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フリードリヒの戦場【書籍化】  作者: エノキスルメ
第一章 それが運命と知っても尚

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第17話 座学の時間(地図再掲)

説明メイン回です。

地理の話が出てくるため、エーデルシュタイン王国周辺の地図を再掲します。


挿絵(By みてみん)

 軍人になるための訓練は、身体を動かすことばかりではない。座学も必要となる。

 頭を使って働くことを期待されているフリードリヒの場合は、むしろこの座学の方が重要と言ってもいい。

 士官として一通り必要な知識を持っているグレゴールが、この座学でも教官を務めてくれる。


「……お前は本当に、頭は良いな」


 フリードリヒとユーリカがホーゼンフェルト伯爵家の屋敷に来ておよそ一か月。屋敷の一室で黒板を前にしながら、グレゴールは少々呆れ気味に言った。


「僕の唯一の取り柄ですから」

「ふんっ、生意気な口を」


 少し誇らしげな顔でフリードリヒが答えると、グレゴールは顔をしかめる。

 今日までに教えられた知識については、フリードリヒは既に諳んじられる。実際に、今グレゴールが試すように質問をたたみかけてきたのに対し、全て完璧に答えきったところだった。


 まず、王国軍人になる上で当然知っておくべき、最も基礎的な事項。

 このエーデルシュタイン王国は、西部統一暦の八二〇年に初代君主であるヴァルトルーデ・エーデルシュタイン女王によって建国された。

 統一暦一〇〇七年、建国から一八七年を迎えた現在は、第十二代国王ジギスムント・エーデルシュタインが治めている。彼はこの国の君主であると同時に、エーデルシュタイン王国軍の総指揮官でもある。

 尤も、ジギスムントは二年ほど前より病を抱えており、病状については秘密とされているが、表舞台に出てくることは既にほとんどない。そんな彼に代わり、弱冠二五歳の王太女クラウディア・エーデルシュタインが専ら国政の実務を担っている。

 王国の領土があるのは、ルドナ大陸西部の東側。西には係争中のアレリア王国が、北にはノヴァキア王国が、そして東には友好国リガルド帝国が隣国として並んでいる。

 王国の国教は、大陸で広く信仰されているアリューシオン教。空と大地と海を作り出した唯一絶対の神を信仰し、預言者アリューシオンの教えに従う一神教。ただし現在の王国において、宗教勢力の政治的権力は無いに等しい。


 次に、この国の軍制について。

 エーデルシュタイン王国の常備兵力は、王家の軍たる王国軍と、その補助戦力である貴族領軍から成っている。

 王国軍の基幹を成しているのが、三つの連隊。それぞれがかつて大きな功績を残した君主の名をとり、アルブレヒト連隊、ヒルデガルト連隊、フェルディナント連隊と名付けられている。

 それぞれの連隊の役割も概ね定まっており、ヒルデガルト連隊は西部国境の最重要地帯であるベイラル平原の防衛を、フェルディナント連隊は臨機応変な機動防御を、アルブレヒト連隊は万が一敵軍に国境を突破された際の国内防衛を主な任務としている。

 一個連隊の編成は、歩兵六百人と弓兵三百人、騎兵百人。歩兵と弓兵はそれぞれ三百人の大隊、百人の中隊、三十人強の小隊に分けられる。騎兵のみ、百人で大隊、三十人強で中隊、十人前後で小隊を構成する。

 士官とされるのは、歩兵と弓兵の中隊長以上、そして騎兵。士官とはすなわち叙任を受けた騎士であり、歩兵と弓兵の中隊長以上も、原則として騎乗の資格を持つ下馬騎士が務める。

 これら一千の兵力に加え、連隊長とその副官、直衛と伝令などを担う騎士が数騎、医師、従軍司祭、書記官、王家お抱えの戦場画家や吟遊詩人などで連隊本部が作られる。さらに必要に応じて、王家から派遣された官僚、連隊長個人の子弟や家臣などが幕僚を務めることもある。

 歩兵に比して弓兵や騎兵の数が多い編制なのは、この連隊が常備軍であるため。必要に応じて、ここに平民からの徴集兵を歩兵として加える想定がなされている。実際に、ベイラル平原に接する王家直轄領においては、ヒルデガルト連隊がいつでも千人規模の徴集兵を招集できる体制を整え、国境を守っている。

 これら三つの連隊以外にも、王家直轄の部隊として、王族の身辺警護や王城の警備、王都の防衛を担う近衛隊五百人が存在する。さらに、入隊予定者による訓練部隊(これは王都防衛の予備戦力も兼ねる)と、輜重任務などの後方支援を担う輸送部隊も置かれている。


 連隊を基幹とする現在の部隊編成になったのは、今から二十年ほど前のこと。それまでは各兵科がそれぞれ部隊を形成していたが、当時の西の隣国ロワール王国と国境である山脈の切れ目で戦うには効率が悪かったため、王国軍は各兵科をまとめた千人規模の部隊へと再編された。

 この画期的な改革の結果、エーデルシュタイン王国はロワール王国との戦いを有利に進め、最後には会戦で大勝利を収め、改革を成したジギスムントは名君として国内外に名を馳せた。複数の兵科が連なる「連隊」という名称も、彼によってつけられた。


 このように、正規軍人による常備軍だけでも総勢四千人ほどを有する王家に対して、領主貴族たちの有する戦力は少ない。

 貴族領軍の規模は数十人からせいぜい二、三百人程度。男爵領では常設の領軍を廃止している領地も多い。領軍の内実も、士官は職業軍人が基本だが、兵士は半農の場合が多い。

 唯一、王国北西の要衝に領地を持つバッハシュタイン公爵家のみ、やはり大半が半農とはいえ千人規模の領軍を維持している。

 これら貴族領軍の総兵力は、三千にも届かない程度。その役割は専ら領内の治安維持や戦時の予備戦力であり、国境地帯のいくつかの貴族領のみが、今も国境防衛の一部を担っている。

 また、王国内には傭兵もいるが、数はさして多くない。六年前にロワール王国が滅び、新たに隣国となったアレリア王国とは小規模な国境紛争しか起こっていない現在、大規模な傭兵団は仕事を求めて他の国々に移動している。


 こうした概要を軸に、より細かい事柄についても、フリードリヒは着実に体系的な知識を増やしている。


「ねえグレゴール先生。私は優秀ですか?」

「誰が先生だ。様をつけるか、従士長と呼べ……お前は一戦士としては十分以上に賢いが、士官としては並み以下だろうな。士官、すなわち騎士ともなれば、代々が軍人の家系の者ばかりだ。貴族やその直臣の家系の者も多い。多少読み書きと計算を仕込まれた孤児上がりではそうそう敵わん。フリードリヒが別格なだけだ」


 ユーリカがふざけ半分に手を挙げながら尋ねると、グレゴールは顔をしかめながら説明する。


「ふうん、そうなんだ」

「何だ。お前は隊長にでもなって部隊を率いたいのか?」

「絶対に嫌です。フリードリヒから離れたくない」

「そうだろうな。であれば、頭の良さはそこまで重要ではあるまい」


 やれやれと首を振り、グレゴールは授業を再開した。

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