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単発系その他

銃刀砲ノ異藩 ~分かたれた藩の集結

作者: 神離人

 昼の日差しの中。

 あるカフェの店内にて、侍とガンマンの乱闘騒ぎが勃発していた。

 藩カフェと呼ばれるその店は、銃藩と刀藩の境界線上に建てられた役人専用カフェである。

 侍とガンマン。

 性格も文化もまったく合わない役人が同時に出入りする為、店内での喧嘩は日常茶飯事であった。


 役人同士が素手で殴り合う中、コーヒーを手放さない男がいた。

 銃藩リーダーの"銃五郎"である。

 ガンマンを統べる立場にあるこの男は、喧嘩を止めることなくコーヒーを口にしている。

 そして、コーヒーの温かみに頬を緩めるのである。


「何笑っておるんじゃお主はっ!」


 店内に、喧嘩の騒音をかき消すほどの怒声が響き渡る。

 声の主は、銃五郎の胸倉を掴み上げている。

 刀藩リーダーの"刀馬"である。

 銃五郎のコーヒーを奪い飲み干すと、刀馬は叫んだ。


「銃五郎! お主は藩主だろう! なら部下の争いをなぜ止めぬのだ!」

「刀藩の坊やか。今日もご機嫌斜めのようだ」

「誰が坊やだっ! お主より5つ上じゃ老け男!」

「それよりも」


 刀馬の顔を押し退け、銃五郎はそこで言葉を止める。

 空のカップを席に置く。

 自分のコーヒーを飲んだ男に対して、ガンマンは呆れを感じていた。

 銃五郎は言葉を続ける。


「あんた、コーヒーは克服したのかい」

「こんなもの拙者にかかれば! うぷっ」


 突如顔を青くして、刀馬は床に倒れ伏す。

 彼はコーヒーに免疫がなかった。

 一口飲めば、味に耐えられずに意識を失う。

 そんな男がカップ一杯を一気飲みしてしまったのだ。

 倒れるのも当然であった。


 そんな光景を見て、刀藩の新人が声を上げた。


「若君が毒を盛られたーっ! いてっ」

「バカ言ってないで逃げろ! 若君が吐くぞ!」


 刀藩のひとりが新人を小突いて出ていく。

 続くように他の侍たちも足早に店から撤退する。

 主を置いて撤退する侍に動じる者はいない。

 この場の多くの者は、この後何が起こるか見当がついていた。


「お、俺らもヤバくね!」

「ひいっ! 吐しゃ物の洪水で流されるのはごめんだ!」

「お頭ぁ! あんたも急いだほうがいいぜ!」


 ガンマンたちやカフェ店員も外へ逃げる。

 カフェ内には、銃五郎と刀馬だけが残された。

 銃五郎は椅子に座る。

 しばらくの沈黙の後、倒れている刀馬に呼びかけた。


「用件はなんだ。吐く感じではなさそうだが」

「うっぷ。お主に話があってな。貢物の件だ」

「幕府が徴収しているあれか」

「ああ。役人が税の何倍もの財産を徴収しおった。民のいくらかは命を断った!」

「しーっ」


 銃五郎は、声を荒げる刀馬の口を塞ぐ。

 コーヒーで気絶してまで頼みたい用事とは何か、

 銃五郎には見当がついていた。

 他人に聞かれてはならない頼みだとも理解していた。


「銃五郎。拙者たちと共に幕府を乗っ取らんか」


 銃五郎の対面に座り、刀馬は用件を言う。

 幕府の乗っ取りは重罪であるが、

 刀馬は一切の躊躇なく銃五郎を誘ったのだ。


 刀馬は、民衆の為にこれから罪を犯す。

 刀馬は、民衆の為にこれから巨悪と戦う。

 刀馬は、密告を恐れずに今、内情を明かした。

 正面の男が有する光のような魅力に、銃五郎はわずかに心惹かれていた。


「あんたは立派だ。眩しすぎるくらいにな。だが」

「だが?」

「お人好しが過ぎる。いいか坊や。あんたは話しすぎだ。俺のような人間を信用するな」

「ほう。ならお主、幕府に報告でもするか?」


 刀馬は笑みを浮かべながら刀を握る。

 同時に、銃五郎も拳銃を手にしていた。

 しかし、互いに腰の武器を相手に向けることはない。

 両者共が後出しで勝てる自信を持っていた。


「俺は俺のやり方でやる。組む気はない」

「何じゃ。お主もお喋りじゃないか」

「不都合なら消すかい。銃藩なら常套手段だ」

「物騒じゃな。辞めた辞めた。共通の敵がいるなら味方じゃあ」


 刀馬は銭を並べて、店を出る。

 銃五郎が目の前に並べられた銭を見ると、

 "10分後に発つ"という文章が銭で表現されている。

 幕府へ向かう時刻のことだと、銃五郎は理解した。

 

「人が良すぎるぜ。互いにな」


 銃五郎はテーブル上の小銭をかき混ぜる。

 乱雑なコーヒー代を背に、銃五郎も店を出るのだった。



----------



「旦那ぁっ!」


 店を出た銃五郎を、ひとりの男が呼び止めた。

 男は馬に乗り、銃を携えている。

 男は銃藩の一般市民であった。

 銃五郎の返事を待つことなく、男は言葉を続ける。

 

「聞いたぜ。あんた幕府を倒すんだってな!」

「なにっ。どこでそれを」

「刀藩の奴らを襲おうとしたら耳にしたんだ!」

「お頭! 俺たちもいるぜ!」


 銃五郎の元へ、続々と馬に乗ったガンマン達が集まる。

 銃藩のガンマンたちも数多く混じっている。

 全員が血気盛んな目で、互いの熱を感じ取っていた。

 貢物への不満と、銃五郎への対抗心が、幕府への怒りの火を燃え上がらせていた。


「お頭! あんたの獲物は俺が頂く!」

「手柄は早い者勝ちだよなぁ!」

「旦那! 俺は幕府に財産を取られたんだ!」

「何か取られたら命を取る! 銃藩の常識だぜ!」

「先行くぜ! あばよーっ!」


 一人が幕府へ向かうと、他のガンマンも我先にと後へ続く。

 嵐のような騒ぎが去った店前で、

 銃五郎は遠ざかっていくガンマン達を見送る。


「ふっ。俺も覚悟を決めるか」


 ガンマン達とは逆へ向かう銃五郎。

 幕府と逆方向には駅があった。

 汽車であれば、馬も乗れるし馬より早く幕府に着く。

 銃五郎は駅へと向かった。



----------



 藩カフェ近くの自宅から馬を連れ出し、

 銃五郎は駅へとやってきた。

 駅員に馬を預けた後、汽車に乗り込む銃五郎。

 指定された席に行くと、見知った顔が隣席に居た。


「おお銃五郎! お主も来おったか!」


 隣席には刀馬が居た。

 汽車内の他の席には、刀藩の侍たちも乗っている。

 刀藩のメンバーは汽車で幕府へ向おうとしていた。

 銃五郎は指定席に着く。

 

