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プラネットルナ  作者: 千代鶴
第一章 初土俵
9/38

9 夕食

エンヌ嬢が、貨幣の単位であるコリカについて説明してくれるよ。

あと、秋桜嬢が相席してくるんだ。

 俺とエンヌ嬢は二階にある、とある部屋に荷物を置くと、一階のレストランへと行った。宿屋“ホテルムーンライト”の一階部分はすべてレストランになっているのだ。評判は良く、ロナウジーニョの街へ宿を予約している冒険者パーティーや、商人のキャラバンなどもここで食事をすることが多いのだとか。ちなみに丑三つは、高床の底の地上部分に寝床を与えられている。他の宿泊客の乗用動物もいるので、仲良く過ごしていることだろう。ケンカしてなきゃ良いけど。

「この世界の通貨はコリカって言うんだよな」

 俺とエンヌ嬢は空いているテーブル席に着席した。力士に匹敵する大柄なヒト族や妖人族もしばし訪れるということで、大型の椅子があって俺も腰掛けることができた。料理が運ばれてくるまでもうしばらく時間がかかるだろう。エンヌ嬢には少し申し訳ないが質問攻めに行かせてもらう。

「うん。そうだよ」

「どれぐらいの価値があるんだい??」

「う~ん。そうだね。1コリカでおにぎりやパンが一個買えるぐらいだね。携帯用のお弁当だと5~10コリカあたりが一般的かな。お茶は小瓶で3コリカ、中瓶で5コリカ、大瓶だと10コリカあたりが相場だよ。宿屋だと安いところで30コリカ辺りからあるけど、一般的な宿屋は70から100コリカ辺りかな。あとは実際に旅をしながら勉強しようか」

「おお。エンヌ嬢と冒険しながらの社会勉強、とても楽しみだぜ!あと、どうやってコリカを入手するんだ?やっぱ、モンスターとの戦闘やダンジョン探索かい」

「それもあるけど、このプラネットルナではなんといっても一番目はベーシックインカムだね。職業や種別、老若男女、旅人や定住者などに関係なく、プラネットルナにいる全ての者に、月に一度1000コリカが支払われるんだ。これがベーシックインカムよ」

「なるほど。プラネットルナっていうのは、生きていくのに優しい福祉社会なんだな」

 ベーシックインカム。記憶喪失の俺だけどその概念は理解できているのだ。きっとネットサーフィンでもしていて覚えているのだろう。

「うん。とても暮らしやすい世界よ。そして二つ目はサラリー、つまりは給料ね。まず、プラネットルナにはいくつもの職業があるんだけど、そのすべては職業別ギルドによって管理されているんだ。わたしリリエンヌだったら、森林の女神サクラローラギルド、サンちゃんみたいな力士だったら、プラネットルナ相撲協会ギルドみたいにね。支払われる額はレベルやクラスによって変わってくるんだ。ただし、最低賃金が設けられていて一月あたり1000コリカ。これを下回ったらいけない規則になっているの」

「なるほどなるほど。ってことは俺も相撲協会ギルドに所属していることになるんだよな」

「うん。もちろんだよ。サンちゃんだったら十両クラスだから、15000コリカがサラリーだね」

「へえ。俺ってそんなに給料もらえるんだ」

「うん。十両以上は関取ともいわれるから、序の口クラスや幕下クラスに比べて、ぐんと給料が良いんだよ。ちなみに、レベルだけど他の職業は数値が大きい方がレベルが高いのに対して、数値が小さい方がレベルが高いのが力士っていう職業の特徴なの。たとえば、十両15枚目より十両1枚目のほうがレベルが高いっていう具合にね。まあ、これは格闘技、武道系すべての職業にいえることかな」

「なるほど。エンヌ嬢の説明はわかりやすいな。すごく助かるぜ」

「え?そ、そうかな。でも、そう言ってくれるのって嬉しいな。ありがとね、サンちゃん。あとはサンちゃんが言っていたようにモンスターとの戦闘だね。最も異世界ファンタジーなお金の稼ぎ方と思っている者も多いって言われているわね」

「まあ、大半の異世界ものといったらこれだよな」

「うん。プラネットルナを知らないサテライトアースの者たちはよくそういうんだ。サンちゃんも記憶喪失だから仕方ないけど、この世界には二つの動物系統に分かれているんだよ。あ!少し話しはそれてしまうかもだけど、このまま動物のお話しを進めさせてもらうね。コリカ硬貨獲得と大きく関わりがあるから。

 ひとつはヒトや妖人族にとって友好的な、フレンドリーアニマルね。うっしやアポロ鳥なんかの乗用動物もこの類いなんだよ。戦闘バトルより、彼らと触れ合うことを楽しみにしている者もこの世界にはたくさんいるんだ!わたしリリエンヌもそうしたひとりなのよ!

