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フリードリヒの戦場【書籍化】  作者: エノキスルメ
第六章 かつて我々は敵だった

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4巻発売決定 記念SS『悪魔の顔』

第五章の序盤、アレリア王国との決戦に向けた軍議の終了直後くらいのお話です。

あとがきの方にお知らせが2つあります。

 アレリア王国との決戦における作戦が、御前会議にて定まった数日後。フリードリヒは再び、女王クラウディア・エーデルシュタインとの話し合いに臨んでいた。

 議題は、フリードリヒの講じた作戦において最も重要な点のひとつ。敵軍の徴集兵たちを恐怖させ、士気を打ち砕くための「ユディトの悪魔」の面をどのようなものにするか。


「私はユディトの悪魔という伝承があることは知っているが、内容についてはあまり詳しくない。教えてくれ、フリードリヒ」

「はい、陛下……悪魔に関する伝承の詳細については、ユディト山脈沿いの地域においても、場所によって差があります。私が住んでいたドーフェン子爵領の西部においては、人と狼を混ぜ合わせたような見た目の赤い肌を持つ悪魔が山の中に棲んでいて、獲物を捕らえると生きたまま貪り食うと語られていました」


 エーデルシュタイン王国の西の国境線を成すユディト山脈。その麓の各地域においては、子供が言うことを聞かないときに「悪さをするとユディトの悪魔がお前を攫いにくる」などと脅すのが親たちの定番だった。幼少期のフリードリヒとユーリカも、わんぱくな振る舞いが行き過ぎた際に、修道女アルマに何度かそのようにして叱られたことがある。

 子供の頃の思い出に懐かしさを覚えながらも、その内心を主君の前で表情に出すことはなく、フリードリヒはあくまで淡々と説明する。


「他の地域では、獲物の生き血を啜る、トカゲのような顔から火炎を吐く、髪の毛が常に燃えている、などと語られているそうですが、どの伝承においても概ね共通しているのが、赤い肌と人間離れした恐ろしい顔です。なので、その二点を強調するような面を作って見せれば、山脈の西側のロワール地方住民たちもすぐにユディトの悪魔を連想してくれるでしょう」

「赤い肌と恐ろしげな顔か、分かりやすくていいな……狼やらトカゲやらに例えられることが多いようだから、口元を突き出させて、牙でも付けるか?」

「それは名案かと存じます。ぜひ付けましょう。できるだけ禍々しく、仰々しいものを。ついでに頭には角も生やしましょう。悪魔といえば角があるのが定番でしょうから」


 エーデルシュタイン王国の命運をかけた至極真面目な話し合いだが、端から見れば何とも奇妙な相談の内容に、フリードリヒもクラウディアも思わず笑いを零しながら言葉を交わす。


「大きさはどうする? 荷馬一頭が御者などを含めて牽ける重量で、なおかつ広大な戦場において十分に目立つようにするとなると……」

「……そうですね、高さ三メートルほどもあれば十分でしょうか。馬に乗った人間よりもさらに高さがあれば、敵前衛の左側にいる敵兵の多くから見えると思います。左端に立つ者たちはもちろん、その何列も内側にいる者たちも、悪魔の面の恐ろしげな表情が分かるかと」


 短い思案の後にフリードリヒが言うと、クラウディアも頷いた。


「そうだな、それだけあれば事足りるだろう……では、その高さ三メートルの面の製作を、我が国が誇る芸術家たちに命じよう。ザンクト・ヴァルトルーデで最も名の知られる十人の芸術家に十の面を作らせ、その中から最も恐ろしげな三つを戦場に投じる」


 その後、悪魔の面の製作について委細を詰め、奇妙だが重要な話し合いは終了した。


・・・・・・


 冬が明け、決戦のときが近づいてきたある日。完成した十の面が、王都ザンクト・ヴァルトルーデより最前線の野営地に運び込まれた。近衛隊の護衛のもと、いくつもの荷馬車から成る特別な輸送隊が、勝敗を左右する重要な兵器である面を運んできた。壊れないよう慎重に、かつ迅速に。

 人払いのなされた大きな天幕の中で、フリードリヒとクラウディアは並べられた面を前にして、揃って思案の表情を浮かべる。


「……どの面も素晴らしい出来ですね。どれを選んでもあまり効果の差はないだろうと思えるほどです」

「私も同感だ。やはり、我が王家の膝元にいる芸術家たちは素晴らしい。木と革でできた面だと分かってはいるが、それでもこうして目の当たりにすると、思わずぞっとするほどの完成度だな」


 用途については「決戦における策のひとつとして使う」とだけ説明し、製作の王命について口外すれば反逆罪になると釘を刺した上で芸術家たちに作らせた悪魔の面は、どれも凄まじい迫力を放っていた。面の並んだこの空間にいきなり放り込まれたら、子供どころか大人でも腰を抜かすだろうと思えるほどだった。


「あえて優劣をつけるとすれば、遠目に見ても分かりやすく怖そうな要素のあるもの……一際長い角が生えているこの面や、一際大きく口を開いて牙を剥いているこの面、最も目が大きいこの面などが、作戦においては特に有利でしょうか」

「遠目に見た分かりやすさか……確かに、それは最も重要な点になるだろうな。目立つ要素があれば、見た者に恐怖を感じさせる上でも有利になるのは間違いない。後ほど、野外で遠目に見た印象も確認した上で、どの面を使うか最終決定を下すとしよう」


 その後、野営地から離れた平原で、人払いをした上で遠距離からの面の確認が行われた。

 結果、やはりフリードリヒの選んだ三つが最も分かりやすく恐怖が伝わると判断され、作戦に投じられることが決まった。


 文化都市としても知られるザンクト・ヴァルトルーデの誇る芸術家たちが才能の限りを尽くして手がけた悪魔の面は、フリードリヒたちの期待通りの効果を発揮し、エーデルシュタイン王国を勝利に導くこととなる。

2点お知らせです。


①本作『フリードリヒの戦場』書籍4巻が、2026年6月にオーバーラップノベルス様より発売されることになりました。


この4巻をもって書籍版『フリードリヒの戦場』は完結します。無事に最終巻まで出すことができるのは、偏に読者の皆様より応援をいただいているからこそです……本当にありがとうございます。

最後までお付き合いいただけますと幸いです。何卒よろしくお願いいたします。



②新作『我が覇道を讃えよ ~尊大不遜な元傭兵、辺境で勝手に建国して成り上がる~』の投稿を開始しました。


今回は中世初期ヨーロッパをモチーフにした建国譚・戦記譚です。

物語の舞台は、崩壊中の大帝国から放棄されて無政府状態になった辺境の島。

そこへ、成り上がりを夢見る若き傭兵団長が配下を率いて乗り込み、端っこの土地を実効支配して勝手に建国宣言して王を名乗り出し、野心のままに領土を拡大していきます。


よろしければぜひご覧ください。今回もお楽しみいただけますと幸いです。


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