創造してみてごらん
本作を検索頂きありがとうございます。
この作品と同日に二作品投稿しています。
ハイファンタジーにて
「うちのお嬢様は最強の恋愛戦闘民族」
現実世界〔恋愛〕にて
「彼女は拗らせた恋をする~隣の美少女が、入学祝いにあなたの子供をくださいとせがんできます~」
よろしければご覧ください。
白河学園の白雪姫。この名を知らぬ者はいない。
彼女は全ての男に幸せを与える。その美貌と清廉な優雅さをもって。
彼女は全ての男に絶望を与える。到達しえぬ高き頂きから睥睨する威容をもって。
全ての男は恍惚のうちに悶え苦しむ。
ゴールデンウイークの最終日、俺はファミレスの待合席にいた。
隣には同じ高校の制服を着た、いかつい男子が3人。部活帰りらしく汗を匂わせ雑談している。
「石塚、今日の打ち込みどうしたんだ」
「そうそう得意の払い腰、キレがなかった」
「73kg級のエースらしくもない。春の選手権でD強化を倒したのを思い出せ」
石塚と呼ばれた男に見覚えがある。柔道部で、全国大会で活躍して表彰されていた。
「選手権は特別だったんだよ。白雪さんの応援があったから」
白雪さん。我が校一番の美少女と名高く、昨年1年生でありながらぶっちぎりでミスコン優勝。
雪のように白い肌、血のように赤い唇、黒檀のように黒い髪。それをもって白雪姫と呼ばれている。
もと女子高の我が校では柔道全国大会出場は初めてのことで、応援団を出していたっけ。彼女の応援があったなら、ブーストかかりっぱなしだったろうな。
「じゃあ本番の大会は心配ないな」
「いや、それはちょっと。選手権は武道館で東京だったけど、金鷲旗大会は福岡。インターハイは北海道。応援団を出してもらえっこないよ」
「なら個人的に白雪さんに来てもらうか」
「なにそれ、どんな無理ゲーだよ」
なにか求める物が間違ってねえか。
自分の限界まで挑戦し、その上でなにかに縋るというのは分る。だが最初からそれ頼みというのはちょっと……。
そう感じながら聞いていると呼び出しを受け、席に案内された。
汗臭い男子高校生から離脱し、席につく。
隣にはえらいイケメンが座っていた。
年のころは俺と同じくらい。清涼感があり、凛としていて、王子様といった雰囲気。
甘い柑橘系の香りが漂ってくる。さっきまでとはえらい違いだ。
待ち合わせなのか、しきりに入口を見ている。
10分ほど経ち、注文のクラブハウスサンドがやってきた頃、王子様が入口に向かって手を振った。
「ごめん、ごめん。遅くなったね」
「とんでもない。わざわざ来て頂いて、ありがとうございます」
やってきたのは30代半ばの朴訥とした男性。てっきり女性との待ち合わせと思い込んでいた俺は、思わず聞き耳をたててしまった。
だってしょうがないだろう。10代の貴重なゴールデンウイーク、こんなイケメンがおっさんと待ち合わせするなんて、意外に思いつい聞いてしまう。
「頼まれていた物、用意できたよ」おじさんがにこやかに言う。
「本当ですか、ありがとうございます」王子様は、机にぶつけんばかりに頭を下げた。
「本当に君は白雪姫が好きなんだね」
「白い花火を散りばめた様な、あでやかさ。つややかな姿。美しいとしか言葉がでません」
こいつらも、あいつらの仲間かい。
胸やけがするのは、クラブハウスサンドのせいだけではない。
「それで、早速白雪姫を育てるのかい?」
「はい、ついては育てる注意点とか心得を教えて欲しいんですが」
なんだと? 白雪姫を……育てる?
「そうだね、細かいのは色々あるんだけど、まず始めに重要な根幹に関わることを言うね。全てのことに共通するんだけど、肝要なのは『求めるものの真の姿』を正しく明確にイメージするんだ。きれいとか美しいとか、ふわふわしたものではなく、どう生きているのかどのように成長させるのか、理想の姿を現在座標だけでなく未来的な時間軸を加えて想像するんだ。僕もこの仕事をしていると、引き渡しの時点で完璧と思っていても、時間が経つとそれが崩れるということがよくあったからね」
……この人、プロだ。経験からくる重みが言葉に宿っている。
「難しいですね、育てるって。出来るでしょうか、自分に」
「大丈夫。一番大切なのは愛情や情熱があるかどうかなんだ。君にはそれがある。自信をもって!」
王子様は表情を曇らせたが、師匠の言葉にきらめく笑顔を取り戻した。
「とにかくそれを忘れなければ問題ない。あとは枝葉末節、手法となる部分だね」
王子様はメモを取り出しペンを握った。
「始めるのは今の時期が最適だとと思うよ。夏になると少し遅いかな」
なるほど。新年度が始まり、グループ形成が微妙な時期。新たな人材に誘いをかけるのは、今がベストかもしれない。
「育てるにあたって、寒さに弱いから、決して外の寒風にさらしてはいけない。光に当てて、暖めてあげる」
世間の冷たい風にさらされたら、性格も歪んじゃうからな。暖かな環境は大切だ。
「育てるのに大切な水も、愛情深く、こまめにあげる様に。ただ、あげすぎると腐ってしまうからね。成長期すぎたら少な目に」
愛情はことあるごとに示さないといけないとはよく聞くな。けどやり過ぎもよくないのか。確かに「愛してる」って言い過ぎると、かえって嘘っぽくなるよな。
「害虫にも注意して。ぱっと見分かるのはすぐ対応できるけど、見えにくい裏側につくのもあるからね。見つけたら、すぐに駆除する様に」
害虫か。人気がでると、色々な奴が寄ってきやがるからな。目が届かない所ほど注意しないと。
この聖地で、俺は天啓を受けた。
波しぶきをあげて感動が押し寄せてきた。
それを求め願うならば、増やせばいいじゃないか。
この世に白雪姫が満ち溢れるならば、こんな素敵なことはない。
全ての人に幸福が訪れるだろう。
光は暗澹たる闇を切り裂き、希望を与えてくれた。
俺はやる。
ありがとう、師匠。共に励もう、同志王子様。
決意を新たに、ファミレスのドアを開いた。
「ありがとうございましたー」
「じゃあ白雪姫の苗木、車に積んでるから、降ろすの手伝ってくれる」
「ええ、花壇の準備も出来ていますので、早速植え替えしますね」
トウダイグサ科ユーフォルビア属ユーフォルビア・レウコケファラ。
通称「白雪姫」の存在を、彼は知る由もない。
読了ありがとうございます。
お楽しみいただけましたでしょうか。
同時進行で二作品連載を始めましたので、非常に大変です。
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