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ブラッディ・マリー

第二章スタートです。

新ヒロイン登場します。

「一難去ってまた一難」という言葉がある。

今も昔もそれは変わらないようだ。






「観月さん、あなたと話をしたいっていってたわよ」


俺は木戸先生に呼び出され、先日の朗読会の事後処理をしてた。


「なんで俺と?」


いくつか心当たりがあるが、はっきりさせておきたい。


「二つばかり理由を言っていたわ。一つは宮邦(みやくに)島での手話の実情を聞きたいって。もう一つは菅生さんと進藤さんとの事……」


「あの二人、お互い大切にし過ぎてこんがらがってしまいそうですもんね。分かりました、連絡とってみます」


「ありがとう。けど役得でしょう。あんな美人のお姉さんと会えるんだから」


「やめてくださいよ。どれだけ年離れていると思っているんですか。あの人アラサーですよ」


「アァ”ッ」


木戸先生の威嚇するような声が唸る。

怖い。しまった。しくじった。うかつだった。


「いや、30代最高ですね。ばっちこいです」


悲鳴をあげるように言葉を紡ぐ。


「きゃー!」


その瞬間だった。本物の悲鳴が廊下から伝わってきた。

ガチャン。パリン。物が壊れる音が続いてする。

俺たちは廊下に飛び出し、悲鳴のする方向に向かった。




俺たちが向かったのは家庭科室だった、教室からはもうもうと煙があがっている。俺は木戸先生にに先んじて部屋に入る。火は電子レンジからあがっていた。女子生徒はパニック状態になっている。電子レンジの扉を開けようとしている。


「レンジの扉を開けるな!余計に燃え広がる。水もかけるな!ガラスが割れる」


俺は一喝し、女子生徒の動きを止める。


「消火器はどこだ?」


俺は大声で叫ぶ。怯える女子生徒がその場所を指さす。俺はそこに走り、消火器を手にする。安全栓を引き抜き、ホースをはずし、レバーを握り噴射する。……火は鎮火した。静寂がようやく訪れた。




「……一体なんでこんな事になったの」


遅れてやって来た木戸先生が事情聴取を始めた。女子生徒たちの表情は虚ろだ。


「すいません、アタシがやりました」


一人の女子生徒が申し訳なさそうに、しかし怯えを見せずに前に出る。


「アタシがさつまいもをアルミホイルに包んで、長時間電子レンジで温めたのがまずかったみたいです」


それ、三重に駄目なやつ。そりゃ爆発するわ。電子レンジの禁じ手、てんこ盛りじゃねえか。


進み出た女子生徒を見やる。額と鼻から血を流し、(したた)る血は唇を濡らす。喜劇的に血を流す鼻。それとは対照的に赤くぬらつく唇は艶めかしく、一層印象深く見えた。血のルージュ、陳腐だがそんな言葉が頭に浮かぶ。白雪姫の唇もこんな感じなのだろうか。

彼女の名前は『結城(ゆうき) 茉美(まみ)』。これから俺と深く関わってくる名前だ。







「また貴方なの、結城さん。……これで三度目よね、電子レンジ壊すの。前は何だったかしら?」


冷たい声で木戸先生は尋ねる。そう言えばこの先生、料理部の顧問でもあったよな、忙しいことで。


「……前は茶碗蒸し温めようとして。すいません、弁償はします。もう二度としないように気を付けます!」


結城は本当に申し訳なさそうに謝罪する。木戸先生は困ったような顔で結城を見詰める。


「ちょっといいですか」


なにやら神妙な顔で話していた集団から、一人の女子生徒が出てくる。


「……私たち、今ここで色々話し合ってみました。私たちは結城さんに負の感情はありません。これまで一緒にやってきた連帯感もあります。……でもこのような事が続き改善の見込みも無いとすれば、安全確保の観点からこれからも料理部の一員として一緒にやっていくのは……正直難しいです。結城さんには申し訳なく思います。でも私は料理部部長として、みんなの安全を守る責務があります。酷い言い分なのは重々承知です。けれど私はあなたに言わなければなりません。お願いです結城さん、料理部を辞めて下さい」


身体から血を流している結城よりも、もっと血に染まったような声で彼女は言った。






「……ダメですか。もう一緒に料理すること、……できないんですか」


結城は泣きそうに、それでも真っすぐ部長を見詰めて呟く。

部長はつらそうに顔をゆがめ、何も言わず、ただ顔をそむけた。

それが返事なのだろう。


「……わかりました。これまでお世話になりました。……みなさんと一緒に料理できた日々、本当に楽しかったです。お元気で!」


結城は血と涙に塗れ、それでも力いっぱいの笑顔を浮かべ、元気よく一礼をし、教室を飛び出していった。


後に残された女子生徒は、涙ぐみながら抱き合い、お互いの肩を叩いている。彼女たちも本意ではないのだろう。だが集団を守ろうとすれば、このような判断を下すことはままあることだ。俺は居たたまれない気持ちになり、教室を後にした。






中庭の花壇に来ると、泣き面の結城がうずくまっていた。血はもう止まっているようだ。俺はかける言葉を思いつかず、ただ通り過ぎようとした。俺の足音に気づいた結城が、少しだけ顔を上げる。俺と結城の目が合う。


後になって思えば、ここで立ち去ればお互いの人生にここまで干渉することはなかっただろう。だが俺たちは逸らさなかった、この目を。この時俺たちの運命は決まってしまったのかもしれない。


新ヒロイン登場しましたが、菅生さんも後で登場します。お楽しみに。


やる気注入のため、ブックマーク、下段の星評価をぜひお願いします。

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