表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おりがみくらぶ!  作者: 白雪ヒメ
2/4

おりがみくらぶ2ー中割り折りー

 翌日。

 くるみは待ちきれず、祈の教室の前で祈が出てくるのを待っていた。

 6時限目が終わったが、祈はすぐに出てこない。

 くるみは教室をそっと覗いて様子を見た。

 祈はみんなに話し掛けられていた。

「祈、歌上手いから合唱入って欲しいよ」

「バレー入らない?」

「茶道とか意外と楽しいよ、体験だけでもやってみない?」

 祈はみんなに優しい笑顔を返し、言う。

「ごめんね、私写真部にするって決めたんだ」

「えー!もったいない」

「誘ってくれてありがとうね」

「インドアなら美術部来ない?大会の前だけちゃんと出れば良いし、楽だよ」

「ごめんね、もう決めたんだ」

 男子もやって来て、祈に言う。

「サッカー部のマネージャーが足りないんだけど、祈、入ってくれないか」

 祈は首をふる。

「入らない」

「足の具合はどう」

「前よりは良くなったよ。気にしてくれてありがとう」

 男子は祈をじっと見て、去ろうとする祈の行く手を塞ぐように移動する。

「もう少し話そうよ」

「私、用事があるんだ」

「最近後輩と一緒に帰っているよな、バスケの子?」

「そう。帰り道が一緒だから」

「そうなんだ、俺今日部活早終わりでさ、良かったら…」

「ごめんなさい、急いでいるのでもう行くね」

 祈の背に男子が言う。

「またなー」

 教室から出てきた祈に、くるみは言った。

「先輩、人気者ですね」

「そんな事ないよ。くるみちゃんみたいに本当に私と一緒に部活をしたいって人はいないよ」

「‥そうなんですか?」

「たぶんね。特に男子はみんなそうだよ」

「男子?」

「私の見た目しか見てない」

 くるみはドキリとした。

 自分は先輩の庇ってくれた優しさに惹かれたけれど、その美しい容姿も先輩の好きな要素だ。

 祈は俯いて、苦しそうに言う。

「私、昔病気をしていてね、簡単には治らなくて、学校にも行けなくなっちゃったんだ。はじめはみんなお見舞いに来てくれたんだけど、治療の副作用で‥‥‥可愛く無くなったら、めっきり男子のお見舞いが減った‥‥中学で大好きだった人も……両想いだったんだけど、会いに来なくなった」

