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とある師弟の帰り道  作者: takemot
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第10話 ……ありがとう

 師匠との帰り道。学校から駅までの道のり。


「師匠! あれ、見てください!」


 そう言って、雨上がりの空を、僕は指差す。


 僕の言葉につられるように、師匠は空を見上げた。


 夕焼けに染まった空。そこに広がるのは、色鮮やかで大きな虹。まるで、空一面が大きなキャンバスのようだった。


「綺麗ですね」


「…………そうだね」


 空を見上げたまま、言葉を交わす僕と師匠。


 どうしてだろうか。師匠の反応に少しの違和感を感じてしまった。


 ちらりと師匠の方に視線を向ける。僕の目に映るのは、複雑な表情をした師匠の顔。


「師匠、どうかしましたか?」


 心配になり、声をかける。


 師匠は、少しの間黙っていたが、やがて、空を見上げながらゆっくりと言葉を紡いだ。


「いや、ごめんね。少し考え事をしてしまったよ。……私は、あんなふうには成れないなって」


「あんなふうに?」


「そう。あんなカラフルな空みたいには……ね」


 寂しそうな師匠の声。その姿は、まるで、遠い昔を思い出しているかのようだった。


 師匠の紺色の制服が、風に乗ってひらひらと揺れる。


 師匠の過去に何があって、今、師匠は何を思っているのか。僕は、全く知らない。だからこそ、師匠が何を言いたいのか、僕には分からない。


 でも、僕は、ここで何かを言わなければならない。だって、僕は、師匠の弟子なのだから。


「……いいんじゃないですか? それでも」


「……え?」


「カラフルじゃなくたって、いいんじゃないですか? 師匠は、師匠なんですから。それに……」


 きっと、今から言うことは、的外れ以外の何物でもないのだろう。なぜ、こんなことを思いついてしまったのか、自分でも分からない。でも、ここでこれを言うことは最善手だと、僕の直感が告げていた。


「僕、師匠の制服姿、好きですよ。カラフルってわけじゃないですけど、清楚って感じがして。何というか……綺麗です」


 ぴしりという音が聞こえた気がした。驚きの表情を僕に向ける師匠。その顔が、みるみる赤く染まっていく。いや、師匠だけではない。おそらく、僕の顔も、恥ずかしさで赤く染まっているに違いない。


「ま、また君は、平気でそんなことを……」


 ぼそぼそと呟く師匠。


「あ、あはは。すいません。つい……」


 妙な沈黙が流れる。だが、嫌な沈黙ではなかった。


「……行こうか」


「……はい」


 僕たちは、再び歩き出す。空一面のキャンバスの下を。先ほどよりも、ゆっくりと。お互いに歩調を合わせながら。


 ふと、師匠が小さく何かを囁いた。全てを聞き取ることはできなかったけれど、最後の一言だけは聞き取ることができた。


「……ありがとう」


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