「坊やか。相変わらず連れが多いな」

「当たり前じゃあ。お主こそ単騎で幕府を落とす気か?」

「当然。個の力こそが数を凌駕する」

「バカ言え。何十人も倒せる怪物などおるものか」

「いるさっ!」


 険しい顔で声を荒げる銃五郎。

 発車アナウンスが流れ、汽車が動き出す。

 車体が揺れる頃には、男は冷静さを取り戻していた。

 しばらく窓の外を眺めて、銃五郎は口を開く。


「俺の古傷……坊やに話していいかい」

「聞くぞ」

「ああ。かつての俺は傭兵だった。

 雇われガンマンの部隊で戦果を挙げる日々。

 仲間も気のいい奴らだ。

 間違いなく最高のチームだった。


 だがある日、上官が何かに目覚めた。

 敵国の民から必要のない略奪を始めたんだ。

 奴は民の不満を高め、

 無防備に1人街中を出歩き、自らを襲撃させた。

 無論、奴に勝てる者などいなかった。

 民が命を落とす日々が続いた。


 俺たちチームは上官に着いていけなかった。

 かつての仲間の変わり様に、

 俺を含む何人かはチームを抜ける準備をしていた。

 だが、一手遅かった。

 奴の矛先はついにチームに向いたんだ。


 俺たちチームは一丸となり、奴に抵抗した。

 最高の傭兵チームならば、

 上官1人を撃ち抜くなど容易いと信じていた。

 結果は惨敗さ。奴は恐るべき力を秘めていたんだ。

 銃弾と俺たちは吹き飛ばされた。


 かろうじて直撃を免れた俺は生き残ったが、

 直撃した仲間たちは……」

「お主にそんな過去が……」


 かつて最高のチームで挑み、敗北した銃五郎。

 そのショッキングな出来事は、心の古傷として彼を蝕み、

 自らだけを守る極端な個人主義へと引きずり込んだ。

 銃五郎が組むのを嫌うのは、その名残である。

 

 もし今、銃五郎が銃藩リーダーでなければ、

 あるいは、銃藩リーダーとしての使命や責任がなければ、

 貢物だけで幕府に喧嘩を売るなどしなかった。

 無法地帯の銃藩リーダーらしく、民から巻き上げればいいのだ。

 銃五郎の心はまだ、無法に染まりきってはいなかった。



----------



 リーダー2人と刀藩メンバーが汽車から降りる。

 幕府のある街、砲町。

 街中のいたるところで諦めと悲しみの声が上がっている。

 取り立てをする砲藩の役人でさえ、顔色は優れない。

 砲町の状況は、銃藩の街中よりも酷い惨状であった。


「これが砲藩の収める街だと。貢物を集める役人ですら顔色が悪い」

「皆苦しいのだ。お主の藩だと実感がなさそうだが。藩は公務員。公務員はお上に逆らえん」

「砲藩の最強武力でもダメなのか」

「使い手は人間だ。拙者達のような反旗を翻す主導者。それが砲藩にはおらん」


 刀馬の言葉で、銃五郎は銃藩での出来事を思い出す。

 リーダーの自分が幕府に立ち向かうと聞き、

 銃藩の住人や役人たちは幕府へ反旗を翻したのだ。

 数時間前の体験もあり、銃五郎は刀馬の話に納得していた。


「さて。お前たちに話がある」

「どうしました若君」

「銃藩連中がここへ馬で向かっておる。砲藩の迎撃を止めてくれ」

「はっ。では我らは砲撃部隊を狙います」


 刀馬の指示を受け、侍たちはすぐに移動を始める。

 伝令後の手際の良さに、銃五郎は感心していた。

 伝令が早さと、砲藩に対する理解がなければ迅速に動けない。

 刀藩の団結力と計画への柔軟さが、素早い行動を可能にしていた。


「手際がいいな」

「拙者たちも負けるわけにはいかん。我らが狙うは本命よ」

「本命……。保安官か」

「ああ。幕府直属の役人……保安官10人衆。奴らが幕府の実権を握っておる」


 銃五郎も保安官の話は知っていた。

 銃藩リーダーに任命された際に聞かされたからだ。


 幕藩体制移行時に、藩ごとに武器を定め、

 砲藩を支配下に置くことで幕府に逆らう班をなくす。

 格差を設けることで、ヘイトを幕府以外の強い藩へと向ける。

 これらが保安官のやり方であった。


「しかしなぜだ。なぜ保安官は今更、自らの地位を危うくする真似を?」


 銃五郎はふと疑問に思う。

 幕府の貢物のやり方は、頼みの砲藩すら敵に回す行為である。

 刀馬は公務員だから逆らわないと話していた。

 だが生存に目ざとい銃五郎には、

 リスクを冒してまで貢物を集める理由がある気がしてならなかった。



----------



 2人は幕府の城内に侵入した。

 刀馬の事前調査もあり、2人は難なく目的の広間に到達する。

 中では保安官たちが会議をしており、

 幕府内のシフト表を予め把握していた刀馬は、会議中の襲撃を狙っていた。


「よいか。保安官達はこの中じゃあ」

「大砲の弱点は機動性だ。速攻で決めるぞ」


 ふすまを開け放ち、突撃する刀馬!

 刀馬を避けるように保安官に発砲する銃五郎!

 銃五郎のリボルバー銃弾は、

 6人の保安官の頭を的確に捕らえていた!


「ぐああぁっ!」

「曲者!」


 4発の銃弾は、保安官4人を奥の部屋へ吹っ飛ばした!

 しかし、残りの2発は外れてしまった!

 標的2人が自ら宙へ跳んだため、

 銃弾は保安官に当たらず、壁やふすまに弾かれてしまった!


「避けただと! うぐっ!」


 外した弾が跳弾し、銃五郎の肩に直撃した!

 銃弾はぼとりと地面に落ちる。

 膝を崩す銃五郎。 

 人を吹っ飛ばす威力の銃弾を受け、

 銃五郎の肩は悲鳴を上げていた!


「銃五郎!」

「よそ見してていいのかい!」

「なっ」


 銃五郎に気を取られた刀馬の前に、

 宙から降り立った2人が立ち塞がる!

 保安官2人は大砲を大きく振りかぶり、

 刀馬の上半身と下半身にそれぞれ叩きつけた!


「喰らえ曲者!」

「保安ショット!」


 爆発するような打撃音と共に刀馬は吹っ飛んだ!

 保安ショットが直撃したのだっ!

 大砲での直接攻撃が想定外だった刀馬は、

 防御も間に合わず、広間の天井に叩きつけられてしまう!

 

「がはぁっ!」

「ぐっ。坊や……!」


 肩を押さえながら銃五郎は銃口を向ける。

 しかし、刀馬を吹っ飛ばした保安官2人は後退しており、

 後ろの保安官4人と合流してしまった!

