第24話 二人とも、お幸せにね~
師匠との帰り道。学校から駅までの道のり。
「お~い、後輩ちゃ~ん」
僕と師匠がいつものようにたわいもない話をしながら歩いていたちょうどその時。後ろの方から聞きなれた声。僕は思わず後ろを振り返った。
「先輩!?」
先輩が、自転車をこいでこちらに向かってきている。僕と師匠は足を止め、先輩が追いつくのを待った。
キキキッと甲高いブレーキ音。先輩が、ハアハアと肩で息をしながら僕たちの横に並ぶ。
「せ、先輩、どうしたんですか?」
「ふ~。追いついてよかった~。後輩ちゃん、これ、忘れてたよ~。」
「……あ!」
先輩が自転車のかごの中から取り出したのは、明日提出の国語の課題と筆箱だった。
今日、僕は、先輩に課題の分からないところを教えてもらっていたのだ。課題が終わってから、片付けをせずに先輩と将棋を指し始めてしまったから、将棋のことで頭がいっぱいになり、帰る前に片付けるのを忘れてしまったのだろう。
「あ、ありがとうございます。すいませんでした、先輩」
僕は、先輩に向かって勢いよく頭を下げた。先輩に迷惑をかけてしまった自分がとてもふがいない。ただでさえ、今日は僕の課題に付き合わせてしまっているのに。
「いいよ~。こんなこと、誰にでもあることだしね~。それに~……」
そう言って、先輩はチラリと師匠の方に視線を向けた。
師匠は、先輩に向かってペコリとお辞儀をする。そこに言葉はない。だが、先輩は、そんな師匠を見てニコリと優しい笑みを浮かべた。先輩も、師匠に何も言葉をかけなかった。
二人の間に、無言の時間が流れる。僕と師匠の間に流れるようなものとは違う。とても不思議で、奇妙な無言の時間。
「あの……師匠? 先輩?」
「…………」
「…………」
「えっと……」
「…………」
「……二ヒヒ~。じゃあ、私はここで~。二人とも、お幸せにね~」
そう言って、先輩は、駅とは逆の方向に自転車をこぎ出した。先輩の背中が、どんどん遠くなっていく。
「せ、先輩、ありがとうございました!」
先輩の背中に向かって、大声を張り上げる僕。その声に応えるように、先輩は手をヒラヒラと振っていた。
「行っちゃいましたね」
「……うん」
「そういえば、最後、先輩が『お幸せに』って言ってましたけど、どういう意味なんでしょう?」
「……さあ」
師匠は、再び駅に向かって歩き出す。その顔は、ほんの少しだけ赤みを帯びていた。
「師匠、何だか顔が赤くないですか?」
「……き、気のせいだと思うよ。それか、夕日のせいかな」
師匠の歩く速度が少しだけ上がる。師匠に合わせるように、僕も自分の歩く速度を上げる。
……うーん、そうなのかなあ。




