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とある師弟の帰り道  作者: takemot
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第30話 最低五回ね

 師匠との帰り道。学校から駅までの道のり。


「そういえば、今日、先輩から本を借りたんですよね。まあ、借りたというより押し付けられたという方が正しいんですが……」


 僕は、鞄の中から一冊の本を取り出し、師匠に見せた。


「……『私の気持ちに気付いてくれない』?」


「はい。面白いタイトルですよね」


「……そうだね」


「なんでか分からないんですけど、最低三回は読むようにって言われちゃって……」


 どうして先輩はそんなことを言ったのだろうか。何でも、「後輩ちゃんには絶対必要な本だよ~」らしい。僕に絶対必要な本って一体……。


「あんまり、本を読むのを強制するって良くないと思うんだけど……。少し、それ見せてくれる?」


「あ、はい。どうぞ」


 僕は、師匠に本を手渡した。


 本を受け取った師匠は、その裏をじっと見つめていた。そこに書かれているのは簡単なあらすじ。数秒後、あらすじを読み終えたのだろう。僕に本を返しながら一言。


「これ、絶対読もうね」


「……え!?」


 なんという手のひら返し! 先ほどの、『あんまり、本を読むのを強制するって良くないと思うんだけど』と言っていた師匠はどこへ行ってしまったのか。


 突然の師匠の変わり様に、僕は目を丸くした。


「最低三回、いや、最低五回は読んだ方がいと思う」


「そ、そこまでですか」


「うん」


 力強く頷く師匠。その表情には、この本は絶対に読むべきものだという確信めいたものを感じる。まさか、師匠まで先輩と同じようなことを……。


 僕は、本のあらすじに目を通す。先輩からこの本を手渡された時は読まなかったが、師匠のあまりの変わり様に、つい読んでみたくなってしまった。


『私は彼のことが好きだった。でも、彼は私の気持ちに気付いてくれない。こんなにアピールしているのに! そもそも、毎日、一緒に帰ろうって言ってる時点で察してよ! それでも私は諦めない。だって、この気持ちに間違いはないのだから。キュンキュン成分をたくさん詰め込んだ一冊。どうかあなたにキュンキュンしてほしい! 鈍感なあの人にもおすすめです!』


 ……先輩、本当にこういう本好きだなあ。


「えっと……とりあえず、帰ったら読んでみることにします」


「最低五回ね」


「あ、はい」


 いつものような穏やかな表情を浮かべる師匠。だが、その言葉からはとてつもない圧を感じる。そういえば、以前読んだ漫画に、ヒロインが、『約束破ったら……ふふふ』と主人公に言うシーンがあった。きっと、主人公は、今の僕のような気持ちだったに違いない。


 絶対読もう。そう決心して、僕は師匠の隣を歩くのだった。

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