13.魔法と魔術
すいません、遅くなりました。
二人は変わらず、順調に歩みを進めていた。
変わった事といえば、二人の間に辿々しくも会話が増えた。
まぁ、主に辿々しいのはソロンの方だが、そこはうまくマーリンが、言葉を拾い上げることで何とかなっている。
話の内容は主に、魔法についての事だった。
「つまり、貴方が町を出る時に使ったのは厳密に言うと“魔法“ではなく“精霊術“っていうこと?」
歩きながらではあるが、先刻お願いした通り、ソロンはマーリンに魔法を教えてもらっていた。
「そうだね、もっともっと細かく言うと“魔法“と“魔術“にも明確に違いがあるんだよ」
「⁉︎」
ソロンは驚きに目を見開く
「言い方の違いだけではないの? 中身は同じだと思ってたわ……」
「まぁ、同じと捉える人の方が多いのは事実だね」
「ここの部分にこだわるのは、私みたいに専門家で生業にしている人間達くらいだ」
「そうなの……で、どういった違いがあるの?」
「いくつかあるけど分かりやすい違いは、結果と魔力の有無かな」
「?」
結果?魔力?と首を傾げマーリンを見つめるソロン。
「そう、つまり……」
マーリンが言うには、
魔術とは、結果や過程、根拠が科学的に証明でき、規模は別として魔力のない人でも媒介を通しての使用が可能なもの
一方、魔法とは結果、過程が奇跡で成り立つものであり、魔力や素質が必要なものらしい
「例えるとするならマッチで火を起こすことが魔術」
「そして“これ”が魔法」
何も無いはずのマーリンの掌の上で、ボゥッ、と炎が生まれゆらめく
「つまり、0で1を生み出す、不可能を可能にするのが魔法ってことよね?」
「そういう事になるね」
「魔術は、科学的理論や方法を駆使すればできる事なのよね?」
うーん……とソロンは考える。
「素人の私にはどちらも奇跡に見えるわ」
正直、理解できたか?と言われると自信がない。
言葉は飲み込めたが、それらを応用しろ、実践しろと言われると出来ないと断言できる。
(ノートにでも書き写したいわ……)
ソロンの頭の中を、マーリンの言葉がふわふわと飛んでいる
(魔法は奇跡で素質と魔力が必須……魔術は知識、科学……ん?)
ふとソロンの中に疑問が生まれる。
(つまり私が“魔法”だと教えられ、身につけたものは、魔術だったと言うことかしら?)
「どうかしたかい?」
ソロンの疑問に気づいているのか、マーリンは悪戯な笑みでソロンの顔を覗き込む。
見抜かれていることがなんだか悔しく、ぐぬぬ……と唸る。
それをマーリンはニヤニヤと眺める。
数分後、根負けしたのは、ソロンだった。
「……教えて、もらえるかしら?」
マーリンは待ってましたと言わんばかりに、応える。
「勿論だとも!」
ソロンは早速、先程の疑問をマーリンに投げかけた。
「そうだね、カメリア国で魔法として教えていたのは魔術の方だね」
「やっぱり……」
「私も王宮使えとして、何度か学園を見学させてもらったけど、随分勿体無いことをしていたね」
「そこそこの設備がある学園なのに魔力の測定は大雑把だし、適性検査も無し」
「そもそも専門家が少なすぎるね」
実際、魔術と魔法の違いすら教えてない。
「はぁ……やっぱりそうよね」
カメリアには、人材を育てたくても先人がいない。
それはソロンも懸念していた事案だった。
「まぁ今は考えないでおこうよ」
なんせ今は、カメリアから逃げているのだから
「……そうね」
いつか、教育にも力を入れたいと意気込んでいたこともある。
でも今となっては叶わない夢となってしまった。
考えても仕方ない
ソロンは切り替えてマーリンに問いかける。
「と、言うことは私が貴方から学ぶべきは魔術ってことね」
少なからず経験もあるし、教わりやすいだろう
「いや?」
「え?」
「ソロンには──」
「魔法と精霊術を学んでもらうよ」
魔法を使うには、素質や高い魔力が必要
自分にはその才があるかも分からないのに、マーリンは断言する。
「大丈夫、キャシャラトに着くまでには形にはなってると思うよ……ソロン?」
いつの間にかソロンは立ち止まっていた。
「……貴方本気で言っているの?それとも揶揄っているの?」
「揶揄ってないよ、いたって本気だ」
「できるの? そんなこと」
「できるよ」
マーリンはいつもと変わらない笑顔
どうやら、冗談ではないらしい。
ソロンはふぅ、と息を吐きマーリンの側に戻る
「私に資格があるかも分からないのに、すごい自信ね」
「そこは心配要らないよ、だってソロンはもう魔法を使っているからね」
「……え?」
予期せぬ言葉にまたソロンは驚く
「私が魔法を? いつ?」
「ソロン、屋敷で私に放った攻撃、今出来るかい?」
マーリンは一度立ち止まり、道の脇にある大木を指す。
「え? ええ……できるけど……」
戸惑いながらも、ソロンはマーリンの言う通りに大木に向かって、攻撃を放つ
練られた魔力が鋼の刃となり、シュッ、と風を切る音とともに、深々と大木に刺さる。
刃は己の役目を終えると、フッ、と揺らぎ消えてしまう。
マーリンはまじまじとその様子を見る。
「うん、間違いないね、これは魔法だ」
「そうなの?」
「うん、今、ソロンは魔力を練って刃、剣を生み出したね」
「陣を書いたわけでも、呪文を紡いだわけでもなく、道具も使ってない」
「風……空気、気圧の理論を用いたものでも無さそうだね」
確かにソロンは純粋に魔力のみで、今の芸当を行っていた。
「荒削りではあるけど、十分、0から1を生み出したと言えるよ」
「……これはお父様……父から教わったものよ」
護身用に、って。
「なるほど……ロードはその手の魔法が得意だったからね」
キャシャラト出身の彼が魔法と魔術を混同してるわけがないし、とマーリンは一人納得する。
「ロードはとっくにソロンが魔法を使えることに気付いてたんだろうね」
「魔力値数は遺伝も関係あるし、ともあれ、これでソロンが魔法を使えることが解ったかい?」
「驚いて戸惑いはしているけれど、飲み込みつつあるわ」
「今はそれでいいよ、歩みを止めて悪かったね、続きは歩きながらしようか」
「ええ」
二人は再び歩き出す。
「魔法が使えることはわかったけれど、精霊術って? 誰にでも出来るものなの?」
「コツや作法さえ理解すればね、ある程度は可能だよ」
「そう……」
それにしても……
「貴方、本当に詳しいわね」
色々と。
「玄人だからね」
「一体幾つの魔法や術が使えるの?」
「ん? 全てだよ」
「全て?」
「そう」
「魔法、魔術、精霊術、呪術」
「魔導の全てを私はマスターしているよ」
ソロンはマーリンを見つめる。
「流石に今回は冗談よね?」
マーリンはにっこりと笑うだけで、それ以上は何も答えない
もし、マーリンの言うことが本当ならば、一つ思うことがある。
「貴方……本当に人間?」
「ハッハッハッ、さぁてどうだろうね?」
何処までも本音が見えないマーリンを訝しみつつも、魔法に精霊、幼い頃に憧れたおとぎの世界に、少しだけ胸を膨らませるソロンだった。
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