第14話 ち、違いますよ!
師匠との帰り道。学校から駅までの道のり。
「今日、学食で君の姿を見かけたんだけど……」
「ゴホッ! ゴホッ! ゲホッ!」
師匠の言葉に、つい咳き込んでしまう僕。
「……大丈夫?」
「だ、だいじょうびゅです。はい」
「……大丈夫じゃなさそうだね」
呆れたような、心配そうな、どことなく不安そうな。そんな、微妙な表情で、師匠は、混乱する僕の顔を覗き込む。
僕は、鞄からペットボトルを取り出し、中に入っているお茶を一気に飲み干した。冷たいお茶が、乾いた喉を潤す。だが、混乱した頭が元に戻ることはなかった。
「それでさ……一緒に居た子……なんだけど……彼女……だったり……?」
「ち、違いますよ! 授業で一緒に課題をやることになって。あ、あれです。一年生の社会でやるレポートです。それで、それで、どんなテーマでやろっかって相談することになって。すぐにテーマを決めたくて。ご飯を食べながらってことになって。えっと、だから、別にやましいことをしてたんじゃなくて。あの……」
「わ、分かったから。そんなに慌てなくても……」
僕のことを手で制する師匠。その表情は、少しだけ安心したものに変わっていた。
おそらく、今の僕のつたない説明で、師匠は全てを理解してくれたのだろう。だが、どうしてだろうか。僕の頭の中は、もっとちゃんと説明をしなければという考えに支配されていた。
「あのですね。別に、師匠に隠し事とか、そんなことしてたんじゃないですからね。あの子はただのクラスメイトで、彼女とかじゃないです。違います。違いますから! あと……」
「だ、大丈夫。分かった。分かったから落ち着いて!」
師匠は、僕の正面に立ち、両手で僕の肩をぎゅっと掴んだ。肩に少しの痛みが走る。
「あ……すいません。つい……取り乱しました」
師匠に掴まれたことで、僕の頭が急速に冷えていく。よくよく考えてみると、あまりにも取り乱しすぎだ。僕は、深呼吸を一度行い、ゆっくりと師匠に頭を下げた。
そんな僕の様子を見て、もう大丈夫だと思ったのだろう。師匠は、僕の肩から手を離した。
気まずい雰囲気が、僕たちの間に漂っていた。
少しの沈黙の後、師匠はゆっくりと口を開いた。
「えっと……変なこと聞いてごめんね」
「……いえ」
「……そろそろ行こっか」
「……はい」
僕たちは、再び歩き出す。気まずい雰囲気を漂わせながら。
それにしても…………だ。自分で、自分の気持ちがよく分からない。
師匠に、クラスメイトを彼女だと勘違いされたことで、こんなに取り乱してしまうなんて…………。