 そして、もう一方がヒトや妖人にとって脅威となる、エネミーモンスターね。わたしリリエンヌが襲われた人食い花や、小鬼族やゲル状生物の大半がこの類いよ。ヒトや妖人族の中で、がめつい欲望を持った強欲な者の欲の虫がコリカ硬貨に乗り移り、それが具現化してモンスターになってしまったものなの。だから、アイツらをやっつけるとマネーロンダリングされて、キレイなコリカ硬貨に戻るんだ。で、この硬貨はやっつけた者やパーティの所有になるのが、この世界での決まりなんだよ」

「なるほどな。えっと、エネミーなモンスターと戦って倒せば硬貨を得ることは出来るけど、無理にモンスターと戦わなくても、収入面での心配はほとんどない、食いっぱぐれることはないっていうのがプラネットルナという世界なんだ、っていうのはなんとなく理解できたぜ。フレンドリーなアニマルもたくさんいるようだし、福祉や労働面でも充実しているみたいだし、ずいぶんと優しい世界なんだな。記憶喪失な俺だけど、エンヌ嬢のような優しい住人が多くいるであろう、プラネットルナに転生できて良かったと思うよ」

「もう、サンちゃんったら照れることばかり言うんだから!……あ。料理が来たみたいだから、まずは料理を食べよう。わたしリリエンヌはもうお腹ペコペコ」

「俺もだよ。エンヌ嬢」

 ジューシーな湯気をたてながら、焼かれた魚や大きなエビなどがテーブルへと運ばれてきた。若いイケメン男のウエイトレスだ。


 ピラという魚の白身肉を口へと運ぶ。柔らかな軽い歯ごたえとともに、少し生臭い生物本来の肉の味とシトラスの酸味とオイルとが絶妙なバランスで折り合っている。噛めば噛むほど旨い!が広がっていく。この白身肉もたくさんの魚やエビやカニなどを食べてきた生き様があるのだろう。エメル村近辺の小さな支流の川から、ペレの大河へと広がっていくのを感じる。……なんで?こんなに食レポが上手いのだろう?ああ。そういえば、聖母様にねだった能力のうち、グルメってのがあったんだっけ。そのことを思い出す。

「サンちゃん。いくら魚の肉が動物の肉よりヘルシーとはいえ、やっぺりきちんと野菜も食べないとダメだよ」

 そう言うと、エンヌ嬢は大量のサラダを皿に盛って俺へと渡してくれた。彼女ぐらいの年代だと、割に親しい者に対してお節介を焼きたがる女の子も多い。心根が優しくフレンドリーなところのある子なので、お節介を焼きたがるのだろう。こういった感覚も、記憶として覚えていて理解できてしまうのだろうか。こんな風に俺とエンヌ嬢のふたりで食事を楽しんでいるときであった。

「相席宜しいでしょうか?」

 丁寧に話しかけてきたのは、澄み切った美しい声質の若い女であった。長い黒髪を背中で一つに束ねている。光の当たるところは黒というより深すぎる濃すぎる翠色に輝く。切れ長のつり目は穏やかに口元を軽く緩めている。白い衣に赤い色の袴。顔立ちは純和風なので巫女さんだろう。年齢は18歳から20歳ぐらいの、べっぴん美女だ。

「ええ。かまいませんよ。ね、サンちゃん」

「おう。もちろんだとも」

 かなり席数の多いレストランであるのだが、テーブル席もカウンター席も埋まっていた。地元の者も多いが大半は俺やエンヌ嬢のような旅の冒険者。プラネットルナ中を見聞しているはずなのに、彼らの中からも俺やエンヌ嬢を珍しがり、握手を求めてくる者もいた。


「袖触れ合うも多生の縁。自己紹介させて頂きますね。わたしの名前は聖域イセ乃秋桜コスモス。ご覧の通り東の海の果て、日暮夢神祇国ニッポムジンギコク出身、きらら女神に従える巫女でしたが、プラネットルナ中を旅してみたいという誘惑に駆られ、そして誘惑を断ち切れず負けてしまい、今はこの世界をぶらりと旅している流浪の巫女です」

