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プラネットルナ  作者: 千代鶴
第一章 初土俵
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5 うっしの丑三つ

今回は丑三つ、初登場!

 まぶしい!初めて浴びるプラネットルナの陽射し、その強烈なまでの明るさに俺は目を閉じてしまう。記憶を失ったままこの世界に転生していて、けっこう時間が経ったような気がするけど、初めて外へと出たのだ。目が太陽の光線に慣れていないせいもあるだろう。

 だんだんと明るすぎることへの辛さはなくなってくる。まず、目に飛び込んできたのは青い空、白い雲、そして大きな縦方向の大きな環っかを持った球体。きっとあれがサテライトアースなのだろう。明るいので透明というか、白く透けるように見えている。

 空気はかなり湿っている気がする。樹木は巨大で濃い緑色の葉に覆われている。植物の知識に乏しい俺であるが熱帯性の常緑樹だと思う。巨大な樹木がたくさんあるのだが、森林というよりジャングルやセルバといった感じなのだ。そう、まさに熱帯なのだ。だけど、生命を脅かすような暑さは感じていない。湿気が高すぎることを除けば初夏の気候に近いように思えるのだ。記憶のない俺には思い出せないが、少し暑いけどまずまず過ごしやすい、4月の終わりあたりから梅雨入り直前までの気候のように思えるのだ。

 神殿の前に一頭の牛に似た動物がいた。身体全体が赤い短めの毛に覆われていて、俺が知識として有している家畜の牛とほぼ同じ大きさなのだ。その両脇には大きな荷物が積まれている。あの中に、俺の、雷電サンダーの生活用具や武器などが入っていると思われる。

「雷電サンダー、その子は“うっし”というプラネットルナではありふれた、個人用の乗用動物です。あなたの旅のパートナーとして、とても頼りになる存在です。大事にしてあげてくださいね。それとその子に乗せられている二つの箱は明け荷です。この世界では力士のトラベル用ボックスという位置づけとなります。中に浴衣や湯飲み、歯ブラシセットなどの必需品が入っているのでチェックしてください。足りないものはすぐに手配します。それと、分からないアイテムは調べてください。もう、ルナカツ石板の使い方は分かりますよね?」

「ええ。いじっているうちになんとかなりました。何から何までありがとうございます。聖母様」

 俺を旅させるのが、聖母様の目的でもあるのだ。それでも、ここまで至れり尽くせりしてくれると、ありがたくて感謝感激だ。いやあ、本当にありがたい。


 俺はうっしのペースに合わせるようにゆっくりと密林の中の小径を歩いて行く。まさに牛歩という感じの移動速度。うっしに荷物は運んでもらっているので、俺はルナカツ石板を見ながら歩いている。本来なら歩き石板は御法度なのだろうが、ここは俺とうっしの一人と一頭しかいない。なので、見ながら歩いている。

「おかしいなあ。マップによるとロナウド街道という大きな道が近くにあるはずなんだけど、なかなかたどり着けないんだよ。こりゃあ、いったいどうなんてんだろうね、丑三つ。もしかして、初期不良なのかな?」

「もーもー」

「なになに。あの聖母様に限ってそんなポンコツを渡すはずがないって?確かにそうだよな」

 俺は歩きながらずっとマップを見ていたのだ。もちろん、マップはルナカツ石板にプリインストールされている。近辺だけではなく、世界中を見ることの出来るすこぶる性能の良いやつだ。プラネットルナはかなり広い世界だと分かった。色々な国や地域があって山脈や大洋、そして大陸に島があるのだ。遠くに行きすぎて、俺がいる地域が分からなくなって一瞬焦ったが、適当にいじくっているうちに無事に帰還することができた。今、俺たちがいるのはカナリア王国という所だ。

 ちなみに、丑三つというのは俺がうっしにつけた名前だ。一般名詞のうっしだと後々ややこしいことになりそうだから、固有名詞をつけた。うっしだから丑三つという、我ながらセンスの欠片もない名前をつけてしまったが、とくに不満の表情をすることなく彼は受け入れてくれた。まあ、名前のセンスがないのは、この世界での俺の生みの親である聖母ノン様の影響なのかも知れない。お仕置きがあるので、声に出しては言えないことだけど。


