12.素直で純粋なお願い事
不定期更新ですが、なるべく月1、20~31日の間に投稿出来るよう頑張ります!
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田舎町ココットをでた二人は、目的地である山頂に向かって歩いていた。
少しでも早く辿り着きたい一心からか、その歩みは早く、ペースは順調……順調なのだが、
「ねぇ……マーリン」
「ん? 何だい?」
「えっと……いえ……何でもないわ」
「そうかい?」
町を出てから、かれこれ5回以上、このやりとりを繰り返している。
歩みこそ止めはしないが、ソロンは数歩前を歩くマーリンに呼びかけては、言葉を詰まらせる。
(はぁ……何故たった一言が言えないのかしら?)
自分で自分が嫌になる、と心の中のモヤモヤを吐き出すように息を吐く。
『教えようか?』
マーリンの提案
目に焼き付いて離れない、夢のように美しいあの魔法
実際、とてもいい話だ。
贔屓目もなくマーリンの魔法の腕前は一流で、きっとカメリア国の誰も彼に敵わない。
(そもそも彼はその腕だけで、王宮付きになったのよね……)
そんな彼に教わる事ができたなら……
ソロンは考えて、言いかけては口を閉ざし、ため息をつく。
(えぇ、えぇ、分かってるわ、分かってるわよ……でも)
(人に純粋にお願いなんて、した事ないのよ……!)
取引のようにお互いにメリットを提示することもなく、ただ困ったからとか、そんな理由でのお願い事なんてソロンには経験がない。
もとよりソロンはそういうタイプではない。
そして、そもそも、ソロンには、
お願い事をするような、友達がいない。
冷徹、冷酷、目的の為ならば手段を選ばず、常に国のことを考え、次期王妃としてカメリアの学園に通っていた彼女
誰かが言った、氷のような女と
愛想のない彼女と友達になろうなんていう人間はいなかった。
そんな彼女が、初めて自分の為に、人にお願いをしようとしている。
「……マーリン」
「何だい?ソロン」
マーリンは変わらず笑顔で呼びかけに応える。
その笑顔を見てまたソロンはうぅ……と呻き、たじろぐ。
現在の状況、マーリンのメリット、今までの態度への罪悪感や不信感
それらがソロンの喉を詰まらせる
「ソロン」
そんなソロンを見かねてか、マーリンは小さな子供に語りかけるように話しかける。
「私は気が長い方だから、待つのは苦じゃないんだ」
「?」
「でも今は時間が惜しい」
「逃げたり、拒んだりはしないし、ちゃんと話は聞くから」
「今、少しだけ、頑張ってごらん」
そう言うとマーリンは歩みを止め、真っ直ぐにソロンに向き直る。
「私に言いたい事があるんだろう?」
「……マーリン」
ソロンは視線をあちこちに動かしつつも言葉を絞り出す。
「あの…その…」
「宿で言った言葉は……まだ有効かしら?」
「貴方さえ……よければ、その……」
「わ、私に、魔法を教えてくれないかしら……?」
若干、語尾が自信なく小さくなるもマーリンは気にする様子なく答える。
「私は構わないよ、喜んで引き受けよう」
そっと自身の左胸に手を添え礼をする。
「よろしく、ソロン」
「可愛い生徒、否、弟子ができて嬉しいよ」
上機嫌に笑うマーリンを見て、ソロンはほっと胸を撫で下ろす。
「こちらこそ…今は何もお礼はできないけれど……」
「必要ないよ、私がソロンに教えたかったのだから」
「そう、なの?」
「そうじゃなきゃ、あんな提案しないよ」
「私は気に入った者にしか、持ち得る知識を与える気はないからね」
弟子はソロンが初めてだよ、とにっこりとソロンに笑いかける。
「初めて……そういえば、貴方他に弟子はいないの? カメリアにはいなかったわよね?」
見たことがない、と問いかける。
「いないよ、ちょっとだけアドバイスをした子はいるけどね」
「それだって、カメリアに来る前の話さ」
「そう……」
「だ、か、ら」
「ソロンが私のハジメテの相手になるね!」
そう言いソロンをビシッと指差す
「……ちょっと、誤解を生むような言い方しないで頂戴」
「あ、バレた?」
「何で貴方はそう直ぐ軽薄さが増すのよ」
色々良い感じだったのに……
「ほら、私って完璧だから、少しいい加減なくらいが丁度いいんだよ」
「何処の誰目線よ、自分で言ったら終わりよ? それにそんなに完璧じゃないわ」
「アハハ! 君くらいだよ? そう言って私に靡かなかったの」
「人には好みがあるのよ」
「それはそうだね、では君の好みになれるよう努力しよう」
「……私はキャシャラトへ花嫁候補になりに行くのだけれど?」
当初の目的をこんな早く忘れないで頂戴、と頭を抱える。
「冗談だよ、忘れてないからさ」
ソロンはからかい甲斐があるなぁ、と笑いマーリンは歩き出す
ソロンはまたマーリンの数歩後ろについていく。
(勇気を出して教えを乞うたけど……大丈夫かしら?)
「あ、そうそう」
「?」
マリーンは思い出したかのように振り返り
「素直に言えて偉かったね、ソロン」
「良く頑張ったね」
そっとソロンの頭を優しく撫で、満足したのか、さぁ行こう、と再度歩き出す。
ソロンは呆けたように、撫でられた箇所に触れる。
『良く頑張ったね』
その声色は亡き父によく似ていたが、撫でられた手の感触は何故か懐かしかった。
(変ね……懐かしいなんて)
(昔もこんな事があったかしら?)
そんなわけ無い。
少なくともマーリン相手ではないだろう
マーリンとは、父が亡くなってからの付き合いなのだし、とかぶりを振って先ゆくマリンを追いかけた。
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