エピローグ
「部長、お疲れさまでした!」
「「お疲れさまでした!」」
「お疲れ様。気をつけて帰ってね」
「「「はい!」」」
あれから数か月。僕は二年生となり、将棋部の部長となった。新入部員も何とか確保し、部室の中は去年より騒がしくなった。
「……先輩も、こんな気持ちだったのかな?」
僕以外、誰もいなくなった部室。かつて、先輩が座っていたパイプ椅子の背もたれにもたれかかりながら、天井を見上げる。蛍光灯の光が僕を眩しく照らす。僕の心には、少しの寂しさ。
「……さて、帰ろう」
荷物をまとめ、部室を出る。鍵を閉め、それを部室棟のキーボックスへ。そのまま、部室棟を後にする。部室棟を出て右。学校の東門。
「師匠!」
「部活お疲れ様、部長」
「……からかわないでくださいよ」
「ふふ。じゃあ、帰ろっか」
「はい」
今日も、僕と師匠は、学校から駅までの道のりを二人並んで歩く。全く変わらない僕と師匠の関係。でも、それでいいのかもしれない。この関係は、かけがえのないものなのだから。
「あのさ……」
「何ですか?」
「……今度、将棋部の見学に行ってもいいかな?」
「……え!?」
僕の足が止まる。まさか、師匠が突然そんなこと言うなんて思ってもみなかった。
「……だめ?」
「い、いや、全然だめじゃないです! むしろ嬉しいです!」
「そっか」
いつものような穏やかな表情を浮かべる師匠。
「でも、どうして急に……」
師匠は、僕以外の人と将棋を指すことができない。だからこそ、師匠は将棋部に入部することはせず、距離を置いていた。そんな師匠がどうして……。
僕の言葉に、師匠は「……そうだね」と一言呟く。そして、優しく微笑みながら、言うのだ。
「いつまでも立ち止まってちゃだめだから」
前に進むための言葉を。
きっと今の僕は、満面の笑みを浮かべているのだろう。師匠の言葉が胸の中にじんわりと染み入って来るのが分かる。
「あと、君との関係も進ませないと……」
「……? どういうことですか?」
「…………はあ。そういうとこだよ」
僕の前で、師匠は大きなため息を吐いた。




