5.これからの事
列車を降りた後、マーリンとソロンは畑や林の多い田舎道を歩いていた。
「──リン…」
「マーリン!!」
「わぁ!! びっくりした…なんだい?」
か弱い僕の心臓を止める気かい?
ソロンを見つめ、ドッ、ドッと高鳴る胸を押さえる。
高鳴るならもっとロマンチックな事でこの胸を高鳴らせたいね……と心の中でマーリンは呟く。
「下らないこと言ってるんじゃないわよ」
訂正、言葉に出ていたらしい。
全く…とソロンは少し大袈裟に肩を落とす。
「そもそもなんだい? じゃ、ないわよ…」
「先程から何度も声をかけているわ」
「おや、それは失礼」
「何をボーッとしているの?」
貴方らしくない。
「……いいや、何でもないよ」
マーリンは国を出る前の事柄をソロンに隠す。
ごめんごめん、といつも通りヘラヘラ笑い謝る。
(王子達の事もルイの事も今のソロンには受け入れられないだろうし…)
(…うん、暫くは黙っておこう)
「しっかりして頂戴……本当……」
「はーい」
気の抜けた返事にソロンはまた、ため息をつく。
「それで? どうしたんだい?」
何か聞きたいことがあるのかな?
「……今更なのだけど──」
「私達は今、何処へ向かっているの?」
「…………」
「…………」
お互いに歩みを止め、見つめ合う
長い、長い沈黙の後
「キャシャラト──」
「それはわかってる」
マーリンが言いきる前に、ソロンが口を挟んだ。
「最終目的地がキャシャラト大国なのは理解したわ」
「ただ、一日、二日で行ける距離じゃないでしょう?」
「"先ずは"何処へ向かっているの?」
察しの良いソロンは、簡潔にマーリンに問い掛ける。
マーリンはうーん、と顎に手をやり少しの間、目を閉じる。
「──そうだね」
「よし! ここらで一度、改めて話をしようか」
マーリンとソロンは近場にあった樹の根元に腰かける。
木陰になっているそこは、そよそよと風が吹き心地好い。
マーリンがパチン、と指を鳴らすと足元に簡易的な地図が描かれる。
「さて、そもそも私達が目指す場所はここだ」
そういいマーリンが指す場所に、自動的に丸が浮かぶ。
「……山?」
「そう、この山の山頂」
そこはキャシャラト大国を目指すには不釣り合いな山だ。
隣接する町とも大きな橋を渡らなければ麓にも行けない
「何故山なの? 海を超えるなら港に行くべきでは?」
ソロンは首をかしげる。
そもそもキャシャラト大国は海に面した国だ。
移動には船が必須のはず。
笑顔でマーリンは答える。
「確かにキャシャラトに行くには直接港に行き、船に乗る方が無難だね」
「でもそれは通常時なら、の話だ」
「もし、君の事がバレてしまったら、もしくはそうだね……"指名手配"でもされてしまったら逃げようがないよね?」
「っ!! …そうね」
港は人が集まる
いくら、カメリア"国外"だとしてもカメリアと"同盟"のある場所であることには違いない。
狭い船の中なら尚更、人の目が集中するだろう
「出来るだけ不安要素は避けたいところね……」
「その通り」
「そこで、だ」
「実を言うと、この山の山頂に迎えが来るように手配をしてある」
「迎え?」
マーリンはそう。と笑顔を見せる。
「迎えと合流してしまえば、たとえ追っ手が来ようと手出しはできない」
「つまり、この山頂こそが私達が目指すべきゴールだ」
「随分用意がいいのね……」
笑顔のマーリンとは対称的にソロンの表情は晴れない。
「その"迎え"は信用できるの?」
「そこは安心してくれて構わないよ」
「キャシャラトにいる誰よりも、間違いなく君の味方だから」
「どういうこと?」
キャシャラト大国に知り合いは居ないけれど、とマーリンの事を見つめる。
「うーんと……ねぇ……」
マーリンは気まずそうにソロンから目線を反らす。
「いやぁ、あのね? ちょっと君の事を話したらなんか酷く同情したらしくてね……」
「……は?」
「『なんて可哀想なんだ!』『不憫だ!』って……」
「何故?どうしてそういう事になってるの?」
自分で言うのもなんだが、何が可哀想で不憫なの?
「ちょっと…ちょーっとだけ、ね?」
「ちょっとだけ?」
「話、盛っちゃった」
てへぺろ、と舌をだすマーリン
「……私はその"迎え"の方に会ったときどういう顔したらいいのよ……」
額を押さえ眉間にシワを寄せるソロン
「お願いだ、最大限、悲劇のヒロインを演じてくれ!」
この通りだ、と手を合わせるマーリン
ソロンの頭痛の種は尽きなさそうだ。
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