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とある師弟の帰り道  作者: takemot
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第8話 ……だからだよ

 師匠との帰り道。学校から駅までの道のり。


 今日は、午後からずっと雨が降っている。僕たちは、お互いに傘を差し、いつものようにゆっくりと歩みを進める。僕たちの頭上で、傘に落ちる雨が、パツパツと優しい音を響かせ続けていた。


「僕、雨って好きなんですよね」


 会話が途切れた頃、ふと、思ったことを口にしてみる。


 友人からは、よく変わっていると言われるが、僕は、雨が好きだ。植物から滴る水、傘を差す人々、そこら中にできた水たまり。雨が降ることで、いつも見ている風景はがらりとその様相を変える。そこには、いつもとは違う世界に放り込まれたようなわくわくがある。


「師匠は、雨、好きですか?」


 僕がそう聞くと、師匠は少し考える仕草をした後、ゆっくりと口を開いた。


「……私も、雨は嫌いじゃないよ。雨音を聞きながら将棋を指すのも風情があるしね。でも……」


「でも?」


「……この時間に降る雨は、嫌いかな」


 いつものような穏やかな表情を僕に向ける師匠。


 何とも意外な答えだった。大抵、『○○が好きか』という質問に対しては、『好き』、『嫌い』、『どちらでもない』の三択くらいしか答え方がない。まさか時間帯で嫌いになるなんて……。


「えっと……どうしてですか?」


 師匠が、僕の想像を超えた答えを出すことはよくあることだが、今回はどうしても理由が気になる。僕はすぐさま師匠に質問した。 


「それは……」


 僕の質問に、師匠が答えようとしたその時だった。


「あ! すいません、師匠」


 はっと気が付く。僕の差している傘が、師匠の差している傘の下に入り込んでしまっていた。師匠がどんな答えを言うのかが気になって、師匠に近づきすぎたせいだろう。僕の傘から滴り落ちる水は、もう少しで師匠を濡らしてしまうところだった。


 気が付いてよかった……。


 そう思いながら、師匠と距離を取る。僕と師匠の距離が、いつもより少しだけ離れる。


「……だからだよ」


 師匠がぼそりと呟いた。だが、雨音のせいでよく聞き取れなかった。


「師匠、何か言いましたか?」


「……別に」


 僕から顔をそらす師匠。その表情は、どこか不機嫌そうだった。


「あ、さっきの話の続きですけど、師匠はどうしてこの時間の雨が嫌いなんですか?」


「……教えない」


「え!?」


「……やっぱり、自分で考えてみて。その鈍感さを直すためにも……ね」


 師匠は、こちらを見ないままそう言った。


 怒っているわけではなさそうだ。どちらかといえば、拗ねているという感じだった。


 先程より、雨が少しだけ強くなったような気がした。


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