 銃五郎と保安官6人は離れた位置で対峙する。


「やってくれたな曲者! 不意打ちで4人も!」

「待て。お前まさか、銃五郎か!」

「なに。その声は……、砲八!」


 保安官の1人を指さし、銃五郎は名を叫んだ。

 砲八と呼ばれた保安官は、一歩前へ出る。

 砲八は、傭兵時代の銃五郎とチームを組み、

 上官に裏切られた1人であった。


「やってくれたな銃五郎。やはりお前はチーム最強の男だ」

「砲八。他のメンバーは無事なのか」

「他の4人は、お前が今吹っ飛ばした!」

「なにっ」


 銃五郎が奥の部屋を見ると、見覚えのある顔が倒れていた。

 傭兵時代の仲間達である。

 4人全員、額に銃五郎からの銃弾を受け、意識を失っていた。

 しばらくは再起不能である。


「生きていたか……! よかった!」

「だが銃五郎。お前が最強なのは過去の話。今の俺には勝てまい!」

「よせ砲八……! お前と争うつもりはない」

「ならばなぜ現れた! やるぞ癖男!」

「曲者に容赦はせぬ! 覚悟っ!」


 砲八と癖男は跳び、宙で大砲を構える!

 砲八の脚力は、銃五郎と組んでいたときの数倍であった。


「「保安ショット!」」

「くっ」


 着地と同時に、保安ショットが銃五郎を襲った!

 銃五郎は銃撃で相殺を狙うが、

 大砲の直接攻撃によって銃弾は弾かれてしまう!

 2つの大砲が銃五郎に迫っていく!


「邪魔じゃお主ら! 退かぬかぁ!」


 しかし、保安ショットは破られた!

 銃五郎を押し退け、刀馬が攻撃を防いだからだ。

 2つの大砲を刀で受け止め、力で押し返す!

 そのまま力を振り絞り、刀馬は刀を振り切った!


「これが拙者の刀術じゃあ! 消し飛べーっ!」

「げっ」

「バカな!」


 刀馬は気合いで、大砲を持ち主ごとぶっ飛ばした!

 新技"フルパワー刀馬撃"が炸裂したのだ!

 更に飛ばされた保安官2人が、後方の保安官4人を撥ね飛ばす!

 刀馬の一撃により、保安官6人は意識を失うのだった。



----------



 銃五郎と刀馬は、保安官10人衆を捕らえた。

 気絶していた者も目を覚ましており、

 傭兵だった頃に銃五郎と組んでいた保安官は、

 かつての仲間の登場に驚いていた。


「なぜ来たのです銃五郎。幕府に愛想が尽きましたか」

「そうだ砲丸。心当たりはあるだろう」

「やはり……貢物ですか。やり過ぎましたね」

「違う砲丸。あれは仕方なかったわ!」

「どういうことだ砲子」


 銃五郎の言葉に答えず、砲丸と砲子は俯く。

 しばらく沈黙が続いた後、

 隣で縛られていた砲八が答えた。


「貢物はな! 民の平穏のために執行したのだ!」

「バカな。民が命を断つような貢物だぞ」

「銃五郎! 事態は既に最悪なのだ!

 俺たち傭兵がなぜ!

 保安官の地位に就けたと思う!」

「……」

「この国は既に、"無法大王"の手に落ちたのさ!」

「な、なんだと……!?」


 無法大王の名が出た途端、銃五郎の顔色が変わる。

 かつて仲間を裏切り、

 銃五郎達の傭兵チームを1人で壊滅させた上官。

 その上官の呼び名こそ、"無法大王"であった。


「俺たちは無法大王に敗れた後、

 奴の部下になった。

 無法大王が国相手に暴れる気でいたから、

 言いくるめて抑制するためにな。


 だが、奴はついに幕府に乗り込み、

 上層部の人間を全て消し飛ばしたのだ。

 無法の力は凄まじかった。

 

 その後、無法大王は幕府のトップの座に就いた。

 俺たちは保安官に任命され、

 国の実権を任された。


 だが、上層部壊滅の事実は隠ぺいしたよ。

 無法の力を打ち破る手段がなければ、

 無駄な犠牲が出るだけだ!


 俺たちは保安官として奴に従いながら、

 必殺技の特訓に明け暮れたんだ!

 無法大王を討伐するためにな!

 その結果が、この有様だっ!」


 砲八、そして砲丸や砲子は涙を流す。

 無法大王の元部下として、

 彼を止められないことへの負い目であった。

 銃五郎も同じ気持ちである。


「くっ。無法大王。奴が元凶とは」


 砲八の語る幕府の内情を聞き、

 銃五郎は絶望も感じ取っていた。

 無法大王が生きていて、

 幕府を狂わせた元凶だからだ。

 銃五郎は、勝ち目が皆無だと確信する。


「一体どうすれば」

「聞いたぞ銃五郎! 黒幕が居るそうじゃな!」

「坊やか。そっちはどうだ」

「皆、無法大王を討たせろと言っておる。

 拙者は自分が恥ずかしい!

 保安官達の真意に気付けなかった!」


 歯を食いしばり、葛藤する刀馬。

 絆を信条とする彼にとって、

 同志を倒すことは許せない行為であった。

 保安官達を倒した事実は、刀馬を苦しめていた。


「状況的に仕方ない。

 それにまだ、保安官達を信じるべきかどうか」

「拙者は解放すべきだと思う。

 だが判断はお主に任せる。

 保安官達の言葉が真実かどうか!

 お主が、彼らとの絆で確認するのだ!」

「この期に及んで俺任せか。

 ふっ。あんたやっぱり甘々の坊やだぜ」


 呆れたように笑う銃五郎。

 刀馬の信頼を受けて、

 銃五郎の心から絶望が払拭されていく。

 いや、それどころか勝利への希望さえ宿っていた。

 改めて、無法大王を敵として討伐することを

 銃五郎は決意する。


 その後、銃五郎と刀馬は

 保安官達を解放するのであった。

 

 

----------

  


 味方となった保安官達と共に、銃五郎と刀馬は

 無法大王のいる上階へと向かっていた。

 皆の心はひとつであり、

 無法大王の討伐が目的であった。


「銃五郎。今の内に2つ話しておきたい」

「どうした砲八」

「まず1つ。お前を銃藩リーダーに任命したのは、

 ……無法大王だ」

「なんだと。なぜだ」

「奴曰く、お前は無法の才を秘めていると。

 恐らくは無法大王と同じ力だ。

 銃藩リーダーとして心当たりがあるはずだ」


 砲八の言葉に、銃五郎は心当たりがあった。


 銃五郎が銃藩リーダーになってから数年、

 銃藩は、藩全体の中でも特に無法地帯と化していた。

 刀藩などが移動に汽車を使うのに対し、

 銃藩が馬で移動するのは、彼らにとって汽車は襲う対象であり、

 移動手段ではないからである。


 銃五郎には無法の才能があった。

 傭兵時代のメンバーの中で、

 唯一保安官に選ばれなかった銃五郎。

 その理由は、彼の才能を無法大王が見抜いていたからだった。


「無法大王の意図はわからない。

 お前を恐れていたかもしれないし、

 お前を最強の無法戦士に育てたかったのかもしれない。

 だが、奴はお前を特別視していた!」

「何が言いたい、砲八」

「お前が無法大王を討ち取る肝だ!

