第36.5話 あの子たちと鉢合わせないといいんだけどね~……
放課後。将棋部の部室。先輩と二人で将棋中。
「昨日なんですけど、駅前で面白い子たちを見かけたんですよ」
僕がそう告げると、先輩は盤上から顔を上げた。
「面白い子たちって、どんな~?」
「えっとですね……。男の子三人組なんですけど、将棋の話してるんですよ。将棋の戦法は居飛車と振り飛車どっちがいいのかっていう銀河の果てまで答えが出なさそうな話です。思わず立ち止まって聞き入っちゃいました」
将棋の戦法は、特定のマイナー戦法を除けば、大きく二種類に分類される。それが、居飛車と振り飛車。将棋では攻めの要である飛車。飛車を元々置かれた筋から動かさずに攻めていくのが居飛車。元々置かれた筋とは異なる筋に飛車を移動させて攻めていくのが振り飛車だ。日曜朝に放送されている将棋番組では、居飛車が指されるのをよく見るが、振り飛車を指すプロ棋士も数多くいる。
ちなみに、自分は振り飛車党。師匠と先輩はオールラウンダーだ。
僕の言葉に、先輩は少しだけ神妙な顔つきになった。
「……その男の子三人組ってさ~、中学生?」
「いや、小学生ですね。多分、五年生か六年生かだと思います」
「……本当に中学生じゃない~?」
「はい。少なくとも、中学生じゃないと思います。ランドセル背負ってましたし」
「…………」
「…………」
「……そうなんだね~。それならいいかな~」
先輩ののほほんとした声が狭い部室に響く。
どうして先輩はそんなことを気にするのだろうか。彼らが中学生か小学生かなんて、関係ないはずなのに……。
「しかし、そっか~。そんなこと話す小学生もいるんだね~。将棋界の未来は明るいですな~」
パチリと駒を打ち下ろしながら、ニコリと微笑む先輩。
「そ、そうですね」
先ほどとは全く違う先輩の様子に、僕の頭が混乱する。「どうして」という言葉が、頭の中を駆け巡る。
そんな雑念を抱えながら将棋を指していたからだろう。気が付いた時には、僕の玉は丸裸にされていた。
「……まずいなあ」
「ふふふのふ~。後輩ちゃんもまだまだだね~」
盤上をじっと見つめる。頭の中で必至に駒を動かし、最善手を探す。だが、どんな手を指しても、僕が負ける未来しか見えてこない。
「あの子たちと鉢合わせないといいんだけどね~……」
不意に、先輩がそう呟いた。
顔を上げて先輩を見る。僕の目に映ったのは、盤上をじっと見つめる先輩の姿。
「先輩、あの子たちって誰のことですか?」
「…………何でもないよ~。こっちの話~」
先輩は、何かをごまかすようにそう言った。
「そんなことより~、このままだと十七手先に君の玉は詰んじゃうけどいいのかな~?」
「え!?」
先輩の言葉に、僕は再び盤上をじっと見つめるのだった。




