表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とある師弟の帰り道  作者: takemot
70/94

第45.5話 僕、先輩がいなくなるの、嫌です

 放課後。将棋部の部室。先輩と二人で将棋中。


「こうやって将棋してるとさ~、ふと思うんだよね~」


「何をですか?」


「受験勉強、したくないなってね~」


 先輩は、高校三年生。大学受験は目の前に迫っている。だが、未だに、先輩は、将棋部を引退する気はないらしい。その証拠に、高校最後の大会が終わっても、先輩は、この部室に毎日顔を出し続けている。


「その気持ち、すごく分かります。僕も、将棋してる時、宿題とかテスト勉強とかしたくないなって思うことありますし」


「……いや、後輩ちゃんはもっと勉強すべきだと思うよ~。対局前、『今日も古文が分からなくて……』って言ってたのは誰だったかな~?」


「……痛いところをついてきますね」


「先輩だからね~」


 二ヒヒと笑う先輩。ぐうの音も出ないとはこのことか。


「でも……先輩も受験生、なんですよね」


 ぐうの音は出なかったが、そんな当たり前のことを呟いてしまった。


 僕の言葉に、駒を持とうとしていた先輩の手がピタリと止まる。顔を上げ、僕のことをじっと見つめる。一瞬の真剣な表情。それが、少しずつニヤケ顔に変化していく。


「もしかして、私がもうすぐいなくなっちゃうと思って、感傷に浸っちゃってるの~?」


 声はどこかおどけたように弾んでいる。僕をからかう気満々だ。先輩の頭の中には、僕をからかうためのフレーズがこれでもかというほど並べられているに違いない。


 でも、僕は……。


「そうですね」


「……え?」


「僕、先輩がいなくなるの、嫌です」


 からかわれてもいい。だって、この気持ちに間違いはないのだから。


 将棋部は、先輩と僕を除けば、後は先輩が集めてきた幽霊部員。実際に活動しているのは、僕と先輩の二人しかいない。だからこそ、先輩がいなくなるということは、僕が一人取り残されるということなのだ。先輩がいなくなった後、僕が一体どういう決断をするのか、今はまだ分からない。将棋部を辞めてしまう可能性だってある。ただ、今この瞬間。先輩が一緒にいてくれるこの瞬間だけは大事にしたいと、そう思っている。


「え……あ……あの……そ、そうなんだ~。あ、あはは~」


 先輩の目が左右に揺れる。両手の指がせわしなく動く。明らかに動揺している様子だった。

こんなに動揺している先輩を、僕は未だかつて見たことがなかった。


「先輩?」


「わ、私、ちょっとお花摘みに行ってくるよ~」


 先輩は、勢いよく立ち上がり、急ぎ足で扉の方に歩いていく。途中で足を少しだけもつれさせたが、倒れることはなく、そのまま扉の前へ。勢いそのままに扉を開け、外に飛び出す。バタンと扉の閉まる音。


 先輩のいなくなった部室は、とても広く感じられた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