 気合入れていけっ!」


 唐突な励ましの言葉に、銃五郎は心動かされた。

 数年間行方知れずのメンバーと、

 今ようやく心の底から再会できたように感じていた。

 しかし場所は敵地。銃五郎はあえて感情を飲み込んだ。


「……もう1つの話は?」

「もう1つは、無法大王のことだ。

 数年前、保安官10人衆で暗殺を決行したことがある。

 奴の寝込みを狙ってな」

「10人でか」

「そうだ。10人での連携技が奴の寝首に直撃した。

 だが傷一つ付かず、

 奴は、目覚めもしなかった!」

「なっ」


 砲八の言葉に、銃五郎は言葉を失った。


 10人という今とさほど変わらない人数、

 寝込みという最も隙が大きい状況下でありながら、

 無法大王には傷一つ付かなかったのである。


 ある種、今よりも好条件での暗殺失敗は、

 銃五郎の決意を鈍らせた。

 

「なら心配は要らんじゃろう!」

「……坊や」

「保安官共! お主らは特訓しておったんだろう!

 無法大王を打ち倒す……超必殺技を!」

「ああ、そうだ!」

「勝てる! お主らには銃五郎がおる!

 隙は、拙者が作ってみせる!

 幕府を民のための組織にするんじゃ! 必ずなっ!」


 刀馬は激励を飛ばしながら、

 無法大王のいる座敷、無法ルームへ飛び込んだ。

 中にいる人影を見て、

 刀馬はその人物が無法大王だと確信する。


「何と圧倒的なパワー!

 お主が無法大王だな!」

「ああ。吾輩に何用だ」

「息の根を止める! うおおおおぉっ!」


 無法大王は座敷に鎮座していた。

 駆け寄る刀馬に対して、動じる様子はない。

 刀馬は叫びながら刀を振り下ろした。

 首元狙いの奥義"秘剣・悪神ブレイク"で決めに掛かったのだ!


 しかし、刃は通らなかった。

 刀馬の全体重を乗せた一撃であったが、

 無法大王の皮膚1枚すら破ることはない。

 無法大王には通じなかったものの、

 大砲でさえ傷つかない畳が、必殺技で数センチ陥没する。


「何じゃと!」

「悪くない。並の威力ではない。

 巨大生物なら一刀両断できたろう!

 だが、無法大王には通じぬわああぁっ!」

「ぐああっ!」


 無法大王が勢いよく立ち上がる。

 しかしその威力は尋常なものではなく、

 刀馬は天井へと叩きつけられた。

 ここで初めて、刀馬は無法大王の全体像を目撃する。


 2メートルの背丈にごつい体、鋭い老け顔。

 身に着けている衣服はボロボロであり、

 汚れたシャツと軍用ズボンを着用している。

 刀馬が無法大王に抱いた印象は、

 傭兵らしい大男というものであった。

 

「どうした刀馬!」

「銃五郎! うおおおおおおぉっ!」


 駆けつけた銃五郎を確認し、

 天井を蹴る刀馬。

 蹴りと落下の勢いを利用し、

 無法大王の瞳に刀を突き立てた!


 しかし刀は無法大王に刺さらなかった。

 瞳は刀で突かれてもびくともせず、

 刀と刀馬を支えている。

 ただの突きなど無法大王に通じないのである!


「愚かな! 効かぬわ!」

「ちくしょう! お主ら、必殺技を撃てぇー!」


 刀馬が合図を出すと、

 銃五郎と保安官達は飛びかかった!

 狙うは無法大王の首である。

 頭上を見上げる無法大王は隙だらけであり、

 絶好のチャンスであった。


「くたばれ無法大王っ!

 これが俺達保安官の力だーっ!」

「うおおおおおおぉっ!」

「保安ショットぉっ!」


 保安官の一人、砲八の掛け声に合わせて、

 保安官達と銃五郎は必殺技を放った!

 4人の打撃、6人の砲撃、銃五郎の射撃、

 それらを一点にインパクトさせる必殺技、

 "保安ショット"が無法大王を襲った!


「ぬうっ!?」


 無防備な無法大王に

 必殺技は容赦なく直撃する!

 無法大王は吹き飛ばされ、

 背後の障子に叩きつけられた!


「吾輩を……押すかっ!」


 保安ショットは尚止まらず、

 無法大王ごと障子を破ろうと突き進む!

 大砲すら通さない強固な障子は、

 必殺技の威力を押さえきれずに変形していく!


「バカげた威力だ!

 吾輩の相手に相応しい!

 だが!」


 ここで無法大王が動いた!

 両足を地面につけ、必殺技に抵抗したのだ!

 無法ショットは押し返され、

 あっという間にパワーをかき消されてしまう。


「無法の力は無敵だっ!」

「バカな! 俺達の必殺技が!」

「止まっただと。保安官達の必殺技が……!」


 無法大王の力を前に、

 砲八と銃五郎は大きなショックを受ける。

 他の保安官や刀馬も

 動揺を抑えきれずに冷や汗を流している。


「保安官共。そして銃五郎!

 ようやく我が無法の力に歯向かうのか!

 精々、吾輩を楽しませるのだな!」

「無法大王……!」


 ついに無法大王と対峙する銃五郎。

 貢物を止めたい彼の前に、

 最大の障害が立ち塞がったのだ。


 保安ショットは容易く突破され、

 更に、無法大王には未だ傷一つ付いていない。

 銃も刀も大砲も通じない無法の力を

 未だに突破できていないのだ!


 銃五郎達は果たして

 無法大王を打ち破ることができるのか?


 銃五郎達と無法大王の最終決戦が、

 今、幕を開けた!



----------



「あんたが話を聞くとは思えないが、

 1度だけ忠告する。

 幕府から手を引け、無法大王……!」

「望みを叶えたければ、

 吾輩を消し飛ばすことだ!

 貴様達にその力があればな! 銃五郎!」


 無法大王は拳を顔前に掲げ、

 銃五郎の忠告を拒否する。

 この場の誰もが予想した通りの返答であった。


「戻れ保安官!」


 刀馬が無法大王から離れつつ叫ぶと、

 無法大王の傍に居た保安官達も後ろに引く。

 保安ショットで打撃を担当した

 4人の保安官達である。


 すると次の瞬間、

 無法大王の拳が突き下ろされた。

 真下に突き立てられた拳は、

 畳と床をぶち抜き、足場を一部崩した!


