第18話 きっと、あの子も喜ぶから
師匠との帰り道。学校から駅までの道のり。
「……そういえば、妹からあなたに伝言があるんだけど」
校門を出てすぐの所で、師匠はそう切り出した。
僕たちが、師匠の妹さんについて話すことは滅多にない。師匠が、妹さんのことを話題に出そうとしないというのもあるが、僕が、妹さんのことを話題に出すと、高い確率で、師匠は不機嫌になってしまうのだ。妹さんのことを嫌っているわけではないらしいのだが……。
「伝言って何ですか?」
「……電話番号とメールアドレス、教えてほしいんだって」
「……はい?」
なんとも唐突なお願いだった。訳が分からず、つい間抜けな声が出てしまう。
「えっと……どうしてですか?」
少し警戒して聞いてみる。さすがに、突然、電話番号とメールアドレスを教えてくれと言われても……。
「あの子、先週、スマホを買ってもらってね。それで、君のスマホの電話番号とメールアドレスも登録したいんだって」
「ああ、なるほど」
師匠の説明にようやく納得がいった。そういうことなら、警戒する必要もないだろう。
僕は、自分の鞄からペンと紙を取り出した。歩きながらだと上手く書きづらい。その場で立ち止まり、なるべく丁寧な文字で、電話番号とメールアドレスを書き記していく。
その時、ふと気が付く。
「あ、そもそも、師匠のスマホに僕のスマホの電話番号とメールアドレス、入ってますよね。それなら、師匠から妹さんに、僕の電話番号とメールアドレスを貼り付けたメールを送ってもらう方が、妹さんの手間も減らせますかね」
紙に書いて渡すよりも、スマホを介して教える方が、手間が少なくていいはずだ。紙に書いた電話番号やメールアドレスを登録するためには、文字や数字一つ一つを手動で入力しなければならない。だが、メールで送られたものならば、コピーして貼り付けるということができるのだ。スマホを買ってもらって日も浅い妹さんにとっては、できるだけ手間の少ないやり方の方がいいだろう。
僕がそう言うと、師匠はいつものような穏やかな表情で僕を見た。
「そうなんだけどね。でも、できれば、紙に書いて渡してあげて。きっと、あの子も喜ぶから」
やはり、師匠は妹さんを嫌っているわけではないようだ。師匠の言葉は、本当に妹さんのことを思っているからこそ出たもののように思えた。
……それにしても、
「妹さん、手紙とか好きなんですか? じゃあ、文通とかしてみたいですね」
それは、ふと僕の頭によぎった考えだった。特に深い意味はない、そんな考え。だが、僕の言葉に、師匠の表情はみるみる不機嫌なものへと変わっていった。
……なぜ?




