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とある師弟の帰り道  作者: takemot
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第11話 私は、君と将棋を指したいだけだから

 師匠との帰り道。学校から駅までの道のり。


「師匠って、ネット将棋はしないんですか?」


 ずっと気になっていたことだ。僕は、師匠が僕以外の人と将棋を指しているのを見たことが無い。同じ将棋教室に通っていた頃だって、師匠は僕以外の人と将棋を指そうとはしなかった。僕が、初めて将棋教室に行き、師匠と出会ったときも、師匠はずっと部屋の片隅で将棋の本を読んでいたのだ。


 僕の質問に、師匠はゆっくりと首を横に振った。


「しないよ。そもそも、ネット将棋はあんまり好きじゃないしね」


 いつものような穏やかな表情で答える師匠。


 となると、ますます謎だ。師匠が将棋好きであることは知っている。でなければ、将棋教室に通い続けたり、将棋の本を長時間読んだりなんてしないだろう。もしかして、将棋を見ることだけが好きな『見る将』というやつなのだろうか。だが、師匠からそんな話は聞いたことが無い。


 頭にはてなマークを浮かべたまま、師匠の隣を歩く。いつも通りの、ゆっくりとしたペース。


 横の車道を、何台もの車が大きな音をたてて通り過ぎる。帰宅時だからだろう。どの車も、早く帰りたいと急いているように感じられる。


「……君は、ネット将棋はしないのかな?」


 突然の、師匠からの質問。僕の頭に浮かぶはてなマークが霧散する。


「えっと……僕は、結構しますよ。最低でも、一日三局はしてます」


「……そっか。……ネット将棋、やってみようかな」


「……へ!?」


 思わず変な声が出てしまった。先ほど、師匠は、『ネット将棋はあんまり好きじゃない』と言っていた。それなのに……。


「あの……師匠。さっき……」


「ん? ああ。まあ、ネット将棋はあんまり好きじゃないけどね。でも、通信対局なんかもできるんでしょ。君がやってるなら、私もと思ってね」


 師匠は、ニコリと微笑んでそう言った。


「師匠……無理、してませんか?」


 少しだけ不安になってしまった。師匠は、いつも僕に気を使っているんじゃないだろうかと。昔も、そして今も、僕が、師匠と将棋を指すことを強く望んでいるがゆえに、師匠は誰とも将棋を指そうとしないのではないだろうかと。そして、今回は、嫌々ながらもネット将棋に手を出そうとしているのではないだろうかと。


 僕の顔を見て、師匠は立ち止まった。僕も、つられて立ち止まる。お互いが、お互いを見つめ合う。


「……君が何を心配しているのかは分からないけど……」


 師匠は、言葉を紡ぎ出す。僕の不安を、和らげるように。


「私は、君と将棋を指したいだけだから」


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