「うああっ!」

「な、何て威力だ!」


 保安官達は驚愕の声を上げる。

 今、無法大王が破壊した畳や床は、

 砲藩の大砲に耐えるように作られていた。

 先ほど、保安官ショットで変形した襖と

 耐久力はさほど変わらないものだ。


 しかし今、足場は崩れ去った。

 無法大王の打撃は

 保安ショットを遥かに上回る破壊力なのである。

 彼が恐ろしい力を持っていることを、

 保安官達は改めて思い知らされていた。


 そんな空気の中、

 刀馬は無法大王の突破を諦めていなかった。

 必殺技が通じない相手を打ち破る、

 限界を超えた超必殺技を考えていたのだ。

 それは己の身を犠牲にする、危険な大技であった。 


「拙者に提案がある。

 保安ショットを拙者に撃て!」

「な、何を言っているんだ侍!

 お前さん死ぬ気か!?」

「奴に攻撃を通すには、それしかない!」


 刀馬からの提案に、保安官達はざわつく。

 保安ショットは無法大王に通じないとはいえ、

 大砲10発を超える威力を有している。

 生身の人間が耐えられるものではないのである。


「坊や……、いや刀馬。

 仲間が戸惑えば失敗し、

 あんたが耐えねば失敗し、

 突きが通じねば失敗する。

 ……本当にいいんだな?」

「仲間、自分、敵!

 やる価値のある者ばかりだ!

 殺す気で撃てえぇーーーっ!」


 叫びながら刀馬は駆け出す。

 躊躇も戸惑いもなく挑んでいく侍の姿に、

 保安官達は奮い立った。

 無法大王を倒す心を取り戻したのだ。


 銃五郎は既に発砲していた。

 遅れて、保安官達は保安ショットを放つ!

 銃弾は刀馬を追い越し、無法大王へ向かう!

 砲弾は刀馬に迫っていく!


「ぐぅっ!」


 刀馬の背中に衝撃が走った!

 保安官達4人の打撃、6人の砲撃が、

 刀馬を背後から吹っ飛ばしたのだ!

 保安ショットで刀馬は加速していく!


 体内部の崩壊を感じながら、

 刀馬は前方の銃弾、そして無法大王を見据える。

 痛みを感じないほど集中し、

 まだ動く体で、渾身の一撃を繰り出した!


「うおおおおおおおぉっ!」


 1人の限界を超えた最高速度を纏い、

 刀馬は銃弾を突いた!

 刀馬の最高速度に突きが加わり、

 新たなる速度で無法大王を貫きに掛かる!


「ちっ小癪な」


 一方、無法大王は体勢を崩していた。

 先ほど床をぶち抜いた際、

 床と畳に腕がハマってしまったのだ。

 保安官達の能力を見誤ったために、

 必殺技を撃つ隙を与えてしまった!


 加えて無法大王は、

 目の前に迫る必殺技さえも軽視していた。

 何度か押されたとはいえ、

 未だに無傷という余裕ある結果が、

 無法大王に心の隙を与えてしまった!


「思い通りにはさせんぞ!

 無法大王ーーーっ!」

「うっ! ぐおおぉっ!?」


 銃藩、刀藩、砲藩の技が一つとなり、

 超必殺技"銃刀砲"が飛んだ!

 最高速度の弾となって、

 刀馬は無法大王の体を貫いた!


 銃弾、刀、刀馬。

 段階ごとに弾の破壊力は上がっていき、

 刀馬のとどめの一撃で無法大王を吹き飛ばす!

 背後の壁を消し飛ばし、

 刀馬と無法大王は城外へ突き進む。


「ぐおおおおおぉっ!」


 致命傷を受けたことで、

 無法大王の咆哮が藩全土を覆い尽くす。

 命を振り絞った咆哮に、

 砲藩の住民たちは何事かと空を見る。


「おおおおおおおぉ……!」


 幕府乗っ取りのために、

 馬で砲藩へ向かっていたガンマン達。

 彼らの元にも咆哮は届いていた。


 しかし距離の離れた藩からの咆哮は、

 一人が発したとは考えにくく、

 幕府乗っ取りの歓声であると彼らは解釈する。


「先を……越されたか!?」

「見に行こうぜ。新幕府の姿を!」


 ガンマン達は移動を続けた。

 自分たちの代わりに

 目的を達成した人物を確認する為に。

 新たな幕府を導く人物が、

 ガンマンか侍であることを彼らは願っていた。


「おおおおおおおぉ……っ」


 咆哮が力強さを失う頃には、

 刀馬と無法大王の軌道は下に向かっていた。

 落下を始めたのである。

 落下地点の付近には侍達が居た。


 砲町の防衛基地にて、侍達は迎撃阻止に務め、

 任務を既に終えていた。

 彼らは空からの咆哮に注目していたが、

 咆哮の中心に見知った顔が居ることに気が付く。


「若君ぃーーーーーっ!」

「刀馬様が降ってくるぞっ!」

「一緒にいる大男は何者だ!?」


 心の底から慕うリーダーの登場に

 不安と期待を抱く侍達。

 しかし彼らには一つの確信があった。

 騒ぎと活躍の中心にいるのは、

 いつだって刀藩リーダーだという確信である。


 結末やリーダーの安否はわからないが、

 MVPは刀馬であることを

 侍達は信じて疑わなかった。


「おぉぉ……」


 咆哮が遠くなっていく中、

 銃五郎は2人の落下地点を見定めていた。

 位置を確認すると、

 無法ルームを飛び出して階段を下りる。


「銃五郎!」


 砲八も銃五郎を追っていく。

 2人は咆哮が遠くなるにつれて、

 無法の力が弱まっていることを感じていた。

 刀馬と無法大王の命運を

 2人は確かめずにはいられなかった。


「見届けるぞ砲八。

 戦いの全てを」

「ああ!」


 銃五郎と砲八は城を出ると、

 落下地点へ駆けていくのであった。

 友の無事と、幕府の命運を見届けるために。



----------



 砲町の防衛基地は騒然としていた。

 刀馬と無法大王が空から降ってきた為である。

 今現在、防衛基地は刀藩が制圧済みであり、

 刀藩リーダーである刀馬の亡骸に動揺する者は多かった。


「若君……死んでいるーっ!」

「どうして、どうしてだぁ!」

「若君っ! 何故っ! 死ぬのです!?」

「甦れ刀馬様ーーーーっ! はあああぁーっ!」

 

 防衛基地の無力化すらも難なくこなした侍達が、

 刀馬の周囲で叫ぶ。

 下された命令を守ることはできても、

 彼らは、大切な人を守ることができなかったのだ。


 中には、偽りの蘇生薬を飲ませようとする侍や、

 黒魔術での蘇生を試みる侍など、

 奇行に駆られる者も何人かいた。

 まともな多くの侍も、わずかな期待を胸にそれを止めはしなかった。

 刀馬の復活はそれほどまでに望まれていたのだ。


 当然、そのような方法を試したところで

 刀馬が蘇るはずもなかった。

 彼は、既に死んでしまっているのだ。


「道を開けろー!」


 騒ぎの中、砲八の声が響き渡った。

 侍達の前に現れたのは、

 馬に乗った銃五郎と砲八であった。

 保安官が突然現れたことで、侍達に緊張が走った。


「お前は保安官! 敵の援軍か!?」

「いや待て! 銃藩リーダーも乗っている!」

「敵対している2人が、なぜ同じ馬に!?」


 銃五郎と砲八は馬から降りると、

 刀馬の亡骸に目を向ける。

 共に戦った仲間の息絶えた姿が

 2人の心に深く突き刺さった。


 しかし感傷に浸る間もなく、

 銃五郎と砲八はある事実に気が付き戦慄する。

 追っていたもう一人の相手、

 無法大王の姿が見当たらなかったのだ!


