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フリードリヒの戦場【書籍化】  作者: エノキスルメ
第六章 かつて我々は敵だった

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第186話 帰還

 敵将ヨルゴス・カルーナの戦死をもって、勝敗は決した。ヨルゴスの死を目の当たりにした敵本陣の騎士たちは間もなく抵抗を止め、その他の各部隊も無力化された。民兵や反乱軍は散り散りに逃走し、そしてルディア大陸より訪れている将兵は降伏した。ヨルゴスの側近であったという一人の騎士は、よほど忠誠心が高かったのか、部下に自らの首を刎ねさせて殉死した。


 少なからぬ死傷者を出し、総数が四千を切るまでに減ったルディア大陸人の捕虜たちは、身代金を支払う引き取り手もいない。サミュエル・アレリア国王の判断により、彼らは賠償の代わりとして、当面の強制労働の刑に処されることが決まった。

 格安の労働力となった捕虜たちは、各地方の独立によって領土規模が縮小するアレリア王国において、エーデルシュタイン王国への賠償金を支払うための事業に従事することとなる。


 カルーナ地方の今後に関しては、元々の予定通り、アレリア王家と血縁関係のあるカルーナ貴族を新たな王に立てて独立させることが決まった。ヨルゴスの軍勢によって大きな被害を被ったファーロ地方――将来のファーロ大公国からはカルーナ地方に対して賠償を求める訴えがなされているが、その点については両地方に争わせることとなった。こうすれば、カルーナ王国とファーロ大公国が結託してアレリア王国に敵対することは、少なくとも当面はあり得ない。


 こうしてアレリア王国南部における戦後処理の目途が立ち、一方で北のミュレー地方においても、反乱軍はもはや勝ち目なしと見たのか、ユリウス・ノヴァキア公爵とアンジェロ・モゼッティ侯爵の部隊に降伏したという。

 迅速な降伏を促し、その後に悪あがきをさせないため、反乱を主導した山岳貴族たちには降伏後の命と財産、領地の安堵が国王サミュエルの名のもとに保障された。今後は当初の予定通り、旧ミュレー王家の当主を新たなミュレー王とし、独立に向けてアレリア王家との調整を進めるという。


 こうして反乱が終結した後、ツェツィーリア率いる鎮圧軍は王都サンヴィクトワールに引き上げ、それにフリードリヒ率いるエーデルシュタイン王国の援軍も同行した。

 アレリア王国より救援への労いを受けるため。そして、アレリア王国とエーデルシュタイン王国の軍勢が共に凱旋する様を国民に見せ、両国が協力し合う新時代の到来を社会に印象づけるという政治的な目的のため。

 今回の派遣におけるエーデルシュタイン王国側の死者は五十人程度。フェルディナント連隊の死者は二十人ほどで、連隊幹部やフリードリヒと親しい将兵には死傷者は出ていない。

 サンヴィクトワールに辿り着いたエーデルシュタイン王国の援軍は、アレリア王家の計らいで休息をとる。そしてフリードリヒは、王城でサミュエルより歓待され、晩餐会などの政治的社交に臨んだ。


 それらが終わった後、フリードリヒたちは帰路につく。サンヴィクトワールから東へ進み、その途中に立ち寄ったのは、ロワール地方の首都トルーズ。

 そこには、ファルギエール伯爵家の屋敷がある。屋敷の一角には、一族の遺灰を収めた墓が置かれている。


「……」


 その墓へ、フリードリヒは花を手向ける。墓の中には、先代ファルギエール伯爵ジルベールと、その妻フェリシティが――フリードリヒの血縁上の両親が眠っている。

 自分が赤ん坊の頃に不幸にも死に別れ、顔も声も知らない、しかし自分を愛し庇護しようとしてくれた生みの親たち。二人との思い出は何もなく、彼らを両親だと実感して愛することは難しいが、しかし感謝は抱いている。

 だからこそ、フリードリヒはせめて墓を参り、花を手向け、感謝を示したかった。二人の庇護の結果として、今の自分があるのは間違いのないことだからこそ。

 静かに祈り終えたフリードリヒは、立ち上がって後ろを振り返る。


「ファルギエール卿。このような機会を戴き、あらためて感謝申し上げます」


 その言葉に、ツェツィーリアは微笑を浮かべて頷く。


「こちらこそ感謝しているよ。卿がこうして訪れ、無事に成長した姿を見せてくれたことを、父も母も喜んでいるはずだ」


 ツェツィーリアの言葉にフリードリヒも微笑を返し、そして二人は墓の方を向く。大木の下、木漏れ日に照らされた墓の前、心地よい静寂が流れる。フリードリヒが赤ん坊の頃以来の、親子四人の時間だった。