 祈は目を伏せて、悲しそうな顔をした。

「悲しくて、怖かった。そんなに女の子の見た目って大切なんだって、思い知らされた気分だった」

「ひどい!自分だったら絶対気にしません!毎日お見舞いに行きます!」

「ありがと。みんながそうじゃないのは分かってるし、こんな考えはとても失礼なのは理解してるのだけれど‥‥あの時すごく辛くて‥それを思い出してしまうの」

 祈は首をふった。

「ごめんなさい。こんな話。楽しくないよね、ごめんね」

「そんなこと無いです!先輩の昔の話が聞けて、良かったです」

「くるみちゃんは本当に優しいね。無理はしないで、私、ちょっと‥面倒な人間なの、自分でも分かってるから」

「ぜんぜん気にしません!っていうか、私こそウザかったら言って下さい。今日も、教室の前でずっと待ってるなんて、彼氏でもないのに変だったかなって思って」

「そんなことないよ!嬉しかった」

 祈がくるみを見て微笑む。

 くるみは決心する。

 先輩を元気にしたい。

 自由に、たくさん笑っていて欲しい。

 そのためにもおりがみくらぶを頑張るのだ。

 部活じゃなくても、部活に匹敵するくらい、ちゃんとした活動をしていこう。



    ☆彡    ☆彡    ☆彡



 くるみと凪と祈で、月ノ宮のお店へ向かった。

「凪ちゃんは自転車通学じゃないの?」

「バスです。駅に近いので通いやすくて」

「へえー」

 凪はたずねる。

「それで、先輩の家は?」

 祈よりも先にくるみが答えた。

「すごい近いよ。ほら、看板が見えてる!」

「本当だ」

 電信柱と同じ高さに「月ノ宮」の看板が立っている。

 近づいて正面から見る。

 うぐいす色の茅葺き屋根は、何度見てもまさに和菓子屋、という感じで何度見ても趣がある。

 祈が言った。

「一回お兄ちゃんがみんなと会ってみたいって言うから挨拶だけお願いしてもいい?」

「もちろんです」


「お邪魔します」

 そっと入ると、祈の兄がカウンターにいた。

「あ、この前の後輩さん」

 祈が手で示して紹介する。

「この子が日向くるみちゃんで、この子が朝霧凪ちゃん」

「よろしくお願いします!」

「すみません、お世話になります」

 祈の兄は笑って気さくに言う。

「祈から話は聞いたよ。離れは自由に使っていいからね」

「ありがとうございます!」

 くるみは思い出して付け足す。

「それから先日は家まで送ってくださってありがとうございました。祈先輩から頂いたお煎餅も、とっても美味しかったです!」

「全然気にしないで。あれ余りだし、今日も練り菓子あるから食べてきなよ」

「え!いいんですか?」

「うん。祈、案内してあげて」

「はい」


 月ノ宮のお店を出て、駐車場の端にある、建物と隣接した竹の扉を押し開ける。換気扇などがある細い道を歩いた。

 お店の茶色の壁が、黒に変わる。

 裏口のように、小さな石段とドアがあり、祈は鍵を開けてくれた。

「どうぞ、上がって」

「お邪魔しまーす」

「お邪魔します」

 玄関には花が飾ってあり、ふわりと甘い香りがした。

 洋風のリビングを横切る。

「先輩のおうち、とっても広いですね」

「そうかな?」

 祈はリビングにある扉を開ける。

 長いフローリングの廊下が続いていた。

「離れはこっちよ。リフォームを重ねたせいなんだけど、変な間取りでしょ?」

「そんなことないです!たのしいです!秘密基地みたい!」

「ふふ、くるみちゃんは面白いわね」

 凪が祈に言う。

「いっつもこんな感じですよ。ほんとにお子ちゃま」

「な!凪ちゃんひどい!」

「本当のことじゃない」

 ずっと廊下を進む。

 左手はガラス戸になっていて、庭が見える。

 くるみは呟いた。

「夜お化けが出そう」

 凪が鼻で笑う。

 祈もくすくす笑って、くるみの肩をたたいた。

「大丈夫よ〜」

「ち、違います!ちょっと想像しただけです!」

 廊下の奥に襖があり、祈がスッとスライドして開けると、中は十畳くらいの畳の部屋で、ポツンとちゃぶ台が置いてあった。

「すっごく素敵な和室!」

 凪も部屋に入り、見渡して言う。

「落ち着いていて良いですね」

 祈が「良かった」と微笑む。

 鞄を置いてちゃぶ台を囲んで座る。「さて」と顔を合わせ、くるみは気が付いた。

「折り紙忘れた」

 凪も顔をしかめて言う。

「うわ、私も」

 祈は口元を隠してクスクス笑う。

 祈も用意していないようだ。

 凪がため息をついた。

「おりがみくらぶとは」

 くるみは立ち上がり、力強く言う。

「聡美さんも言っていたじゃない。折り紙クラブの活動は折り紙だけに留まらないのよ」