「無法大王が……居ない?」

「さ、侍達! お前達のリーダーと一緒に

 大男が飛んでこなかったか!?」

「あ、ああ。その男なら塵になっちまった」

「何だって! 塵に!?」


 侍の話を聞き、2人は刀馬の隣に置かれている

 小さな塵の山に気が付いた。

 片手に乗りそうな量の塵山からは、

 わずかに無法の力が溢れ出していた。


「あれが……。無法大王の成れの果てか!」

「ああ。死体すらも残さないとは。

 化物のような男だ」

「化物とは誉め言葉だな!

 銃五郎っ!」

「「何っ!?」」


 聞き覚えのある声に

 銃五郎と砲八は驚愕する。

 声の主は、倒れている刀馬……ではなく、

 その隣の塵山だったからだ!

 

 2人は声を聞いた瞬間、

 無法大王が生きていると直感する。

 その直感は正しかった。

 無法大王は塵山となり生き延びていたのだ!


「生きていたのか、無法大王!」

「砲八、吾輩を誰だと思っている!?

 吾輩こそが無法大王だ!

 体が力尽きた程度、何ともないわっ!」

「だが無法大王。今のあんたに何ができる?」

「愚問だな、銃五郎!

 貴様達に吾輩は殺せぬ!

 生き延びて復活するまでだっ!


 人間、動物、虫、細菌。

 最強の無法生物となるには、

 種族など些細な問題だ!


 動けるもの摂取されるまで、

 吾輩は動けぬ塵として生き続けよう!

 誰も摂取せぬというなら、

 吾輩が最後の人類として見届けてやろう!

 

 貴様達は、生き延びる力に負けるのだ!

 銃五郎っ!」

「ちっ。厄介な男だぜ」


 無法大王の説く孤独な生存戦略に、

 銃五郎は苦い顔をする。

 銃五郎がかつて信じていた生き方は、

 目の前の塵山が信じるような生き方だったのだ。

 銃五郎はショックだった。


 しかし問題はそれだけではなかった。

 このまま無法大王を放置すれば、

 未来で再び悲劇が起こることを、

 銃五郎は確信していたのだ。


「砲八。袋はあるか?」

「やるか銃五郎! うおおおぉっ!」


 砲八は紙袋を取り出し、

 無法大王を土ごと詰め込んだ!

 そしてテープで完全に密封すると、

 空高く放り投げた!


「くたばれ無法大王ーーーっ!」


 砲八は袋よりも高く飛び、

 真下に向けて大砲を構えた!

 そして大砲の引き金を連続で引いた!

 必殺技の"砲八連続キャノン"が紙袋を襲う!


 大砲の砲弾に押されて、

 無法大王の入った紙袋は地面に直撃する。

 更に降り注いだ砲弾が、

 紙袋を巻き込んで大きな爆発を引き起こした!


「おっと危ねえ。おい砲八っ」


 爆風で飛ばされた刀馬の亡骸を

 銃五郎が受け止める。

 爆心地には大きなクレーターができており、

 焦げ跡のついた紙袋が土に埋まっていた。


「ど、どうだ!?」


 砲八は紙袋を持ち上げる。

 紙袋は、大砲に耐える障子と同じ素材であり、

 焦げてはいたが穴は開いていなかった。

 砲八は袋に呼びかける。


「生きているのか!? 無法大王!」

「当たり前だ……! 塵には痛覚がない!

 貴様が何をしようが、

 吾輩へのダメージは皆無なのだっ!」

「ぐっ! なら次の必殺技で」


 砲八は再び袋を投げようとする。

 しかしその直前に、銃五郎は砲八の腕を掴み

 必殺技を中断させた。


「よせ砲八。俺たちの決死の超必殺技を受けても、

 無法大王は生き延びたんだ。

 もう必殺技では奴を倒せない」

「銃五郎……! だ、だが俺は……!

 これまで必殺技の特訓だけで生きてきたっ!

 必殺技が通じないなら、俺には打つ手が……!」

「俺に考えがある。

 後は全て任せてくれ」


 銃五郎は紙袋を受け取ると、

 侍達の間を抜けていく。


「砲八が悪かった。

 爆発しちまって」

「そ、それはいいが。

 その喋る塵は一体」

「…………。

 あんたたちのリーダーの亡骸、

 悪いがそこまで運んでくれ」

「え!? なぜ、そんなところに……!」


 銃五郎が指さしたのは、

 近くにあるカフェだった。

 侍達が戸惑いながら刀馬を運ぶ中、

 銃五郎は一足先にカフェの前に立った。


「今度こそ決着をつける。

 覚悟はいいな、無法大王っ!」

「愚か者め! 茶の1つや2つ程度で

 吾輩の不滅が揺らぐと思ったかっ!」


 紙袋の中に闘志を向けながら、

 銃五郎はカフェに入店する。


 その後ろ姿を

 砲八と侍達は不安げに見送っていた。

 刀馬の亡骸と共に、

 残された者は決着を待つのであった。



----------



「完成だ。無法コーヒーっ!」


 塵となった無法大王を調理し、

 無法コーヒーを完成させた銃五郎。

 しかし調理されて尚、

 無法大王の魂はコーヒーとして生き続けていた!


「バカめ……! 吾輩は無法大王!

 煮込んだとて我が魂は消せぬ!

 貴様、不滅のコーヒーに勝てると思うのか!」


 人智を越えた威圧感を発するコーヒー。

 しかし銃五郎は臆することなく、カップを持ち上げる。

 そのまま店の扉を開け、

 保安官達の間を通り抜けていく。


「あんたを倒すのは俺じゃない。

 亡き俺の親友だ。

 侍は蘇り、あんたを消すのさ」


 銃五郎の考えていた秘策、

 それは刀馬を無法の力で生き返らせることであった。

 常識外れの無法の力を

 亡き友の奪還に利用しようと、銃五郎は考えていた!


「無法の力で蘇る輩に、

 無法大王である吾輩を消せるものか!

 勝負だ銃五郎!

 再び人として君臨してくれる!

 最強の侍・無法大将軍としてなぁ!」


 睨み合うガンマンとコーヒー。

 銃五郎は無法コーヒーを構えると、

 カフェの扉を開けた。

 外では、保安官全員と侍達が待っていた。


「あ、あれが無法大王!」

「まるでコーヒーだ……!