「……では、私は行きます」

「ああ。屋敷の前まで見送ろう」


 墓の前を去るフリードリヒに、ツェツィーリアはそう言って並び歩く。

 会話もなく歩いた二人は、間もなく屋敷の前に。そこでフリードリヒは愛馬に乗る。


「それでは、ホーゼンフェルト卿。帰路の残りも気をつけて。そして、どうか元気で」

「ありがとうございます。あなたもどうかお元気で」


 そう言って去ろうとしたフリードリヒは、再び振り返る。


「今度、いずれもっと情勢が落ち着いた後、あなたも是非ザンクト・ヴァルトルーデにお越しください。私の屋敷に歓迎します」

「……いいのか?」

「もちろんです。あなたは私の……血縁上の姉ですから」


 フリードリヒは微苦笑で言った。それを歩み寄りの姿勢だとツェツィーリアも理解してくれたことが、彼女の表情から分かった。

 また前に向き直り、今度こそファルギエール伯爵家の屋敷を、ツェツィーリアのもとを去る。またいずれ、そう遠くないうちに再会する日が来ると信じて。


・・・・・・


 トルーズを発ったエーデルシュタイン王国の援軍は、数日のうちにベイラル平原を越え、帰国を果たした。

 貴族領軍や傭兵はアルンスベルク要塞で解散させ、フェルディナント連隊は王都ザンクト・ヴァルトルーデへの道のりを進む。定例通り五日ほどで、本拠地たる王都へ到着する。

 城門を潜れば、迎えるのは王都住民たちの歓声。英雄たるフェルディナント連隊の凱旋を、多くの民が盛大に祝い称える。


 フリードリヒたちは歓声の中を抜け、王国軍本部へと入る。そこで待っていたのは、何らかの理由で遠征に同行できなかった少数の連隊将兵たち。

 先頭にいるのは、自身も連隊の一員であるユーリカ・ホーゼンフェルト伯爵夫人。フリードリヒの愛する伴侶。

 連隊にはひとまずの休息を命じ、フリードリヒはユーリカのもとへ近づく。ユーリカも、フリードリヒのもとへ歩み寄ってくる。

 これまで常に互いを傍に置いて過ごし、しかし今回初めて長い時間離れ、そして再会を果たした二人。自然と笑みが浮かびながら、見つめ合う。


「……ただいま、ユーリカ」

「おかえり、フリードリヒ。無事でよかった」


 抱き合いたい欲求を抑え、今は互いの手にそっと触れるだけに留めながら、言葉を交わす。指先から伝わる彼女の体温が、フリードリヒに帰還の実感を与えてくれる。


「こっちも変わりなかったよ。カサンドラもずっと元気。でも、何度かお父さんに会いたがって泣いてた」

「そっか、寂しい思いをさせてしまったみたいだね……事後処理が終わったら、しばらく休暇になる。家族でゆっくりしよう」


 フリードリヒの言葉に、ユーリカも頷く。

 この国と、ホーゼンフェルト伯爵家。そして愛する我が子。二人それぞれのかたちで守るべきものを守る。ユーリカとの誓いを果たしたフリードリヒは、こうして平穏の中に戻っていく。

ここまでが第六章となります。お読みいただきありがとうございました。

不定期にはなりますが、今後も後日談などを更新していければと思っています。


現在は『ウィリアム・アーガイルの憂心 ~脇役貴族は生き残りたい~』を定期更新中です。

よろしければこちらもご笑覧ください。


また、好評発売中の『フリードリヒの戦場』書籍版や、進行中のコミカライズについてもよろしくお願いいたします(コミカライズの開始時期について、情報解禁がされ次第こちらでまたお知らせします)。


引き続き、作家エノキスルメの活動にお付き合いいただけますと幸いです。

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― 新着の感想 ―
『ウィリアム・アーガイルの憂心 ~脇役貴族は生き残りたい~』 こちらに全力を注いでほしい。とても面白く読ませてもらってます。 もしフリードリヒも書き続けるなら、こんな後日談ではなく本気で書いて欲しい…
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