第48.5話 師匠と先輩の隠し事⑤
コミュニティーセンターの裏口。薄暗いオレンジ色のライトに照らされながら、膝を抱える女性が一人。その体は、小刻みに震えている。それは、冬の寒さのせいなのか、それとも何かに対する恐怖心のせいなのか、僕には判別がつかなかった。
「師匠!」
僕の叫びに、肩をビクッと震わせる女性。女性は、ゆっくりとこちらに顔を向ける。
僕の目に映ったのは、師匠の驚いた顔だった。
「君、どうしてここが…………あ」
師匠は、僕の背後にもう一人の人物が立っていることに気が付いたようだった。
「詩音ちゃん、こんばんは~」
雰囲気にそぐわないのほほんとした声。こんな状況でも、先輩は相変わらずだった。いや、もしかしたら、わざといつも通りに振舞っているのかもしれない。
「『詩音ちゃん』って……。先輩、もしかして……」
「ごめんね~。私たちが知り合いだったってこと、ばらしちゃった~」
「…………」
「でも、それ以外のことは、まだ説明してなくてね~」
「…………」
「だから、これから後輩ちゃんにいろいろと説明を……」
「やめてください!」
辺り一帯に響き渡る師匠の叫び声。悲しみと、怒りと、苦しみと。その叫びには、たくさんの感情が入り混じり、巨大な渦を成しているかのように思えた。
「師匠……」
師匠にかけるべき言葉が分からない。そもそも、何も知らない僕にとって、ここで書けるべき言葉が出てくる方がおかしいのだ。
「知ってほしくない……」
顔を膝に埋めながら、弱々しく呟く師匠。
そんな師匠の姿に、僕の心臓が、キュッと締め付けられる。
「……詩音ちゃんはさ~、後輩ちゃんをバカにしてるよね~」
「先輩!?」
思わず背後を振り向く。そこには、ニコニコと笑う先輩。だが、その目は全く笑っていなかった。
「……どういう、ことですか?」
戸惑うような師匠の声。いかにも驚きを隠せないといった様子だった。
「だってさ~。詩音ちゃんはこう思ってるわけでしょ~。『私の過去を知ってしまった弟子は、私のことを嫌うに違いない』ってさ~。それって、後輩ちゃんをバカにしてるのと同じだよね~」
「バカになんて……」
「いや、してるよ~。それとも、今の説明、どこか間違ってる~?」
こんなに相手を挑発する先輩を、僕は今まで見たことがなかった。一瞬、先輩のことを止めようとしたが、先輩に手で制されてしまった。
「……本当は、分かってるんです。このままじゃダメだってことも。私の過去を、ずっと彼に隠し続けることができないことも」
師匠は、ゆっくりと言葉を紡ぐ。それは、今まで、師匠の心の奥底に眠っていた本音ともいうべきものだった。