「じゃあ何をするんですか」

 祈は閃いた!という様に手を合わせて言った。

「まずは腹ごしらえよ!」



 台所で湯呑を用意し、木の盆の上に乗せる。茶葉を茶漉しに入れてポッドから急須にお湯を注ぐ。

「お茶の良い匂いがします」

「今日のおやつは上生菓子だから煎茶が合うはずよ」

 先ほどチラ見した冷蔵庫の中には、様々な種類の茶葉の袋が入っていた。

「おやつによって合う合わないがあるんですね」

「うん。もっと美味しくなるよ。例えばどら焼きみたいな甘くてボリュームがあるものは、少し濃くて、香り高いお茶、深蒸し煎茶、釜炒り茶、なんかが良いわね」

「へー!」

「乾菓子は玄米茶や番茶が合うかな」

「和菓子は奥が深いですね」

「そうでしょう?」

 祈は嬉しそうに笑った。

 台所にはタッパーがあり、白いうさぎの練り切りが一つ、桜の練り切りが五つ置いてあった。

「ちょうど六つあって良かった。みんなで二個ずつ食べましょ」

「え、そんなにいっぱい食べちゃって良いんですか?」

「うん。形が崩れちゃったもので、捨てるのは勿体ないから、むしろ食べて欲しいの。お兄ちゃんも言ってたでしょ?」

 くるみは白いウサギの練り切りを観察して言う。

「とっても綺麗だけど」

「ここの耳の部分、中の餡子(あんこ)をくるむのが雑だったせいで、桃色がズレちゃってるんだ」

「こっちの桜もですか?」

「花びらの線がまっすぐじゃないでしょう?お兄ちゃんは上手いけど、私はまだまだね」

「先輩が作ったんですか?すごい!」

「ううん、売り物にならないからダメなの」

 くるみはたずねる。

「先輩は、将来お店を継ぐんですか?」

「うーん、まだ考え中。お兄ちゃんが継ぐ予定だけど、もし私もお店で働くなら、ちゃんと技術を学びたいって思う。和菓子の専門学校に行って、それから他のお店で修行を積む。月ノ宮のコネクションがあるからそこら辺は大丈夫だけど、やっぱり生半可な覚悟じゃ務まらないからね」

「そんなに努力しなきゃいけないんだ。和菓子屋さんになるのって、とっても大変なことなんですね」

「そうね」

 凪は祈に言った。

「あの、忘れていましたが、先輩受験じゃないですか。こんな呑気にお茶会やっていて良いんですか」

「いいのいいの、課題も予習も終わっているし、暇だもの」

 くるみは拍手する。

「さすが先輩!バッチリですね!」

 凪は呟く。

「つっこみが足りない」


 祈はキッチンに置いてあるもう一つのタッパーを開ける。

 中には、桃色の桜の柄が入った可愛い紙が入っていた。

「紙?」

(ふところ)の紙と書いて、懐紙(かいし)。お皿の上に敷いて、その上に和菓子を置くの。でも、昔の人は心付けを渡す時や一筆箋とか、色々な事に使っていたらしいわ」

「へえ、桜の柄がとっても綺麗です」

 凪も覗いて頷く。

「可愛い」

「でしょう?他にも種類があるのよ」

 祈は一枚取り出し、少し斜めに重ねて折る。茶たくの上に乗せ、更にその上に桜の練り切りを置いた。

 くるみは目を大きくして言う。

「すごい!とっても雰囲気でてきた!」

 祈はもう一つのタッパーから、平たい先の尖った楊枝を取り出す。

「これは黒文字(くろもじ)っていう菓子楊枝(かしようじ)。これを乗せると更に雰囲気出るよ」

「ほんとだ!本格的!」

 みんなで茶菓子と湯呑と急須を乗せたお盆を持っていき、ちゃぶ台の上に置く。

 三人はお茶を入れ、いただきます、と手を合わせた。

 一口桜の練り切りを味わい、くるみは唸る。

「美味しい!すごく美味しい!!」

 凪は味わって言う。

「滑らかな舌触り。ほんのりした甘さでとても美味しいです」

「よかった」

 祈が微笑む。

 凪がつぶやく。

「和菓子ってこんなに美味しかったっけ‥‥‥あ、すみません、月ノ宮さんの和菓子が美味しいって意味です」

 祈は「ありがと」と言い、凪にたずねる。

「あまり和菓子は食べない?」

「そうですね、最近は洋菓子が多いです」

「そっか〜やっぱり難しいわね」

「なにがですか?」

「最近の統計だと、洋菓子と和菓子だったら和菓子の方が好きっていう人は2割にも満たないらしいわ。和菓子を専門店に来店してまで買いに来る人は少なくなっているの」

 くるみは驚く。

「ええ!それは深刻な和菓子離れですね」

「そうなのよ。お店を守っていくなかで必ずぶつかる問題なの」

「原因は何なんでしょう?」

 凪が言う。

「あくまで私のイメージですが、洋菓子は和菓子よりも親しみがある気がします。練り切りなんて普段食べませんから。シュークリームとかパックのケーキならスーパーでよく見かけます」