 彼女、秋桜と名乗った流浪中の巫女はエンヌ嬢の隣に座った。4人掛けの角形のテーブル。ちょうどエンヌ嬢の隣が空席だったので、これで全部埋まった格好だ。え?計算が合わないって。いやいや、力士である俺の身体は二倍!二倍!だから、計算はばっちり合うのだ。

「まずはわたしリリエンヌから。わたしは睡魔の森乃リリエンヌです。森林の女神サクラローラの巫女をしているのですが、秋桜様と同じくずっと故郷の睡魔の森の中でゆるやかな時間の流れの中、穏やかで平和だけど何も起こらない毎日に飽き飽きして、故郷を飛び出してしまいました。何より、プラネットルナにはどんな国家や都市があって、ヒトをはじめどんな種族の方たちがいるのか、彼らと交流したいという発作が抑え切れず、旅に出ることに決めましたの。あ。少し長くしゃべりすぎましたね。ゴメンね、サンちゃん。出番を遅れさせてしまって」

「いやいや、かまわないよ。おかげで俺も知らないエンヌ嬢のことをきけたしね。えっと、俺は雷電サンダー。力士で十両15枚目です。記憶喪失なので、これぐらいしか語れることがないです」

 もちろん、聖母様のことを話すわけにはいかないしね。俺の語ることの出来るのは、実際これぐらいしかないのだ。

「秋桜様。サンちゃんはね、人食い花シュンペーターに食べられてしまう寸前だった、わたしリリエンヌの命を救ってくれたんですよ!」

 目を輝かせながら話すエンヌ嬢。嬉しいとは思う。そう感じている。

「記憶喪失の力士が絶体絶命のエルフェアーの巫女の命を救う。失礼ながら、とても奇妙な話しですね。だけど、こうした奇妙な出来事を知るのも旅や冒険の醍醐味。とても素晴らしい話しだと思いますわ」

 にこり、穏やかに微笑む秋桜嬢。かわいく美しい。流浪を続けながらプラネットルナ中の者たちを魅了してきたであろう。

「ところで、秋桜嬢はぼっちで旅をしているんですか?ここのレストランにいる者たちは、みなパーティーを組んでいるようですし、俺とエンヌ嬢もついさっき出逢ったばかりとはいえパーティーです。いや、いらぬ詮索でしたかな?いくら熟練の冒険者とはいえ、若い女性が一人で旅をしているというのも、心細くさみしいだろうと思いまして」

「いいえ。怒ってなどいませんよ。お優しい心の持ち主でいらっしゃるのですね。雷電関は」

「いやいや」

 少しデレッとすると、軽くエンヌ嬢にスネを蹴られてしまった。焼き餅かな?かわいいと、思う。

「実は、今現在、妾を入れて三人でパーティーを組んでいます。残りの二人は同じく日暮夢出身で、それぞれくノ一と侍です。実はロナウジーニョの街で、最近ここら辺でエネミーモンスターである半魚人ピグーが増えていて、安全なはずの村を襲う可能性があるとして、調査をする仕事をハローワークで引き受けたのです。それで、それぞれエメル村、エジミウ村、リシャルリ村へと分かれて単独で調査をしている最中なのです」

「えええ!それってけっこうヤバイんじゃ?」

 俺とエンヌ嬢は同時に叫んでいた。皆の視線がこちらへと向けられてしまう。

「心配は無用です。ここにいる冒険者のみなさんなら、ピグーの一匹や二匹、朝飯前のお茶の子さいさいでしょう。もちろん、ご貴殿がたも」

「えっと、エンヌ嬢。秋桜嬢が言っているエネミーモンスターって、どんぐらいの強さなの?」

「まあ、秋桜様の仰る通りそんなに強くないかな。サンちゃんが倒してくれたシュンペーターより、少し弱いぐらいだから」

「ああ。なら楽勝かな。まあ、油断は大敵だけど」

「それに、まだ出ると決まった分けではありませんしね。もし、明日調査して出る気配が無ければ、それを結果にしてハローワークに報告しようと思っているんですよ」

 秋桜嬢の秋を思わせる穏やかな微笑みは相変わらず。どことなくエンヌ嬢同様ヒトならざる者の妖しさを感じる。ヒトであるのに、ミステリアスすぎてそう感じてしまうのか。

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