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とある師弟の帰り道  作者: takemot
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第35話 ……何となく、かな

 師匠との帰り道。学校から駅までの道のり。


 冷たい風が頬をかすめる。車道と歩道の間に植えられた木から、一枚の葉っぱがフワッと空中へ飛び出す。その葉っぱは、ユラユラと空中で漂った後、地面へと落下していく。地面には、先に落ちていた数枚の葉っぱたち。それらに迎え入れられるように、葉っぱは地面に着地した。


「もう秋ですね」


「……そうだね」


 とても静かな僕たちの会話。どこか寂しい雰囲気。何かの終わりが近づいている、そんな寂しさ。


 足元で、葉っぱがカサリと音を立てる。遠くの方で聞こえるのは、カラスの「カー、カー」という鳴き声。僕の耳に響く音たちが、心の中の寂しさをさらに強くしていく。


「師匠、目隠し将棋、しませんか?」


「いいけど……珍しいね。君が、そんなこと言うの」


「……何となく、です」


「……そっか。じゃあ、君が先手ね」


「はい」


 目隠し将棋。将棋盤と駒を使用せずに、お互いに駒の移動場所を伝え合うことによって、脳内だけで進めていく将棋のことだ。将棋を始めた最初の頃は、局面が今どうなっているのかがなかなか覚えられず苦戦したものだが、今ではもう手慣れたものだ。……たまに、うっかり間違えることはあるが。


「7六歩」


「3四歩」


「6六歩」


「8四歩」


 頭の中で駒をパチパチと動かしていく。局面が複雑になるにつれて、僕の思考時間が長くなる。一方、師匠の思考時間は最初から全く変わっていない。これが、実力差というやつなのだろうか。


 心の中の寂しさは、いつの間にかどこかに消えてしまっていた。


「8九飛車。……これ、途中で終わっちゃうね」


 師匠が指さす先には、僕たちが別れる駅。局面は中盤戦。到底勝負がつくとは思えなかった。


「そうですね。じゃあ、一旦ここまでで、続きは明日に。……今の局面を覚えてるかは、分からないですけど」


 対局が終わり、ふうっと一息。肩の力が自然と抜けていく。


「……ねえ、一つ聞いていい?」


 突然、師匠が僕にそう尋ねた。


「何ですか?」


「君が、目隠し将棋をしたかった理由って、『何となく』だったよね」


「そうですね」


「実は、『何となく、寂しかったから』が正解だったりしない?」


 師匠の言葉に、僕の肩がビクリと大きく跳ねた。僕と師匠の視線が交差する。師匠は、じっと僕の顔を見て、僕の言葉を待っていた。


「えっと……何で、そう思うんですか?」


「んー。特に確証はないんだけど、しいて言うなら……」


 いつものような穏やかな表情を浮かべる師匠。師匠が次に放った言葉は、とても曖昧で、でも、どこかしっくりとくる言葉だった。


「……何となく、かな」

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