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フリードリヒの戦場【書籍化】  作者: エノキスルメ
第六章 かつて我々は敵だった

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第184話 シャテルロー要塞攻防戦③

 城門から打って出てきたアレリア王家の軍勢は、総勢で千数百ほど。数としてはさしたる脅威ではないが、要塞に籠る敵のうち死傷者を除いた残存兵力は推定で二千五百程度であることを考えると、そのうち半数を攻勢に投じるというのはなかなか思い切った決断と言える。

 城壁の守りが薄くなることを厭わず、多くの戦力に会戦の用意をさせ、エーデルシュタイン王国の援軍が優勢になると同時に出撃する。まるで、援軍が数の不利を乗り越えて必ず優勢になると信じていたかのような行動だった。数年前までは敵同士だった異国の援軍を、よくぞそこまで信用できたものだとヨルゴスは考える。


「とはいえ、二倍以上の戦力差を覆せるとは思えないが……」


 ヨルゴスは独り言ちながら、シャテルロー要塞の前でくり広げられる戦いに注目する。

 打って出てきたアレリア王家の軍勢は、ヨルゴスが要塞に対峙させていた三千の部隊と、真正面から激突した。

 数では不利な敵側だが、その多くは職業軍人であり、おまけに前衛を担っているのは比較的重装備の将兵。先頭集団に至っては、準備のいいことに盾まで装備している。質の有利を活かし、脆弱な民兵が大半を占める三千の部隊と見事に拮抗してみせる。


 さらに、要塞の城壁上からは、敵の弓兵たちが援護に出る。高所の有利を活かした射撃は、極めて有効な援護となって打って出た軍勢の戦いを助ける。対するこちらの部隊、総勢三千のうち、ほとんどは単なる歩兵。弓兵は少数であり、城壁の胸壁に身を隠しながら射撃を行う敵弓兵たちに対して有効な攻撃はほとんど行えない。打って出てきた軍勢に対しても、こうも肉薄されては曲射で攻撃することも難しい。

 後衛を迅速に動かし、打って出てきた軍勢を包囲するなりできればまだ戦況も変わるだろうが、所詮は部隊行動もままならない民兵たち。複雑に動かすのは難しい。おまけに、要塞と対峙する三千を率いているのは、反乱軍の指揮官である実戦経験を持たないカルーナ貴族。将不足なため、家格とヨルゴスへの忠誠心だけは確かな貴族にあの部隊を任せているが、このような状況で臨機応変に対応できるとは、ヨルゴスも端から期待していない。


 結果として、要塞に対峙する三千の部隊は、数の差もあるので敗けることはないだろうが、押し勝つこともできない。そう思っていると、また状況が変化する。


「……騎兵部隊を出せ。要塞から出てきた敵騎兵部隊を撃破しろ」


 ヨルゴスが命令しながら睨むのは、シャテルロー要塞から新たに打って出てきたアレリア王家の軍勢の騎士たち。数では百程度だが、それでも陣形側面への騎乗突撃をまともに受ければ、民兵がほとんどであるこちらの兵力三千が丸ごと壊走しかねない。

 そのような事態を防ぐため、ヨルゴスは本陣から虎の子の騎兵部隊を投入する。騎兵戦力の不足している自軍において、騎乗戦闘を行える者をかき集め、編成した二百騎の騎兵部隊が、アレリアの騎士たちを討つために本陣の傍からシャテルロー要塞の方へと出撃していく。

 と、その直後。


「陛下! 敵援軍の騎兵部隊が、こちらへ向けて動き出しました!」


 突然の報告にヨルゴスが右を向くと、ザテッドの率いる部隊がエーデルシュタイン王国の援軍の本隊によって釘づけにされているその横を通り、騎兵部隊がこの本陣を目指して前進している。その数はおよそ二百。丘を下りながら加速し、突撃の姿勢を見せている。

 アレリアの騎兵部隊が動き、こちらが対応のために騎兵部隊を出し、本陣にまとまった騎兵戦力がなくなったのとほぼ同時の行動。まるで、友軍であるアレリア側の動き方を事前に知っていたかのような、息の合った攻勢。


「……ちっ」


 鷹も伝令も狩り殺した。両部隊の指揮官は意思疎通も満足にできていないはず。そのはずなのに、どうしてファルギエール伯爵もホーゼンフェルト伯爵も、互いの作戦を知っているかのような連携をとって戦える。見逃した伝令でもいたのか。


「長槍部隊を出せ! エーデルシュタインの騎兵部隊は戦場を大回りで迂回している! 対応の時間はある! 落ち着いて槍衾を組ませろ!」


 エーデルシュタイン王国の騎兵部隊は、こちらの布陣の隙を突く奇襲のつもりなのか、ザテッド率いる部隊を大きく迂回して進撃してくる。それに対し、ヨルゴスは本陣予備から迎撃のための兵力を動かす。

 その数はおよそ五百。装備させているのは、成人男性の平均身長の倍以上もある長槍。

 多くは民兵だが、整列して槍衾を構築する訓練だけは、シャテルロー要塞包囲戦の間に散々させておいた。なので、五百の部隊は比較的迅速に隊列を組み、槍衾で騎乗突撃を迎え撃つ。


 戦場において騎乗突撃は最大の破壊力を誇る攻め手だが、密度の高い槍衾はそれを撃破することはできずとも、押し止める程度は可能。敵騎兵部隊の足さえ止めれば、さらに本陣予備を投入し、長槍兵部隊と共に包囲してしまえばいい。

