第48.5話 師匠と先輩の隠し事⑨
詩音ちゃんに再会したのは、私が高校二年生の時だった。入学式で詩音ちゃんの姿を見つけた時、どれ程嬉しかったことか。
私たちの高校では、入学式の後、全校生徒が一斉に下校することになっている。私は、帰り支度を急いで済ませ、一年生の教室へ向かった。
「詩音ちゃん!」
丁度教室を出てきた詩音ちゃんに、私は大きな声で叫んだ。周りの生徒たちや先生が、何事かとこちらに顔を向けていたが、全く気にならなかった。
「……先輩。お久しぶりです」
「ひ、久しぶりだね~」
「……一年半ぶりくらいですかね」
「そうだね~。でも、詩音ちゃんは全然変わってなかったからすぐに分かったよ~」
「…………」
「……な、何かな~。見つめられると恥ずかしいよ~」
「……何ですか? そののほほんとした話し方」
詩音ちゃんは、私の話し方が昔と全く違っていることに、ひどく違和感を持ったようだった。
「あ~……まあ、高校デビューってやつだよ~」
「……そうですか。似合ってますよ」
「ありがと~」
ニコニコと笑みを作る私。本当のことは言えなかった。話し方を変えれば、のほほんとした声で話していれば、詩音ちゃんから将棋を奪ってしまった憎たらしい自分を、ほんの少し変えられるかもしれないと思っていたなんて。
それから、私たちはいろいろな話をした。私があの頃のことについて謝罪すると、詩音ちゃんは「気にしてませんよ」と言って笑ってくれた。それだけで、私の心は少しだけ軽くなった。
「それにしても、詩音ちゃんにいつの間にか弟子ができてるなんてね~。驚きだよ~」
「……自分でも、驚いてます」
そう呟く詩音ちゃんの口角は、いつもより少し上がっていた。
詩音ちゃんの弟子。今は、中学三年生の男の子らしい。私が将棋教室から逃げた後、新しく入ってきた子なんだとか。
「つまり、その子のおかげで、詩音ちゃんはまた将棋が指せるようになったんだね~」
「はい。……ただ、今はまだ、彼としか将棋を指したくありません。他の人と指すのは、やっぱり怖いです」
「そっか。……ごめんね~」
「……気にしてないって言ったじゃないですか」
「そうだったね~」
詩音ちゃんの心には、まだあの時のトラウマが深く深く根付いているようだった。少し軽くなったはずの私の心に、再度、重い鉛の塊がのしかかった。
「じゃあ、将棋部に入部するのも……」
「すいません。入部しても、将棋できないです。そもそも、特定の人としか将棋できないなんて人が、将棋部に入部すべきじゃないんです。そんな中途半端なこと、したくないんです」
そう言って、ペコリと頭を下げる詩音ちゃん。詩音ちゃんが悪いわけじゃないのに……。悪いのは、私なのに……。




