は~・・あはははは」


 ナナシノはただ乾いた笑みだけをすることだけしかできなかった。

 確かに昨日、ナナシノは人生で初めて高ランククエストをこなし、更には偉業と呼ばれるような実績まで残す形がとれてしまった。

 昨日は喜びと困惑、そしてパーティの借金(ある出来事)のせいで気を失ってしまったが今日、一晩休んで冷静になり色々と考えておかしな点が浮かび上がってきていた。


 「あの、職員さん」

 「あ、ごめんね! 自己紹介もせずに話を進めてしまって! 私の名前はララ! ギルドの受付とクエストの書類管理を任されています! ここに就任してもう5年目になるから分からない事があった何でも聞いて! どうかよろしく!」

 「あ、ナナシノです。 よろしくお願いします」


 接客業での事もあるせいか、ララが綺麗なお辞儀で頭を下げた為にナナシノはたじろぎなら同じくらい深く頭を下げて自己紹介を終える。

 

 「あの、それでいきなりなんですが1つどうしても聞きたい事がありまして・・」

 「ん? なにかな? 因みに恋人はいません! 彼氏募集中! あ! でもナンパはお断りね!」


 お決まりのセリフなのかララは可愛らしいポーズを取って決めるが、どう反応すればいいのか分からない思春期のナナシノは、ポーズを取った際に視線が向いたララの胸を見て目を逸らす。


 「いやその・・流れとは言えボクがこなしたクエストについてなんですけど」

 「うんうんクエストがどうかしたの?」

 「その・・クエストランクはAランクじゃないんですか?」

 「そうそう! キミが今回こなしたクエストランクはエー・・・A?」


 そこでララの笑顔はピシッとヒビが割れたような音をして止まった。

 

 「ナナシノ君は今回のクエストランクはAって聞いてたの?」

 「いや、元々はCランクって言われてたんですがけど、現場に行ったらフェンリルが現れて、それから実はAランククエストだったとマリさんに言われて、それで―――」


 そこから実際に起こった出来事を覚えている限りの内容をララに伝えるナナシノだったが、ララは終始笑顔を絶やす事はなかったが、明らかに何かヒビが入る音が話を進めるにつれて大きくなっていたような気がする。


 「――という経緯でフェンリルを倒したんですけど、でも流石にSランクな訳ないですよね! だってSランクなんて国家案件ですし、もしSランクだとしてもギルドがたった1人の冒険者に受理するわけもないし・・あはははは」

 「・・・・」

 「あはは、ははは・・ラ、ララさん?」

 

 彼此ここまでの経緯を説明して5分以上はたったが、ララの身体を微動だにせず、なんなら息が止まっているようにも見えた。

 そうして心配したナナシノが生存確認の為、ララの肩に手を乗せた瞬間―――


 「アホかァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!!!」


 ギルドの外までララの咆哮が響き渡った。

 「お疲れ様です! ギルドへようこそ! 今日は自己紹介も含めて私の事を少しご説明しますね!」


 Q【 お名前は? 】

 「はい! 名前はララ・クライシス! 年齢23歳! ギルドの受付とクエストの書類管理を任されています! 好きな食べ物はお肉! 嫌いなものは見た目で判断する人! 夢はいつか現れる運命の王子様と結ばれる事です! あとそれから―――」


 【はい! 今日はここまで!】

 

 「え?! ちょっと待ってよ! ここから私が王子様と出会う為に努力している哲学の紹k――」


 【またのお越しをお待ちしております!! それではまた次回ッ!!】

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