 そうして敵騎兵部隊を殲滅した後は、その兵力をザテッドの部隊の救援に向かわせる。エーデルシュタイン王国の援軍、その本隊の側面を突き、壊走に追い込む。

 そして最後に、無謀にも要塞から打って出たアレリア王家の軍勢をやはり側面から攻撃し、打ち倒す。要塞に残る敵兵力は少なく、士気も壊滅的に落ちるはず。後は数に任せて陥落させてしまえばいい。

 まだ勝機は十分にある。そう考えながら、ヨルゴスが本陣予備をさらに動かすために新たな命令を発しようとしたそのとき。


「……何だあの攻撃は!」


 エーデルシュタイン王国の騎兵部隊の動きを睨んでいたヨルゴスは、突然の戦況の変化に思わず声を上げる。

 騎兵部隊の先頭集団が、何かを構えるような動きを見せたかと思うと、次の瞬間には彼らの手元から何かが飛んだ。直後、槍衾を構築していた長槍兵の隊列中央が崩れた。長槍兵たちが頽れる様を見て、敵騎兵部隊がクロスボウのような投射兵器を使ったのだと分かった。

 崩れて強度を失った槍衾は、エーデルシュタイン王国の騎兵部隊の突撃を押し止められない。隊列に大穴を開けられ、あっさりと敵の突破を許してしまう。


・・・・・・


 エーデルシュタイン王国軍フェルディナント連隊、アレリア王国軍、そして貴族領軍や傭兵などから成るおよそ二百の騎兵部隊は、敵本陣より進み出てきた長槍兵部隊を容易に突破した。


 リガルド帝国の漆黒弩を解析し、複製したエーデルシュタイン王国製の小型クロスボウ。漆黒弩を完全には模倣できていないために性能の面では劣るが、それでも軽装の民兵を相手取るには十分な殺傷力を持つ。

 突撃の先頭を担うフェルディナント連隊騎士たちが馬上から放った数十の矢は、槍衾の中心を崩す。鎧などないに等しい民兵たちは、クロスボウの矢を受けてばたばたと倒れる。

 槍の穂先がこちらを向かず、密集もしていない槍衾では、騎乗突撃の脅威にはなり得ない。フェルディナント連隊を率いるオリヴァーを先頭に、二百騎は容易く敵の長槍兵部隊を突破する。


「このまま突き進め! 敵本陣は近いぞ!」


 オリヴァーの呼びかけに、連隊の騎士たちは力強く応えながら隊列を動かす。長槍兵部隊を突破するための密集隊形から、敵本陣を蹂躙するための横隊に変わる。


「道を切り開いた友軍に続け! アレリア王国騎士の誇りを見せろ!」


 さらにその横へ、マチルド・アランブール女爵の率いるアレリア王国の騎士たちも並ぶ。その他の騎士たちも後ろで横隊を作り、ヨルゴスの軍勢の本陣を面で制圧せんと迫る。


・・・・・・


「ちっ……ふざけた真似を」


 ヨルゴスは苛立ちを隠せず、悪態をつく。

 長槍兵たちは役に立たず、エーデルシュタイン王国の騎兵部隊は未だ迫ってくる。アレリア王家側の騎兵部隊は、こちらが迎撃に送り出した騎兵部隊と接触する前に後退し、自軍の側面防御に回っている。そのせいで、こちらの貴重な騎兵二百は、本陣とシャテルロー要塞の間で一時的に遊兵と化している。ザテッドの部隊と、要塞に対峙させている部隊は、目の前の敵と戦うので手一杯なのでとても動けない。

 動かせる兵力は、手元に残る予備兵力の残りおよそ八百のみ。その八百人に向けて、ヨルゴスは呼びかける。


「『カルーナの顎』の戦士たちよ!」


 ヨルゴスにとっては、共に長年戦ってきた子飼いの部下たち。私兵集団「カルーナの顎」の一千のうち、ザテッドの部隊や騎兵部隊に回した者を除く八百人。皆、頼りになる精鋭。


「私が悲願を叶え、真にカルーナの王となるまであと一歩だ! 勝利の後、お前たちには莫大な褒美を与えよう! 全員に金と土地と地位を与えよう! たとえ死んだとしても、その者の家族に同じ褒美を与えると約束しよう! 我々の覇道を邪魔しようとする、あの敵部隊を打ち破れ!」


 ヨルゴスの命令に、「カルーナの顎」の戦士たちは雄叫びで応えた。彼らは迫りくる敵騎兵部隊に向けて駆け出し、その突撃を迎え撃とうと並ぶ。怯え逃げ出す者はいない。

 こいつらならば、騎兵部隊が相手だろうと止めてくれる。こいつらに止められないのであれば、自分も敵の突撃に飲み込まれ、夢破れて死んでも構わない。

 そう考えながら、ヨルゴスは敵騎兵部隊を睨む。

 敵の二百騎は疾走を続け、その突撃を受け止めんと立ちはだかる「カルーナの顎」の戦士たちに迫り――そして、接触する前に突撃を止め、旋回する。


「……何故だ」


 唖然として、ヨルゴスは呟く。

 そして視線を巡らせると、敵騎兵部隊とは別の位置から、敵本陣の騎士たちがこちらへ迫ってくるのが見えた。

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