 祈が深くうなづく。

「なるほど【親しみやすさ】か。新作の和菓子はそういうものを意識して作るのが良いかも。お兄ちゃんとお父さんに提案してみる」

 凪が首を振る。

「いえ、素人の考えですよ」

「お客さんは素人さんだもの。凪ちゃんの自然な感想がとても参考になったわ。ありがとう」

 凪は視線を逸らす。

 くるみは覗き込んで言う。

「凪ちゃん、嬉しいんだ」

「違う」



 お盆を片付け、くるみは数学のノートを開いた。反対のページを開くと、落書きが描いてある。

 そのページに、クレープっぽい逆三角形の皮に包まれた練り切りを描いてみた。

「先輩、新製品これでどうでしょう、手軽な和菓子です」

「流石にダメね~」

「じゃあこれは?」

「練り切りが潰れちゃうよ」

「うーん、親しみやすい和菓子って難しいですね」

 凪がノートを覗き込み、笑って言う。

「絶望的に絵が下手ね。くるみに商品開発は無理よ」

「むー」



 懐紙を見ていて、ふと、くるみは閃いた。

「これ、折り紙の代わりになりそう!折っても良いですか?」

「もちろんいいよ、けど、正方形じゃないから綺麗には折れないんじゃないかな」

「あ、そっか」

「私が割いてあげよっか」

「え、破っちゃって良いんですか?」

「うん、自由に使って。凪ちゃんも」

「「ありがとうございます」」

 くるみは復習で犬の顔を折った。ペンで目を描くと、良い感じになる。

 祈は綺麗な鶴を折り、凪はパクパクを折った。

 四つの凹みに指を入れ、口に見立ててパクパク開く。

 くるみは凪に言った。

「それどうやって折るの?」

「パクパク?」

「うん!顔描いてアテレコしたら、うめたん喜びそう」

「簡単よ。というか、私これだけしか折り方覚えていない」

「そうなんだ」

「折り紙あるある、鶴とパクパクしか折れない」

 祈がパクパクを見て言う。

「私も折り方知らない!教えて」

 凪に教えてもらい、くるみと祈はパクパクの折り方を習得した。



 家に帰り、折り紙でパクパクを折ってみた。

 みかんはおお!とくるみの手元を覗き込んで嬉しそうに言った。

「お姉ちゃん、ちゃんと勉強してるじゃん」

「ふふん、あたしだってやれば出来るんだから」

「角がズレてるから、顎が外れてるように見えるけどね」

「う、うるさいな」

「パクパクは四角属性で折りやすい部類だから、お姉ちゃんにちょうど良さそう」

「四角属性?」

「基礎の土台を、角を集めて四角に折るでしょ?鶴は三角属性、犬の顔も三角から折るから、三角属性。カメラとかメダルは四角にするから四角属性」

「なにそれ、初耳なんだけど」

 みかんは得意げに言う。

「プロになると、直観でわかるのよ」

 くるみが首を傾げた時、うめがやってきた。

 くるみは早速指を入れ、顔を描いたパクパクを動かしながらアテレコする。

「こんにちは!ボクはパクパク、おなかがペコペコなんだ!」

 うめの指を「パクパクー」と言って挟むと、うめは「キャァーー!!!」と楽しそうな悲鳴を上げた。くるみとうめは面白くて、何度もそれを繰り返す。

「パクパクパクー」

「キァァァーー!!」

 うめはテンションMAXでドタドタ家を駆けまわる。

 ゆずが怒る。

「うるさい!」

 うめにパクパクを持たせると、うめは、くるみに「ぱくぱく!」とやり返してきて、それがとても可愛くて、くるみは悶えた。

 しばらく遊んでから、くるみはもう一度パクパクを練習した。 



    ☆彡    ☆彡    ☆彡



 それから平日は、祈と凪とくるみで折り紙を折った。

 部活が休みの日はみかんも参加して、4人でおりがみくらぶを行った。

 活動場所は祈の家の離れに決まった。


 今日は四人でおりがみくらぶが始まった。

 お菓子を食べてから、折り紙の練習に入る。

 不思議な事に、次の折り紙をマスターすると、昨日折った折り紙を忘れてしまう。

「やばい、これ次どうやるんだっけ」

 くるみは凪に小声でたずねる。

 凪も小声で返す。

「確か谷折り」

 みかんが手元を覗き込み、ブブーと首を振る。

「ちがいまーす。反対にして山折りで折り目の線をつけてから、線に合わせて折るのが正解です」 

 みかんが教師を気取って言う。

「これ次のテストに出ますから、しっかり覚えておくように」

 くるみは腕組みして首をひねる。

「不思議だ、あたし暗記は良い方なのにな。使ってる脳みその部位が違うのかな」

 みかんは人差し指を立てて言う。

「そうよ、折り紙は芸術なんだから」

「確かにみーちゃんは絵とか工作上手だもんね」

 みかんはくるみのノートに落書きをして、祈に見せる。

「祈先輩、月ノ宮の新作はちょっとサイズを小さくして、うさぎさんを3匹にするのはどうですか?包む餡子の色を変えて、桃色の耳の子と、赤い耳の子、黄色い耳の子にするんです。三つ子うさぎちゃんの練り切りです」

