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とある師弟の帰り道  作者: takemot
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第15.5話 僕の師匠⑤

 午後五時。将棋教室が終わる時間。


「じゃあ、二人ともまた来週。……君、絶対来てね」


 そう言って、先生は車に乗り、走り去っていった。


「…………」


「…………」


 僕たちは、しばらくの間、無言でコミュニティーセンターの入り口に立ちつくしていた。


 コミュニティーセンターの前にある細い道路を、数台の車がゆっくりした速度で通過していく。車が通過する度に、溝蓋のガタガタという音が鳴り響く。


 このまま「さようなら」と言って帰ってしまってもいいのだろうが……。


「……あの」


 僕は、彼女に、あるお願いをする決心を固め、声をかける。


「……何?」


「一つ、お願いがあるんですけど……」


「お願い?」


「あなたのこと、『師匠』って呼んでもいいですか?」


「…………え?」


 彼女は、とても驚いた表情で僕を見た。


「僕、あなたみたいな将棋が指したいんです! だから……僕の、師匠になってください!」


 彼女との将棋は、僕が今まで祖父と指してきたどの将棋よりも楽しいものだった。そんな将棋を指す彼女に、僕は強い尊敬の念を懐いてしまったのだ。


 僕をじっと見つめ、何かを考えこむ彼女。数十秒後、彼女はゆっくりと口を開いた。


「……私が師匠になったら、今日のこと、忘れてくれる?」


「…………」


「…………」


「……今日、何かありましたっけ?」


 彼女の言葉に、僕は、分からないふりをして首を傾げた。


 彼女が言った「今日のこと」。おそらく、彼女が泣いてしまったことを指しているのだろう。どうして彼女が泣いてしまったのか、気にならないといえば嘘になる。だが、ここで彼女の事情に深入りするのは、弟子入りを頼む身として、あってはならないことだと思った。


 僕の反応にクスッと笑みを漏らす彼女。僕が演技をしていることが分かったのだろう。


「……ありがとう」


 笑みを浮かべたまま、彼女は小さく呟いた。


 最初会った時、彼女はとても冷たい表情を浮かべていた。だが今は、穏やかで優しい笑みを浮かべている。もしかしたら、僕に心を許してくれた……のかもしれない。


彼女の笑みに、 僕の心臓が鼓動を速めるのが分かった。


「えっと……じゃあ……いい、ですか?」


「……うん」


「師匠」


「……うん」


「これからも、よろしくお願いします」


「……こちらこそ」


 この会話以降、彼女は僕の師匠となった。


 ちなみに、夏休みを過ぎてからも、僕は将棋教室に通い続けた。僕が中学二年生になる前に、先生が病気になってしまい、将棋教室は開かれなくなってしまったが、師匠との交流はずっと続いていた。


 そして……、


「師匠、お待たせしました」


「部活、お疲れ様」


 彼女は今でも僕の師匠だ。

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