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とある師弟の帰り道  作者: takemot
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第30.5話 僕の先輩④

「あ、そうだ~」


 三局目が始まってすぐのこと。先輩は、何かを思い出したようにそう言った。そして、机の隅にある大量の紙コップの入った袋に手をかけた。


「ごめんね、忘れちゃってて~。後輩ちゃん、喉乾いてないかな~? お茶ならあるよ~」


「あ、ありがとうございます。じゃあ、いただいてもいいですか?」


「りょうか~い」


 先輩は、袋を開け、紙コップを一つ取り出す。そして、一緒に置いてあった二リットル入りのお茶のペットボトルの蓋を開け、紙コップの中にトポトポと注いだ。


「はい、どうぞ~」


「ありがとうございます」


 紙コップを受け取り、お茶を飲む。冷たいお茶が、乾いた喉を潤していく。


 もう最初に感じていたような緊張はない。だからだろう。ふと気になったことを口にしてしまった。


「そういえば、今日、他の部員の方はいないんですか?」


 その時、先輩の表情に少しだけ影が差したような気がした。


「あ、あはは~。実は、去年から、私しか活動してないんだよね~」


「……え!?」


 思わず大きな声が漏れる。同時に、僕は、自分の軽率な質問を後悔した。


「私が一年生の時は、三年生の先輩たちが四人いたから、部として活動できてたんだよね~。でも、私が二年生になった時は一人も入部してくれなくてさ~。部活動には部員が最低五人必要だから、結局、友達に、幽霊部員になってもらって、何とか廃部は免れたんだ~」


 のほほんとした声で寂しそうに語る先輩。


 つまり、先輩は、去年、たった一人でここにいたということだ。放課後、この狭い部室に一人で。棋譜を並べたり、研究したりする分には、一人でもできる。でも、本格的な対局は……。


「今年はどうかな~と思って、念のため、こんなにたくさん紙コップ買って、お茶も大きいやつにしたんだけどな~。…………将棋の神様は、まだ私のことを許してくれてないんだね~」


「…………」


「……あ、ごめんね~。暗い話しちゃった~」


 ニコリと微笑む先輩。無理をしていることは明らかだった。


 最後に先輩が呟いたこと。気にならないといえば嘘になる。だが、それを聞くのは良くないと、僕の中の何かが叫んでいた。いや、そもそも、そんなことを聞くより、するべきことがあるはずだ。先輩のために、何か……何か……。


「……先輩、お茶、もう一杯貰ってもいいですか?」


「え? いいよ~」


 僕は、ペットボトルのお茶を自分の紙コップに入れる。そのまま、お茶を一気に飲む。


「もう一杯、貰います」


「そ、そんなに喉乾いてたの~?」


「はい。もうカラカラで」


 そう答え、僕は、同じことを繰り返す。

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