 ようやっと、合流地点へと出た。ロナウド街道、思いのほか大きな道だ。上下線とに道は分かれているのであるが、車道だけではなく歩道まであるのには感心した。しかも車道も広くて豪華ならば、歩道もかなり余裕のある造りになっている。両方とも石畳だ。車道も歩道もそのわりに凹凸は少なく、ヒトも含めて全ての生き物にとって歩きやすく、また怪我しにくい優しい構造になっている。

 車道のセンターラインは赤く光っていて、1ドレほどの高さの光の柱になっている。よく注意して見てみると、センターラインには等間隔に赤色の宝石が散りばめられている。おそらく魔力を宿しているのだろう。魔法の力で光っているのだと、俺は予想する。まあ、何分記憶がないし来たばかりの世界なので、よくは分からないのだ。あ。ドレというのはこの世界での高さや長さを測る単位で、1ドレは1・1メートルほどである。度量衡のこともルナカツ石板に載っている。

「さてと、右に曲がればロナウジーニョの街、左にいけば新都市ネイマールだけど、どっちに行こうか?俺は、どちらかといえばネイマールのほうが……」

 と言ったそばから、丑三つはロナウジーニョの街へ行く歩道へと向かってしまう。ちなみに、個人用の乗用動物はヒトやヒトに近い妖人族などを乗せていなければ、車道ではなく歩道を歩くのがプラネットルナ全土の法律なのだ。ルナカツ石板で勉強しておいた。

「こら!勝手に歩き始めるなよ。俺はどちらかといえばネイマールの方へ行きたかったんだぞ。まあ、どうしても行きたいわけではなかったんだけどさ」

 丑三つを軽く叱りつつ、俺は彼に誘われるようにロナウジーニョの街へ向かって歩き始める。まあ、目的地があるわけではない。ここは気ままに、彼の気まぐれに付き合うことにする。


 歩道は俺みたいな巨漢の力士とうっしの丑三つが並んで歩いてもまだ余裕があるほど広い。車道はもっともっと広い。空が先ほどの小径より広く見ることができる。サテライトアースが青い空の中に浮かんでいる。

 やがて、車道をピンク色と黒色の2色が甘そうな感じの2ドレ強ほどの鳥が、鉄製の甲冑に身を固めた騎士を乗せて、猛スピードで駆け抜けていった。アポロ鳥という個人用乗用動物だ。少しすると、グレー一色の巨大トカゲが、大きな四輪の鉄の箱を牽引して、俺たちを追い抜いていった。トカゲというよりダイナソー。ザウルスという複数人用の乗用動物だ。巨大な鉄の箱車は乗り合いバス。ロナウジーニョの街とネイマール新都市間を結ぶ、定期用のものと思われる。

 こんな感じで数体の乗用動物に追い抜かれていった辺りで、俺はふとどれぐらい歩いたのか気になった。かなり時間が経っているような気はする。ルナカツ石板のマップで、小径からどれぐらいの距離を歩いたのか調べてみよう。

「え?……」

 俺は言葉を失った。衝撃的な結果が出てしまったからだ。あの小径のことがまったく載っていないのである。なかなか出てこないので、ずっと今進んでいる方向の逆をスクロールしていくと、知らない村の名前がいくつか出てきて、しまいにはネイマール新都市へとたどり着いてしまった。そんな馬鹿な、と思って今度は折り返してみると、やはり小さな村がいくつか出てきてロナウジーニョの街へとたどり着いてしまう。あの小径も神殿の姿もない。

 これは一体……。故障とも思えない。唯一考えられる可能性は、聖母様のお導きだ。何か意図することがあって本来存在しない場所に、神殿と小径を作ってしまったということだ。小径からすぐに街道に合流できなかったのも、敢えてそうしいていたとしか考えられないのである。

「丑三つ、おまえがロナウジーニョの街へ歩き出したのも、聖母様の意向なのか?」

「う~もも~」

 なんだかはぐらかされてしまった。いや、そんな気がしただけ、なんだけども。


 

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