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とある師弟の帰り道  作者: takemot
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第19話 …………にゃ、にゃー

 師匠との帰り道。学校から駅までの道のり。


 師匠は先ほどから全く動かない。師匠の目線の先には、黒くてサラサラとした毛並みの猫。猫は、警戒するようにこちらをじっと見つめている。おそらく、僕たちが一歩を踏み出すと同時に、どこかに走り去ってしまうだろう。


「師匠って、猫、好きなんですか?」


「……人並みには」


 立ち止まったまま、いつもより小さな声で話す僕たち。大きな声を出してしまうと、それこそ猫が逃げてしまう。


「…………」


「…………」


「…………」


 二人と一匹が、道の真ん中でじっと見つめ合っている。はたから見たら、なんとも異様な光景に違いない。


「……こほん」


 突然、師匠が小さく咳払いをする音が聞こえた。チラリと師匠の方を見ると、上半身を少しだけ前のめりにする師匠の姿。一体何をするのだろう。そんなことを思っていると、師匠はゆっくりと口を開いた。


「…………にゃ、にゃー」


 ……自分の耳がおかしくなってしまったのだろうか。何だか幻聴が聞こえるような……。


「……にゃー、にゃー」


 ……幻聴ではなかった。


「し、師匠?」


 猫語を話す師匠に、僕は思わず声をかけてしまった。


 僕の言葉に、師匠はハッとしてこちらを見る。次の瞬間、師匠の顔は、トマトのように真っ赤になっていた。


「ち、違うよ!」


 一体何が違うというのだろうか。師匠は、大声を張り上げながら首を振る。


「い、今のは、つい口が滑っちゃっただけで、別になんでもなくて……あの……と、とにかく、違うからね!」


「…………」


「違う。違うから……」


「…………えっと……僕、さっき、師匠が何を言ってるのかがよく聞こえなくて、声をかけただけですよ。だから、何も聞いてないです。はい、そうです。何も聞いてないんです」


 バレバレの嘘をつく僕。師匠の真横に立っていたのだから、その声が聞こえないわけがない。だが、とりあえず、聞こえなかったということにしておいた方が師匠のためだろう。


「……ごめん、ありがとう」


 僕の言葉に、師匠はゆっくりと頭を下げた。


「いえ……あ」


 ふと思い立ち、先ほどまで猫がいた場所を見る。しかし、猫はすでにどこかへ行ってしまった後だった。おそらく、師匠とのやり取りの最中に、驚いて逃げてしまったに違いない。いきなり大きな声で会話を始めてしまったのだから、当たり前といえば当たり前だが。


「猫……」


 師匠が残念そうに呟く。人並みに猫が好きと言っていた師匠だが、実は、相当に猫が好きなのではないだろうか。


「……師匠、行きましょう」


「……うん」


 もうそこに猫はいないはずなのに、師匠の声はとても小さく、弱々しかった。


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