第21話 ……ばか!
師匠との帰り道。学校から駅までの道のり。
「師匠の将来の夢って何ですか?」
「……また随分と唐突だね」
僕の質問に、師匠はいつものような穏やかな表情を浮かべてそう言った。
「実は、今日、クラスメイトが将来の夢の話をしてまして。それで、何となく、師匠の夢は何なのかなーって思ったんです」
師匠の将来の夢。僕は、それを今まで一度も聞いたことがない。師匠はいったいどんな夢を持っているのか。期待のまなざしを師匠に向ける僕。
そんな僕を見て、師匠は苦笑いを浮かべながら答える。
「別に、何もないよ」
「そうなんですか?」
「うん。ごめんね。期待させちゃったかな?」
「い、いえいえ」
ブンブンと手を振る僕。もちろん、期待していなかったといえば嘘になる。だが、別に夢がないからといって謝られるようなことはない。
「ちなみに、君の夢は?」
僕と同じ質問を返す師匠。そういえば、こんなことが前にもあったような気がする。
「僕の夢ですか? 師匠と同じですね。今は特にないです」
僕が以前いた中学校では、将来を見据えて高校を選びなさいと耳にタコができるほど言われていた。だが、当時の僕は、師匠と一緒の高校に通うことしか考えていなかったため、将来のことなど二の次だったのだ。
僕の答えに、師匠は「……そっか」と一言。そのまま、特に何も言おうとはしなかった。
無言のまま歩き続ける僕たち。チラリと横目で師匠を見る。師匠は、前を向いて歩きながらも、時々何かを考えるように視線を上に向けていた。もしかしたら、自分の将来のことについて考えているのかもしれない。
「僕、将来のこと、今は全然分かんないですけど……できれば……」
「……ん?」
「将来、師匠と一緒にいたいです」
「…………え!?」
師匠の大きな声が僕の耳に響く。師匠は、急ブレーキをかけたように立ち止まり、ピクリとも動かなくなった。その顔は、いつの間にかトマトのように真っ赤になっている。
「そ、それって……」
モゴモゴと口を動かす師匠。何かを言いたいけれど、上手く言葉にできないといった様子だ。一体どうしてそんなに取り乱しているのだろうか。
「僕、大人になってからも師匠と将棋がしたいですから」
少なくとも、僕の今の願いは、師匠とたくさん将棋を指すことだ。これから先も、ずっと。もちろん、僕と師匠が大人になった時だって。
「あ……そういう…………」
目の前の師匠は、がっくりと肩を落としていた。いかにも残念だという表情を浮かべている。そのまま、トボトボと歩き出す師匠。そこには、全く覇気が感じられない。
「あの……師匠?」
「……ばか」
「……え?」
「……ばか!」
それは、久しぶりに聞いた、師匠の怒りの声だった。




