最終話 二人とも、大好きだよ~!
「「おめでとうございます!」」
将棋部の部室。僕と師匠の祝福の声が、部屋の空気を振動させた。
「……えっと……え?」
部屋の入り口で、先輩は目を見開いて固まっていた。だが、数秒後、状況を理解したのだろう。口角がゆっくりと吊り上がっていく。そして、その頬は、だんだんと赤みを帯びていった。
「も、もしかして、サプライズパーティー……かな~?」
「はい! 先輩の大学合格を祝してです!」
「そ、そっか~。二人とも、ありがとね~。……あれ?」
「「……え!?」」
まさか、こんな展開、思いもしなかった。いや、一体だれがこの展開を予想できただろうか。先輩が、涙を流すなんて。
「あ、あれ? あれ? な、なんで~?」
先輩は、腕で目元を何度もぬぐう、だが、涙は全く収まらない。
「せ、先輩? えっと、ティッシュかハンカチは……」
「君、これ」
「あ、師匠、ありがとうございます。」
師匠からハンカチを受け取り、先輩に渡す。先輩は、ハンカチを自分の目元に押し付けたまま、嗚咽を漏らし続ける。そんな先輩を、僕と師匠はただ黙って見つめていた。
「……もう、大丈夫だよ~」
どれほど時間が経った頃だろうか。優しく微笑む先輩がそこにいた。
「えっと……先輩、本当に大丈夫ですか?」
「うん。もう平気~。あ、詩音ちゃん、ハンカチありがとう」
「……いえ」
ハンカチを師匠に返す先輩。師匠は、心配そうな表情でそれを受け取った。
「えっと……と、とにかく、今からパーティーですよ! お菓子も用意してますから。さ、先輩、どうぞ中へ」
僕は、わざとらしく明るい声でそう言った。このままだと、気まずい雰囲気が流れてしまうそうだったから。せっかくサプライズが成功したというのに、そんなのもったいなさすぎる。
「……後輩ちゃんは、やっぱり優しいね~」
「同感です。まあ、優しすぎるくらいですが」
「詩音ちゃんは、彼のそんなところが、だよね~」
「……からかわないでください」
頬を染める師匠と、ニヤニヤとした笑みを浮かべる先輩。二人は、一体何の話をしているのだろうか。
「さ、早くしましょう! 時間なくなっちゃいますよ」
「……先輩」
「分かったよ~」
そう言って、先輩は、いつも座っているパイプ椅子へ。僕と師匠も、空いているパイプ椅子に腰を下ろす。
「じゃあ、始めましょうか」
「あ、待って~! 最初に一言、言わせてもらっていいかな~?」
「……へ? ああ、いいですよ。どうぞ」
一体先輩は何を言うつもりなのだろうか。期待とともに、僕の心臓の鼓動がその速度を増していく。チラリと師匠の方を見ると、師匠もまた、期待の表情を浮かべていた。
先輩は、息を大きく吸い、それを告げる。先輩の表情には、陰りなど一切ない、満面の笑みが浮かんでいた。
「二人とも、大好きだよ~!」