 恐ろしいパワーを秘めている!」


 コーヒーとなった無法大王を前に、

 保安官達は戦慄する。

 コーヒーの姿になって尚、衰えない無法の力。

 その力を前にした者たちは、

 刀馬が蘇るという期待を、そして無法の力に対する不安を

 本能的に感じ取っていた。


 間もなくして、銃五郎は足を止める。

 刀馬の亡骸に辿り着いたのである。

 刀馬の前で膝をつき、銃五郎は語り掛ける。


「待たせたな。刀馬。

 あんたのお陰で俺は絆を取り戻せた。

 死体に鞭打つようですまないが、

 今度は……俺があんたを救う!」

「我が肉体となる侍よ!

 貴様の体を乗っ取り吾輩は

 ぐわあああぁっ!?」


 銃五郎はカップを傾け、

 無法コーヒーを刀馬の口へ流し込んだ!

 刀馬の体の器官を通じて、

 無法の力が体を巡り渡っていく。

 しかし、無法大王の魂も全身に浸透していた!


「ど、どうだ銃五郎!

 吾輩は今、侍の全身に行き渡っているぞ!

 吾輩こそが無法コーヒー!

 侍如きに追い出せるものかっ!」

「あんたは知らないのさ。

 こいつの脅威的なコーヒー嫌いをな!」

「ぬう! こ、これは!」


 刀馬の体に異変が起きた。

 体中に行き渡っていた無法の力を、

 機能停止している体が拒絶し始めたのだ。

 体内の無法コーヒーは消失していく。


「吾輩を拒絶しているだとぉ!

 バカな!

 こやつ生き返るチャンスを捨て、

 無法の力を断ち切ろうというのか!」

「いいや。今、断ち切るのは

 あんたとコーヒーだけさ……。

 蘇生用の無法は引き止めるっ!

 俺が、絆の力でな!」


 横たわる刀馬の手を掴み、

 握り締める銃五郎。

 何か特別な力を使う訳ではなかった。

 銃五郎はただ、刀馬との絆を強く信じていた。


「刀馬!

 俺は、手を掴んで祈ることしかできん!

 信じて待ってる!

 だから戻ってこいよ! 侍っ!」


 銃五郎は叫んでいた。

 既に無法の力はほとんど消えており、

 コーヒーとなった無法大王の魂すら、

 存在できない状態であった。


 その時、銃五郎の手に熱が伝わる。

 力強く握っている侍の手に、

 命が宿る気配を感じ取ったのだ。


「こ、これは……!」

「ふふっ。そう耳元で叫ばれては

 おちおちと寝ておれん。

 だから戻ったぞ……銃五郎っ!」

 

 体内に残された無法の力を辿り、

 刀馬は目を覚ました。

 銃五郎との再会を喜びつつ、

 刀馬は、気合で無法の力を消化した!


「うむ。よし!」

「無法の力が……消えた?」

「もう不要なのでな。

 これで完全勝利じゃなっ!」


 刀馬が立ち上がると、辺りは歓声に包まれた。

 保安官、侍、町民、到着したばかりのガンマン達……。

 事情を知らない者も多く居たが、

 彼らは不満の発散にとりあえず叫んでいた。


「喜びの歓声だーっ!

 誰かが幕府を討ったんだぁっ!」

「見ろ、お頭が侍と肩組んでるぜー!」

「俺たちお頭より先に出発したろ!?

 何であの人居るんだよ!」

「バーカ! テレポートに決まってるだろ!」


 そして事情を知るものは、

 刀馬の復活を心の底から喜び、叫んでいた。


「若君が生き返ったーっ!」

「結局、保安官とは話が付いたのか!?」

「コーヒー飲んでたー! 若君が吐くぞーっ!」

「刀馬様万歳ー! こっち吐いてーっ!」


 歓声に包まれる中、

 刀馬は銃五郎と肩を組んでいる。


「銃五郎っ! お主には悪いが

 幕府のトップは拙者が貰うぞーっ!」

「お、おい。人前で肩を」

「いいじゃろ! 銃五郎ーっ!?」

「……持ってけーっ!」


 そして事情を知る保安官達は、

 騒ぎを静かに見守っていた。


「ふん。俺達を差し置いて、

 幕府のトップを勝手に決めやがって」

「どうする砲八」

「……俺は、あの侍がトップでいい。

 前々から思っていたんだ。

 毎日トップと共に、必殺技の特訓に明け暮れたいと!」

「「賛成ーっ!」」


 こうして無法大王との戦いは終わった。

 翌日、保安官達は広場で

 経緯の説明を行い、これまでの悪政を詫びた。

 更に、幕府存続のために

 新たなトップを任命すると発表した。


 新たな幕府のトップは"刀馬"!

 無法大王討伐の功績により、

 "友情大将軍"を冠することとなった!

 藩ごとの武器格差をなくすため、藩制度の撤廃を進めている。


 また、保安官達を統べる役職として、

 "保安総長"が新設されることとなった!

 新役職に就任したのは"砲八"!

 しばらくは必殺技の特訓を控えて、

 藩制度撤廃の交渉に駆け回ることとなる。


 更には、幕府トップの直属チームに

 "侍ガンマンカフェ"が加わることとなった!

 "銃五郎"がリーダーを務めるこのチームは、

 社会奉仕活動や無法地帯の改善など、

 理想の幕府実現のために、尽力するのであった。



----------



 無法大王の討伐から2週間後。

 侍ガンマンカフェが発足する数日前。

 銃五郎は、幕府の城の上階から

 砲町を眺めていた。

 刀馬は隣で、風に当たっている。


「侍ガンマンカフェか。

 銃藩の無法者のために……。ありがとう刀馬」

「なあに。世に必要だからチームを作った。

 それだけのことじゃ。

 無法地帯の改善もあるからな。

 ま、リーダーのお主がしっかりすることだ」

「わかってるさ」

 

 返事とは裏腹に、銃五郎は不安であった。

 かつて彼がリーダーを務めた銃藩は、

 荒れ果て、無法地帯となってしまったからだ。


 銃五郎が眺めている砲町は、

 無法大王が居なくなり、活気も回復している。


 今の砲町は銃五郎にとって、

 かつての過ちを繰り返さないための指標であり、

 これから超えるべき壁でもあった。

 侍ガンマンカフェは、廃れた藩や無法地帯を

 砲町のような活気ある姿にするのだと、銃五郎は使命を感じていた。


「ひとつ聞かせてくれ。

 俺は……あんたの役に立てそうか?」

「ああ。お主は既に偉業を成し遂げておる」

「偉業?」


「拙者のコーヒー嫌いを治した。

 なっ。拙者の友は凄いだろう?」

「……そうか。もう坊やとは呼べないな……」


 親友のお墨付きをもらい、銃五郎は心に誓う。

 チームで刀馬を支えていくことを、

 銃五郎は心の底から望んだのである。


 こうして銃五郎は、侍ガンマンカフェのリーダーを引き受けた。

 カフェから始まった絆の深まりは、

 彼らが国や幕府を支え合えるほど、深く強い仲間意識に成長していたのだ。




 見よ、この素敵で素晴らしいエンディングを。

 時が経てども、このエンディングは

 ふとした拍子にどこかの誰かの脳裏を過るであろう。

 いつの日か、いつの日か……(時限式)。

 


