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妹の学費を稼ぐために働く兄を妹は嫌うのか?

「スバル、ずいぶん嬉しそうじゃんか?」

「ハハハ、マヒロには分かるか」


それから翌週、仕事帰りにスバルはマヒロから呼び止められた。


「まあ、今日は給料日だしな。なにか欲しいものでもあるのか?」

「え? あ、そう言うわけじゃないんだけどさ」

「じゃあどうしてそんなに楽しそうなんだ? ……あ、貯金が目標額に達したとかか?」

「お、さすがマヒロ、よくわかったな! ミツキが大学に進学するための費用が目標額になったんだよ。これだけあれば、ミツキに奨学金借りさせないで行かせることが出来ると思ってな」

「へえ……。お前、本当に偉いな」

「別に、俺が好きでやってることだから、別にすごくはねえよ」

「じゃあさ、折角だし今日は一杯奢ってやろうか? こないだ素敵なバーを見つけたから行ってみたくてさ」

「……ああ、悪い! ミツキの夕食、今日まだ作ってないからさ。早く帰んないといけないんだ」

「あ、そうか? ……ところで妹とは最近どうなんだ?」

「ああ、そうだ。……それなんだけどさ、聞いてくれよ!」



そう言うと、スバルは悲しそうな表情でつぶやいた。


「あれから眉毛も整えたしさ、見た目もよくなったろ、俺?」

「ああ、写真でも見せてもらったけど、すげー変わったよな、お前」

「だろ? なのに、ミツキは相変わらず全然褒めてくれないんだよなあ……」

「へえ……」

「最近は試合だけじゃなくて授業参観とかも来ちゃダメ、保護者会も大事な奴以外は来ないでって言われて……」

「うーん……お前、何したんだ? 本当にミツキに嫌われてるな……」

「そうなんだよなあ……。やっぱり、俺みたいな低学歴の男が学校にかかわるのは、恥ずかしいとかなのかな……」

「そんな嫌な妹だったら、見捨ててうちの寮にでもはいりゃ良いじゃんか。なんならうちのアパートに泊めてやろうか?」

「……いや、もう少しだけ頑張ってみるよ。……とりあえず見た目だけでもかっこよくしておこうと思うんだ。他に直すところってあるか?」

「え? ……まあ、あるにはあるけど……」

「なんだよ?」

「……ぶっちゃけ、お前の普段着ってずっと同じもの着てるだろ?」

「え……まあな」


普段は作業着を着ているため、あまり周囲から指摘されることが無い。

その為、スバルは少し意外そうな表情を見せた。


「ひょっとして、普段出かけるときも、その普段着で出かけてるのか?」

「……ああ、そうだよ」

「じゃあ、それは直した方が良いよな。服は……そうだな、今度一緒に買いに行かねえか? お前、センス悪そうだし」

「うっせーよ、バーカ。……けど、確かにお前がついてってくれた方が良いな?」

「だろ? ま、ばっちり見繕ってやるよ。お礼は今度飯おごってくれたらいいから」

「さっきと言ってること、逆じゃねえか……。まあいいや、じゃあちょうど明日は週末だしバイトも休みだから、その日でどうだ?」

「勿論構わねえよ。じゃあ約束な!」


そう言うと、スバルはミツキに親し気な笑みを向け、帰途に就いた。




その翌日の夜。


スバルは洋服の入った紙袋を見つめながら、嬉しそうに鍋をかきまぜていた。


「へへへ、良い服買えたな、しかも思ったより安かったし……」


マヒロが選んでくれた洋服はスバルにとってもセンスが良いと感じるものであった。

実際に店員からも『お似合いです!』と言われていた。もちろんそのことがリップサービスであることは分かっているが、スバルにとっては嬉しいものであった。


「はやくミツキに見せたいとこだけどな……」


鼻歌を歌いながらミツキのための夕食を準備するスバル。

そしてしばらくすると、玄関のドアが開く音が聞こえた。


「ただいま、お兄ちゃん……」

「ああ、おかえり、ミツキ……」


その日は県大会の決勝戦だった。

だが、スバルはその口ぶりからミツキが試合に敗北したことを感じ取った。


「……お疲れ様、ミツキ。頑張ったんだな」

「……うっさいよ、お兄ちゃん」

「お風呂沸いてるから、入って来いよ。……それと今日はビーフシチューとチーズパンだから、一緒に食おう、な?」

「うん……」


手製のデミグラスソースを用いたこのビーフシチューはミツキの大好物だ。

勝っても負けても最大限の労いになるようにと考えてスバルが前から用意していたものである。

そう言うと、ミツキは荷物を部屋に置きに行った。


(この服を見せるのは、別の日にしようか……)


そう思いながら、スバルは自室に置いた新しい服を思い出しながら思った。

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