第33.5話 し、師匠ちゃんの……妹?
放課後。将棋部の部室。先輩と二人で将棋中。
「弟子ちゃんって、師匠ちゃん以外に仲のいい女の子はいないの~?」
「……どうしたんですか急に?」
突然の質問に、首を傾げる僕。
「いや、ちょっと気になってね~。それで、どうなの~?」
将棋盤の向こうから、ズイッと上半身をこちらに寄せる先輩。そんなに気になることだろうか。
「そうですね。……まあ、真っ先に挙げるとするなら、先輩ですかね」
「お~。嬉しいこと言ってくれるね~」
のほほんとした先輩の声が、狭い部室に響く。
実際、僕には、『仲のいい』とまで言える女の子がそれほどいない。ほとんどの女の子が知り合い止まりなのだ。まあ、それに対して苦痛を感じていることはないからいいのだが。
「他にはいないの~?」
そう僕に尋ねながら、盤上に駒を打ち下ろす先輩。どうして、将棋に関係のない話をしながら、こんなに正確な手を指すことができるのだろうか。毎度のことながら感心してしまう。
盤上に意識を集中させる。数ある選択肢の中から、最善手を探し、駒を動かす。その後、先輩の方に視線を向ける。
「それで、どうなのかな~?」
再度、先輩はそう尋ねた。
「他にはと言われても。別に……あ」
ふと気が付いてしまった。もう一人、仲のいい女の子がいることに。
「むむむ~。怪しい反応だね~」
「いや、もう一人いるなって気が付いただけですよ」
「もう一人いるんだ~」
「はい。師匠の妹さんです」
その時、ピシリという音が聞こえた気がした。先輩はピクリとも動かなくなり、部室内は静まり返っている。空気が凍るとは、まさに今のような状況を指すに違いない。
「……先輩?」
「は! い、意識が飛んでたよ~」
「何ですか、それ」
「いや、本当に~……って、今はそれどころじゃないよ~。ど、どういうこと~? し、師匠ちゃんの……妹?」
目を大きく見開く先輩。先輩の上半身は、先ほど以上にこちらに寄せられている。そんなに驚くことなのだろうか。
「は、はい。妹さんとは、この夏休みにも一度二人で出かけてますし、仲がいいと言えなくも……」
「夏休みに二人で~!?」
先輩が、今まで聞いたことがないほど大きな声で叫ぶ。部室内の空気がビリビリと振動する。
「せ、先輩、一体どうしたんですか?」
「弟子ちゃん!」
「は、はい」
「その話、もっと詳しく~」
その後、僕は、先輩に、師匠の妹さんのことについてあれこれ質問される羽目になった。部活動の終了時刻が迫り、質問は打ち切られたが、先輩は、まだまだ質問し足りないようだった。
僕が部室を出る前、先輩が呟いた「まさか、そんなところに伏兵が~……」という言葉。一体どういう意味なのだろうか。




