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ミッション

本作を検索頂きありがとうございます。

この作品と同日に二作品投稿しています。


ハイファンタジーにて

「うちのお嬢様は最強の恋愛戦闘民族サツマナデシコ


現実世界〔恋愛〕にて

「彼女は拗らせた恋をする~隣の美少女が、入学祝いにあなたの子供をくださいとせがんできます~」


よろしければご覧ください。

ゴールデンウイークが明け、少し汗ばむ快晴の午後、俺は教室で黙考していた。

教壇では担任の木戸先生がロングホームルーム進行している。


「これから、奉仕校外活動の事前ミーティングをします。それじゃあ、奉仕とはどういう事かわかりますか、光輪(みつわ)くん?」


「はい。社会の為に、見返りを求めず尽くす事です」


「間違ってはないんだけど、十分じゃないかな。私たちは神より霊的賜物を与えられています。色々な才能、力があります。それを用い互いに仕えあうのが神の御心、主の教えである奉仕です。面倒くさいと思うかもしれませんが、とても大切な事なんです。ガンジーが唱えた『社会の7つの大罪』って聞いた事がありますか?『理念なき政治』『道徳なき商業』『人間性なき科学』『人格なき学識』『労働なき富』『良心なき快楽』そして『献身なき信仰』です。皆さんはこんな悪徳に染まらないで下さい」



なにやら意識高いお話が続いていく。

転校してきたばかりで、この春からミッション系入門の俺には敷居が高い。


神の御心というならば、俺は昨日天啓を受けた。

俺は俺のなすべきことをせねば。どうすればいいのか。

昨日から何度も反芻している問いに心を奪われていた。



「七つの美徳の『慈愛』が奉仕の根底にあることを、心に留めておいてください」

木戸先生の声が俺の頭をすべっていく。



「活動先を決めるんだけど、加賀見くんは今回が初めてだったわね。なるべくやり易いところを優先しますね。どんなところがいいかな。」


問われた俺の意識は、ここでないどこかを漂っていた。

白雪姫を増やすって、どこから始めたらいいんだろう。対象は。育成方法は。



「加賀見くん!聞いているの」


「あっ。すいませんもう一度お願いできますか」


「加賀見くんの愛を捧げる対象を教えてくれる?」



……なに言ってんのこいつ。人の性癖に踏み込んできやがった。

二人きりで照れながら聞かれたなら、ピンク色の勘違いしたかもしれないけど、そういうのじゃないよな。

意味がわからないが絶対避けなければならないのは、ロリの汚名を着せられる事。



「えっと、15歳以上で上は……」


20歳と言いたいとこだが、この先生は就任4年目。気配りは大切だよな。26歳プラスアルファで。


「上は28歳までの女性です。」


「ずいぶんと狭量なのね」


おい!上にはずいぶん広げたんだぞ。下に広げたら事案だろ。


「それなら先生はどうなんです。後学のために教えて下さい」


むかついた俺は質問を返した。


「幼稚舎から老人施設まですべての人が対象です」


言いきりやがった。


「私は若いからとか年をとっているからとか選り好みしません。天上天下唯我独尊、みな等しく『尊し』です。『推し』です。それぞれの年齢にはそれぞれの魅力があります。それが解らないのは修行が足りません」



単なる節操なしじゃねえか!事案突き抜けて犯罪! 

実行に移してるとは言ってないから、ギリギリセーフ?

いや教育者としては、頭部死球で一発退場だろ。



「それに女性だけというのも、いただけないわね。男女の区別なく愛さなければ」


横にも広げてきやがった。なんというストライクゾーン。この人、ボール球ってあるの。



「愛はあまねく与えられるべきですよね、楢崎(ならさき)さんはどう思いますか?」


「私も性別で差別するのは反対です。小説を読みますが、登場人物が男性だから、女性だからといって区別しません。あるのは、美しいかどうかです。男性同士でも尊いものは尊いです。男だから女性を守るとか、役割から解放された人間同士の絆の純粋さ。障害にも挫けないひたむきさ。むさぼり合う俗な関係に比べ、偏見にも屈せず互いを想い合う関係は、光り輝いています」



西條(さいじょう)さんはどう思われます」


「私も年齢で人を貶めるのは嫌いです。経験を重ね、刻まれた皺にはなんと趣がある事か。若い男みたいにガッついてこないし、話も聞いてくれるし、束縛もしない。それを醜悪だとか言って、本質を見ずに否定する。なんて愚かな奴等」



言ってることは真っ当なのだが、そこはかとなく闇を感じるのは何故だろう。


ミッション系、恐い。



「……今後精進します……」


俺は白旗を掲げた。



「転入してきたばかりで、博愛の精神はまだ理解できないでしょうね。今回の奉仕校外活動は、外部の人にも馴染みやすい『児童読み聞かせ』をして頂きます。毎年行っているので、流れも分かりやすいでしょう。去年は誰がされましたか?」



先生の問に答える者はいない。


最後列にいた一人の女生徒が、おずおずと手を挙げた。



彼女は顔を地を向けたまま、ぴんと腕だけ天に掲げていた。


それは、一言で言えば異質であった。他の生徒とはまるで違う。水面(みなも)に浮かぶ油のようだった。


頭は夜の闇を溶かしたような漆黒で、地を向いた顔はうかがい知れず、その頂きだけがこちらを向いている。まるで悪魔の大砲だ。


ゆらりと頭が上がっていく。冷たく長い髪が波打ち、したたり、かんばせが露わになる。その顔は白というよりも色が抜けたようで、命のない人形を思わせた。


細めていた目をゆっくりと開き、瞳が輝きだす。その瞳は冬の海のように生気無く光り、ただ虚ろに世界を眺めていた。





まるで幽鬼のように青白くおぼろげだった。

しかしその存在は、明け方の星みたいに鋭く、冷たい刃物で首筋を撫でられる心持ちにさせられた。


登場した女子生徒の名前は「楢崎ならさき しのぶ」「西條さいじょう 那奈子ななこ」です。

元ネタはあの女流文学者。「彼女は拗らせた恋をする」にも出演予定です。 


同時進行で二作品連載を始めましたので、非常に大変です。

皆様の声援が連載の大きな力となりますので、ブックマーク、下段の星評価を是非お願いいたします。

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