9.買い物と世間話と眠れる彼女
明けまして。
いつもながら不定期更新申し訳ありません。
今年も頑張ります。
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「さて……動くかな」
ソロンを宿に残し、外に出たマーリン
日はすっかり沈み、町は街灯に照されている。
さほど遅くはない時間。
暗くなったとはいえ、まだちらほらと店は開いており買い物を急ぐ主婦、仕事終わりだろうか、酒場に向かう男達。
そんな彼らの喧騒を聞きながらマーリンは歩いていた。
宿の主人に大体の店の場所を聞いていたマーリンは迷うことなく目的の場所に辿り着く。
古びた看板には【薬屋】と書かれている。
入り口の扉を開けるとカラン、とベルが鳴った。
「おや?お客かね?」
メガネをかけた老齢の女性が店のカウンターに腰かけながら、マーリンに声をかける。
「どうも、傷薬と包帯、それとポーションが欲しいのだけど置いてるかい?」
「あるよ、ポーションは中級は品切でね……下級しかないけど構わんかい?」
「構わない、6つ頼むよ」
「はいよ」
店主は杖をつきながらなれた手付きで棚から商品を取り出す。
(流石に小さい町じゃ上級ポーションは流通しないか…)
「ポーションは輸入品かい?」
「いいや、私が拵えてるよ」
「マダムが?」
「まぁ拵えてるといっても中級用の薬草はカメリアからの輸入だけどねぇ」
「小さい町さ、自己生産なのは下級までさね」
「なるほど」
「ガーゼは要るかい?」
「あぁ…そうだねいくらか包んでくれ」
「あいよ」
「でもねぇ……」
「?」
「近頃は薬草も値上がりしてね……中級を作れる数も限られてるんだよ」
「値上がり……税金が上がったとか?」
「あぁ…ついこないだ、ね」
(……えぇ…まさかあのバカ王子こんな短期間で税金上げた訳じゃないよね?いや、やるなあのバカなら)
ソロンを追放して調子に乗った奴ならやるなぁと苦笑いを溢すマーリン。
「それは…気の毒に」
国民も、ルイも。
「全く、どうなっちまうのかねぇ」
店主の女性は大きなため息をつき、はいよ、と商品を渡す。
「悪いね、愚痴を溢して」
「いやいや構わないよ」
マーリンは笑顔で商品を受け取り、会計を済ます。
「兄さん、旅かい?」
「まぁね」
「そりゃあいい、若い頃しか出来ないからねぇ」
「そこそこ歳だけどね」
「アタシみたいに腰にきてないだけマシさね」
「マダムならまだまだ現役でいけるよ」
「あっはっはっ! お世辞がうまいこった」
「そうだ、この店の先にねうまいパン屋があるからおすすめだよ」
「まだやってるから、連れ合いに買ってってやんな」
「よく一人じゃないって分かったね?」
「兄さん怪我してなさそうだからねぇなぁに、山勘が当たっただけさ」
「やっぱりマダムはまだまだ現役だよ」
それじゃ、と笑顔で店を出た。
「いやはや、侮れないねぇ」
害のない一般人とはいえ、と呟きながらマーリンは買い物を続ける。
薬屋の店主に言われた店でサンドウィッチを買い、旅に必要そうな物品を扱っている店の下見を済ます。
マーリンが宿に戻る頃にはすっかり夜になっていた。
「おやおや……」
マーリンはソファーの上で静かに寝息をたてるソロンを覗き込む。
「これは起きそうにないね」
むしろ、寝かしておいてあげたい。
マーリンは買った薬、パン、それと宿屋の女将からもらったスープをテーブルに置き、ソロンの足元を見る。
「思ったより摩れてるねぇ、痛そうだ」
だからこそ、ソロンを連れていかなかった。
「傷が浅ければ薬で対処しようと思ってたけど……」
「頑張って歩いてたからね」
「治癒光」
マーリンはソロンの傷付いた足に手をかざすと、淡い光がソロンの足を包み傷を消していく。
ソロンの傷を癒した後マーリンは、そっと起こさないようソロンを抱き抱え、ベッドに寝かせる。
よっぽど疲れていたのかソロンが目を覚ますことはなかった。
マーリンはソロンの顔にかかった髪をそっと指先で払い、頭を撫でる。
「少し警戒心に欠ける、と言いたいけれど今回は仕方がないね」
「お疲れ様、ソロン」
「この旅で君は何を経験し、何を思い、何を得るんだろうね?」
「君にとって最善の結果になることを祈るよ」
マーリンは、何か思うことがあるのか、ただソロンの寝顔を眺めていた。
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