 祈が明るい表情でうなづく。

「たしかに、これなら可愛いし食べやすいかも!子供は喜びそう。お兄ちゃんとお父さんに提案してみる」

 祈は紙を持ってきて、みかんの案を丁寧に描きだす。中に包む餡玉や、練り切りの厚さを書き足す。

 みかんは身を乗り出して言った。

「お、先輩ガチだ!商品化したら教えてください!」

 くるみは悔しさ半分、呆れて言った。

「みーちゃんの落書きが商品化なんてするわけないでしょ」



    ☆彡    ☆彡    ☆彡



 日曜日。

 折り紙クラブの日になった。

 公民館にみかんを含めた4人が集合する。

 祈は桃色のカーディガンに白いひざ下のスカート、(かかと)の低い茶色のブーツを履いている。

 長い綺麗な黒髪が風でたなびき、横髪を押さえる仕草はファッション誌のモデルのようだ。

「今日も先輩は可愛いですね。洋服もガーリッシュでとっても素敵です」

 祈は微笑んで答える。

「くるみちゃんありがとう。くるみちゃんも赤い花柄のワンピース、お花のピンと合っていて可愛いわ」

「わあ、嬉しいです!」

 みかんと凪は2人を置いて歩き出す。くるみと祈は慌てて後を追った。


 前回集まった部屋まで行くと、聡美がちょうど鍵を差し、扉を開けているところだった。

「こんにちは!」

 4人が挨拶をすると、聡美も笑って挨拶を返した。

「あら、こんにちは!来てくれてありがとう!」

 部屋へ入り、パイプ椅子に座る。

「今日はうめちゃんは居ないのね」

「はい。休日で3女と4女が面倒を見てくれているので大丈夫です」

「へえ!くるみちゃんとみかんちゃんの家は大家族なのね」

 みかんが身を乗り出して答える。

「はい!5人姉妹です」

「いいわね〜賑やかそう」

「楽しいですよ!」

 話をしながら聡美はカゴから折り紙の箱を取り出し、みんなの顔を見る。

「じゃあ、折り紙クラブを始めます。今日は【練習】【準備】【活動】の中でも、【準備】をしたいと思います」

 くるみは言う。

「確か【準備】は、【活動】の前準備、でしたよね」

「そうそう、来週は【活動】を行う予定で、介護福祉施設でボランティアをします。その時使うものを今日折る予定なの」

 みかんはすぐに手を挙げて言った。

「うちボランティア参加したいです!」

「あたしも!」  

 くるみも手を挙げ、凪と祈も「参加します」と答えた。

 凪が言う。

「でも私、介護福祉施設のボランティアとか初めてです。大丈夫でしょうか」

 聡美が籠からボランティアについて印刷された用紙を取り出し、配って言う。

「私たちだけじゃなくて、学生さんも沢山いるよ。お掃除と、自由時間にお話しをする感じかな。むずかしい事はしないから安心してね」

「そうなんですね」

「ええ、気負わなくて大丈夫よ」

 それでね、と聡美は続ける。

「今日はその時首にかける、名札を折ろうと思います」

 くるみは思わず顔をしかめた。

「むずかしそう」

 みかんも腕を組み、首を傾げる。

「うち名札作ったことない。首から下げるメダルとかは二種類折れるけど」

 聡美はみかんを褒める。

「みかんちゃん凄いわ。実際名札と言っても、折るのはメダルで中心の空白に名前を書くのよ」

「そうだったんですね!それならうち出来ます!」

 みかんと聡美の説明を聞きながら、くるみと祈と凪はメダルを折る。

 聡美の説明の間をぬって、みかんが言う。

「これは四角属性よ。まず縦横斜めに折って折り目をつけるの。これは漫画とかと一緒で後々とても重要な伏線となるから、丁寧に折ること!」

 くるみは「はいはい」とてきとうに返事をする。

 聡美がくるみの手元を覗き込んで言う。

「もう少し角を揃えてみて」

「はい」

 祈が応援する。

「くるみちゃん頑張れ」

「はいっ!」

 聡美がホワイトボード上の、磁石で留めた折り紙を折って説明をする。

「中央の横線に、四角の上下の辺を合わせるように折ります。長方形になったら、今度は縦の中央の線に、左右の辺を合わせてように折ります。開いて、折り目の線に沿って開くように折ります」

