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とある師弟の帰り道  作者: takemot
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第32話 君のこと、ずっと……

 師匠との帰り道。学校から駅までの道のり。


「他校の人への告白ってどうすれば成功するんですかね?」


 それは、僕にとって、いつものようなたわいもない質問のはずだった。


 今日、クラスメイトの男子生徒が、弁当を食べながら「告白ってどうすればいいんじゃー」とぼやいていたのだ。どうやら、部活動の大会で、他校の女子生徒に一目惚れをしてしまったらしく、告白の方法について悩んでいるんだとか。同じ塾に通っていたり、同じ習い事をしていたりするならそのチャンスもあるだろうが、そういった接点はないらしい。結局、男子生徒はずっと頭を抱えたままだった。


 まあ、そもそも、恋愛がよく分かっていない僕にとっては、男子生徒の話はちんぷんかんぷんだったのだが。


 僕の言葉に、師匠がピタリとその歩みを止める。


 突然どうしたのかと思い、僕は師匠の方に振り向いた。師匠の顔は、今まで見たことがないほど引きつっていた。


「師匠、どうかしましたか?」


 僕がそう尋ねると、師匠は、少しの沈黙の後、堰を切ったように話し始めた。


「ま、まあ、君に好きな人ができたのはいいことだと思うよ。で、でもね、師匠である私に何の相談もなくっていうのは、少し違和感があるかな。い、いや、別に、弟子である君の恋路を邪魔したいわけじゃなくてね。師匠として知っておきたかったというか、何というか。ま、まあ、『恋愛のことがよく分からない』って言ってた君が、恋愛に対して前向きになっているのは、いいことだと思う。師匠として、すごく喜ばしいよ。うん、本当に。け、けど、少しは私の気持ちにも気付いてほしかったなって思っちゃうわけでね。ああ、こんなこと言うと、君の邪魔をしちゃうか。さ、さっきも言ったけど、邪魔がしたいわけじゃ……」


「し、師匠、落ち着いてください! 言ってる意味が、よく分からないんですが……」


「え? 君が、他校の生徒を好きになっちゃったって話だよね? 大丈夫、分かってるから。た、ただ、一応、私も君に伝えたいことがあって。あの、その……実は、私は、君のこと、ずっと……」


「師匠、僕、そんな話してないですよ?」


「…………」


「…………」


「……詳しく、教えてくれる?」


 僕は、師匠に事のあらましを伝えた。


 僕の説明をすべて聞き終えた師匠は、肩をプルプルと震わせていた。顔は真っ赤になっており、目には涙がにじんでいた。勘違いをしていたことが恥ずかしくて仕方がないといった様子だ。


「……ごめんね。変な勘違いしちゃって」


「いえ。僕の伝え方も悪かったので」


「……行こっか」


「はい」


 テクテクと、再び歩きだす僕たち。その速度は、いつにもまして遅い。少しうつむき加減で歩く師匠の姿。見ていてとても痛々しかった。


「師匠、僕、さっきすごく嬉しかったです」


 駅が目前に迫った頃、僕は、師匠を元気づけるために、明るい声で話しかけた。師匠を落ち込ませてしまったまま、何もせずにお別れするのは嫌だった。


「……嬉しかった?」


「はい。師匠が、僕のこと、どれだけ思ってくれてるのかが分かったので」


「……え!?」


 師匠の顔が、先ほど以上に真っ赤に染まる。その目は、これでもかというほど大きく見開かれていた。


「師匠、さっき、僕が恋愛に対して前向きになったのが喜ばしいって言ってくれましたよね。それ、すごく嬉しかったです」


 相手に自分の成長を喜んでもらえる。それは、相手が自分のことを思ってくれているという証明。これが嬉しくないわけがない。まして、尊敬する師匠が相手なのだからなおさらだ。


 だが、僕の言葉に、師匠はガックリと肩を落とした。


「……『思ってくれてる』ってそういう意味ね」


 師匠の口調は、とても弱々しかった。


 師匠の様子に、僕は首を傾げるのだった。

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