----------



@テーマやプロットなど@


【テーマ:命を懸けた人間への感謝(仁義)】

【追加テーマ:世界は閉ざされつつある!果てなく開拓せよ!】

【決定順:西部劇と時代劇→タイトル→舞台→主要人物→プロット詳細】


/////以下、ChatGPTで出力した"スピード感のあるプロット構成"を参考にしています/////

【第一幕】

 幕藩体制により、担当武器で藩の強さが決まってしまう時代が到来した。銃担当の銃藩のリーダーである主人公は、個人による実力と生存こそがすべてだと考えるガンマンであった。

 まず初めに、主人公とライバルの派閥同士で喧嘩するシーン。藩カフェが後でも出るのでここでも出しておく。分かたれた演出!

 主人公が城下町をさすらっていると銃声が響き渡った。目を向けると、銃を持った幕府の役人が笑っていた。足元には今撃たれた死体が転がっている。主人公は気にせず通り過ぎようとしたが、見知った顔が死体へと駆け寄っていく。それは主人公のライバルである刀藩のリーダーであった。役人と言い争いを始めたライバルを止めるため、主人公は厄介ごとに首を突っ込むのであった。

 主人公の介入によって喧嘩は収まったが、役人の怒りは収まらなかった。ライバルに決闘を申し出る役人。対するライバルも決闘を受けて立とうとするが、主人公がそれを制止し、銃藩のリーダー責任ということで代わりに決闘を引き受ける。改造ホルスターによる不意打ちを見破り、主人公は見事決闘に勝利するのだった。

 決闘後、死亡した男の妻が泣きながら「蘇りの術」の噂を口にする。ライバルはきっと存在すると豪語するが、主人公はありもしない希望にすがらず現実を生き抜けと言い放つ。

 年貢について話し合う主人公とライバル。重い年貢に耐えかねて、銃藩と刀藩は幕府乗っ取りのために手を組むことを約束する。幕府を支配しているのは保安官と呼ばれる幕府上部の役人たちであり、その保安官を撃退することで、幕府の実権を奪うという作戦である。銃藩の無法者たちが幕府を攻めに向かったため、2人もすぐに作戦を決行するのであった。


【第二幕】

 銃藩は馬、刀藩は徒歩、主人公とライバルは列車にて幕府へ向かう。何人かはチャリや軽トラなどで向かう描写を入れてもオッケー。何なら列車が装甲を脱ぎ捨てて二足歩行くらいしてもいいかもしれない。

 道中、主人公はライバルに過去を打ち明ける。その内容は、かつて信頼していた上官に裏切られ全滅したというものだった。ライバルは話を聞き、主人公の持つ恐怖を察することを言う。

 幕府突入前に城下町の惨状を描写する。人情に厚いライバルが親身になって話を聞きまくり、町民との絆や信頼を築く。主人公はライバルの才能を認めつつも自分には縁のない話だとそっぽを向く。

 幕府突入後はザコ戦。敵側には砲藩下っ端くらいの設定しかないから思いつきでそれっぽく熱い台詞か感動シーンを入れる。主人公はこの段階では適正ないから、ライバルを死亡フラグ的に活躍させまくる。熱い思いとかセリフもどんどん入れる。


【第三幕】

 幕府を真に支配していたのは傭兵時代の上官、無法大皇帝であった。無法大皇帝は主人公たちと同じように幕府の中核乗っ取りを企て、何年も前に成功させていた。武器による階級制度、民への重い年貢の強制、無法地帯である銃藩の放置、幕府の砲弾主義、それらすべてはやつが好むものだと主人公は語る。主人公と銃藩の功績を褒めた上で、無法大皇帝は「これから訪れる無法世界にはお前の力が必要だ」と主人公を保安官に勧誘する。一方ライバルは、民の幸せのためにも、無法世界など存在するべきではないと主張する。

 保安官たちとの対決はそこそこ苦労して勝利。民をぞんざいにすることを怒るようなセリフを戦闘中に入れる。発言者はライバル。主人公は感銘を受ける。その直後、無法大皇帝が住民を人質にしようと外へ逃げるので追う。

 ライバルが町民もしくは負傷者を庇い致命傷を負う。誰もが涙するように庇う前に色々とやり取りをしておく。庇われる側のけなげな趣味とかを気遣う感じでそれを尊重するようなことも事前に伏線として用意しておく。

 ライバルは死の間際、主人公が優しさを胸に秘めていると語りだす。役人との争いに介入したこと、藩をあえて無法地帯にしていること、民のために命を懸けて幕府を乗っ取ろうとしていることなど、主人公の行動の裏にはいつも思いやりがあったと説くライバル。「信じているぞっ!身を裂くような敵と恐怖を乗り越えることを!お前はまた仲間を信じることができる!必ずな!」と言い残し、ライバルは息を引き取った。

 ライバルの言葉を胸に、民のために無法大皇帝を討つと決める主人公。ここから主人公の熱い台詞解禁。内面的には今までとは別人なので、バトル中は気合で人間離れした動きもオッケー。セリフと熱量で全てを押し切る。

 異空間の穴をしばらく落ち、最終決戦の予感を感じ取る銃五郎。着地した先は国の統治者を決めるための決闘空間であった。タイマン勝負で勝った方が元の世界に帰還できるが、負けた方は国の礎として地下で養分になってしまう。こうして銃五郎と無法大皇帝の最終決戦が始まるのであった。


【結末】

 戦いが終わり、民を守るために命を懸けたライバルに民は感謝し、涙を流す。例え死なずとも民は感謝しただろうと悟る主人公。自己だけでなく他者すらも守るライバルに改めて敬意を示した。

 うつむいた主人公の視界に「蘇りの術」と書かれた巻物が目に映る。巻物には「民の心を一つにし、魂を天に奉げることで、意中の生命を呼び戻す」とあった。主人公の脳裏に、「蘇りの術」を諦めさせたかつての自分の姿が浮ぶ。術自体もいかにも馬鹿げていて、信じれば笑いものにされる内容だったが、主人公はそれでも巻物に書かれた内容を民に伝え、民と共に魂といえるものを天高く掲げた。すると辺りは光に包まれ、ライバル体は瞬く間に癒えていき、魂よりも大切な仲間を取り戻すことに成功したのだった。

 しばらくして、名実ともにぼろぼろの幕府に新たな支配者が現れた。主人公は君主となったライバルを支えるため、よき保安官として城下町で人のために働き、君主に民の意見を伝える役目をこなしていくのだった。



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