3.混乱する城内と数日前のこと
キャシャラトの前王はソロン断罪前に既に亡くなっています。
優秀な王様でした。
王、亡き後はソロンやアレンの騎士等が政を支えていました。
本来王位継承は成人後でしたがそこはアレンが我が儘を通しました。
カメリア国王宮
「なんだとっ!?」
驚愕の声が城内に響く
声の主は現カメリア国王、アレン=カメーリア
ソロンを断罪後、正式にカメリア国の王位を継承された新王だ。
「ソロンが消えた?」
アレンは眉間にシワを寄せる
騎士達も苦い顔をし落ち着かない
「また王妃に危害を加える気かもしれません…」
「せっかくアレン様が正式に王位を受け継ぎ、マリア様と婚姻を結んだこんなめでたい折りに…あの悪女めっ!」
「そんな…ソロンさまが…」
王妃マリアは怯え、不安に顔を陰らせる
そんなマリアを安心させようとアレンはそっと彼女の肩を抱く
「大丈夫だマリア…十分警戒しよう」
「それと、王」
「なんだ?アルス」
「王宮魔術師、マーリンの姿が見えません」
「何?」
「マーリン殿が?」
「あの者…可笑しな事を言っていたな?」
「まさか⁉本気で?」
「……」
数日前
「国外追放は良いとして監視くらいはもう少し緩めてあげたらどうだい?」
「は?」
犯罪者となったソロンの待遇について王宮魔術師であるマーリンは口を出した。
「いくらマーリン殿の御言葉であってもそれは…」
「あまりに浅はかな考えだ!彼女は罪人だぞ?」
ソロン=ディア=アーベントティンメルング
彼女はアレン王子の婚約者という身分でありながら殺人未遂という大罪を犯した。
愚かにも、アレン王子と親しいマリア嬢に嫉妬し、自分の次期王妃という身分が危ういと思っての犯行
「あの茶を飲んでいたらマリアは今頃死んでいた」
「それを止めたのはマーリン、貴殿であろう?」
その場に居合わせたマーリンがマリアのカップに毒が入っている事を指摘し、そのままソロンは拘束された。
「んー…まぁそうなんだけどねぇ」
マーリンは呟く
「別にマリア嬢の為にやったことではないんだけどなぁ…」
「マーリン?」
「おっと…イヤイヤ何でもないよ」
本当、口は災いのもとだね
「因みになんだけど、新王様に一つ聞いても良いかい?」
「…なんだ?」
マーリンはアレンに笑顔で問いかける
「ソロンに何か言いたいことはないかい?」
「…言いたいこと…?」
アレンは怪訝そうに眉をひそめる
「…恨み言ならば山のようにあるが?」
寧ろ、それ以外は何もないが?と答えるアレン
マーリンは笑みを浮かべたまま、そうかい、と短く返事をする
「つまり、君達は今後、どんなことがあっても彼女を一生許さないつもりなんだね?」
「マーリン…?」
「アレン君…否新王アレン」
「その意思は固いかい?」
「…俺はマリアが大事だ…マリアを殺そうとした者を許すことは出来ない」
誰よりも優しく、暖かい笑顔で自分を癒してくれた愛しい君
『貴方は王になるお方』と身分だけに固執し一々口を挟んできたあの悪女とは違う
身分ではなく自分自身を見てくれたマリア、彼女こそ傍に置くべき王妃に相応しい
「まぁ…分からなくもないけどね君の気持ち」
「マーリン?」
マーリンは自嘲気味に笑い王と騎士達に向き合う
「君達の気持ちはよく分かった…理解した上で述べさせてもらうよ」
「私は王宮魔術師の任から身を退かせてもらう!」
「急で申し訳ないけど私はどうしても君達の考えには賛同できない」
すまないね、とマーリンは彼らに背を向ける
「マーリン!?」
「じゃあね今度会うときは違う形だろうけど…まぁ元気で!」
王と王妃、そして騎士達よ
状況についていけず混乱する城内を気にすることもなく、マーリンはその場を去った。
誰も去っていく彼を止めることはなかった
ただ一人、"彼"を除いては。
「…やぁルイヴィエール、ごきげんよう」
そこには一番王に近く、国に尽くし、この状況下で唯一マトモな思考を持つ優しい騎士がいた。
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