表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/24

紡ぐ月


一日の休みを入れたおかげか、今日の菅生は練習に熱が入っていた。きっと疲れがたまっていたのだろう。土日の明日明後日は休みにした。休みも大切だ。



土曜の夜11時、携帯の呼び出し音が鳴る。発信者【菅生 麻衣】。何事だ、緊急事態か。


「もしもし」色々な想像を巡らせながら電話にでる。


「ごのぶぁっかやろうー、なんでぇごとずるのー」


涙まじりの怒号が飛んできた。解せぬ。


「落ち着け。何があった」


「何があった?ふざけんな。こんなもんよこしやがって」


「なんのことだ?」


「あんた、昨日『朗読の参考に』ってDVDくれたよね。あれ見てたら、DVDプレイヤーから悪霊が這い出てきた」


「どういうことだ。その悪霊は今そこにいるのか」


「今、車で逃げてる主人公を追いかけている所。あ、写っていたバックミラーから飛び出してきて主人公襲っている」


I see そういうことか。黒崎沙織の朗読会DVD渡したが、間違って彼女出演のホラー映画渡してたんだな。うん、俺が悪い。素直に謝ろう。


「ごめん。俺が悪かった。とりあえずDVD消そう」


「消して大丈夫?デッキから這い出てこない?」


「こないこない。とにかく電源切って」


ぐすんぐすん言いながら菅生は指示に従う。


「本当に悪かった。渡すDVD間違えた。とにかくあれは単なる映画だから」


俺の説明にも菅生はひっくひっくと泣き止まない。


「そんなことは解っているのよ。けど駄目。今にもドアが開いてやってきそうで。どうすんのよ、今日両親いないのに。ねえ、あんた。電話切るんじゃないわよ。切ったらあんたの所に携帯から這い出ていくからね」


生き霊になると仰られるか菅生さん。出来そうなので怖い。


「そもそもホラーってなに。あんな世界、わたし理解できない」


お前がそれを言うか。突っ込みたいところだが、引け目があるのでそれは出来ない。


「なにか気が紛れる面白い話をしなさい。笑えるあんたの失敗談とか」


「笑える話って言われても。難易度高いぞ、それ」


「……なければコイバナでもいいわよ」


「コイバナも『女心が解らないやつ』って言われていたからな」


「どういうシチュエーションで言われたの」


「小学生の時クリスマス会で『サンタの服は何故赤いのか』を力説したんだ」


「どんな話なの」


「サンタの服が赤いのは、スポンサーがコ〇コーラだからなんだ。90年前コ〇コーラが広告で、会社のイメージカラーである赤を着たサンタを使ったのが広まったという説がある。他にも司教の服が赤だったとかあるけど、昔は緑とか紫とかいろんな服のサンタがいたこと考えると、赤がメインカラーになったのはコ〇コーラの影響は無視できないと思うんだ。だからもしペ〇シ・コーラがスポンサーになっていたら、青色一色のクリスマスの世界線があったかもしれない。

そのもしもの世界を語っていたら、女子から『ロマンをぶち壊すな』って叩きだされた」


「それは女子が正しい。コイバナじゃなく、恥ずかしい話じゃない、これ」



笑い声とともに夜は更けていった。



「ああ、笑った。あんた島でそんな事してたんだ」


「楽しんでもらえて何よりです」


「島の生活とこっちの生活、比べてどう」


「生き死にの境界がこっちは曖昧かな。


蛇がでっかい獲物を飲み込んで、細長い胴体の一部だけが5倍に膨れ上がって、それがズルズルと体の下に動いていく光景。そういうのを島では何度も見た。残酷とかいうなよ。これは自然の摂理だ。

俺たちだって釣った魚を捌いたり、鶏を絞めたりしていた。弱肉強食とかいって斜に構えるのも、かわいそう助けてあげてと偽善的になるのも的外れだ。だからこそ『いただきます』『ごちそうさまでした』の言葉の重みが、こっちとあっちでは違っていた。命が無条件で繋がるものではないと解っているから『またね』『久しぶり』に込められる思いが違っていた。


生きるってのは色々な業を積み重ねていくことなんだ。それがこっちは、ぼやけている」


「……島に帰りたい?」


「いや、あそこは素晴らしい所だが、俺は出ていく時期にきていた。ここから次に進まないといけない」


「淋しくはないの」


「……空を見てみな、月がきれいだろ。けど島の月はこんなもんじゃないぞ。

(ほむら)のように大きく輝く星、針のように小さく瞬く星、こっちじゃ見えない星を周りいっぱいに引き連れて、女王様の行幸(ぎょうこう)だ。

島は地上の灯りが少ない。その分夜空の迫力は圧倒的だ。こんな夜はみんな月を眺めている。

あいつらと俺のつながりは切れちゃいない」



淡雪のようにとけてしまいそうな、輪郭のぼやけた月が空に浮かんでいる。



「いつか、その星空を見に行きたいわね」





俺たちは月の光につながれて、いつまでも空を見ていた。


前回にも述べましたが、この島は実在する瀬戸内海の島をモデルにしています。


連載継続の活力に、ブックマーク、いいね、お願い致します!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