 凪が呟く。

「わからん」

 みかんと聡美が付き添い、なんとかメダルを完成させる。

 くるみは机に突っ伏した。

「難易度高すぎ!」

 みかんがペンを配りながら、くるみに言う。

「まあ、とりあえず完成させたし上々よ」

 祈もくるみの背に手を置いて励ます。

「そうよ、すごいわ、くるみちゃん」

 凪がぼつりと言う。

「なんかズルい」

「お!凪ちゃんも褒めて欲しいんだ!」

「そんなんじゃないから」

 メダルの中央にある空白に名前を書く。

 祈が凪のメダルを見て、言う。

「凪ちゃん、達筆ね」

「書道を習っていたので」

 くるみはみかんの字を見て、笑って言った。

「それに比べてみーちゃんの、何この丸っこい字。バカっぽい」

「お姉ちゃんさいてー!お姉ちゃんのなんか、極太で読めないじゃん!きったない!」

 祈がくすくす笑って言う。

「くるみちゃんらしくてとっても良いわ。みかんちゃんのも、可愛らしくて私は好きよ」

 祈の文字はバランスが取れており、太さも丁度よく綺麗だ。

 凪が感慨深く言う。

「字は体を表すとはよく言ったものね」

 穴を空け、紐を通して完成させる。

 聡美が手の平を合わせ、言う。

「では、今日の折り紙くらぶはこれで終わりです!来週は現地集合なので、よろしくね」


 

    ☆彡    ☆彡    ☆彡



 くるみと凪は写真部に入部の紙を出した。祈も写真部に転部した。

 放課後は3人で集まり、おりがみくらぶを行った。


 そして、みかんが居る水曜日。

 4人で集まり、おりがみくらぶが始まる。

 くるみは提案した。

「おりがみくらぶの五か条とか作ろうよ」

 みかんが立ち上がって言う。

「1、まずは腹ごしらえ!」

 くるみは言う。

「2、楽しく」

 みかんが腕を組む。

「3、休憩はこまめに取る、無理はしない」

 祈が言う。

「4、誰かが困っていたら、みんなで助けること。折り紙は全員で折る」

 みんなが凪に視線を注ぐ。

 凪はいっぱく置いて、言った。

「5、活動は真面目に行う」

「いいね!凪ちゃん書道で書いてよ。飾ろう」

 祈もうなづいて楽しそうに人差し指を立てて言う。

「じゃあ、書道セットと、紙を入れる額が欲しいわね」

 くるみは考えて言う。

「ホームセンターならあるんじゃない?」

 みかんがぽんと手を叩く。

「そういえば、額は無〇良〇で安いの見ました!ついでにお買い物しましょう!」

「いいね!早速出発よ!」


 近くのバス停からショッピングモール行きのバスに乗る。

 到着して、皆んなで洋服を見て回った。

 みかんがゲームセンターに行きたいと言い出して、UFOキャッチャーをしてプリクラを撮った。

 凪がプリントシールを見て言う。

「今時プリクラって逆に古くない?」

 みかんが凪の背を叩く。

「も〜凪先輩は細かいですよー、っていうか、うち喉乾いてきちゃいました」

「みーちゃんは本当に自由人なんだから」

 祈が笑い、ショッピングモールの冊子を開いて言う。

「お茶してこうか。一階に、抹茶の専門店があるみたい」

 くるみとみかんは目を輝かせた。

「えー!なにそれ!めっちゃ行きたいです!」

 凪も静かに頷いた。


 抹茶ソフトが乗ったパフェ、バニラ風味の抹茶ラテ、抹茶を使ったパンケーキ。

 みんな大興奮で写真を撮った。

 くるみはマグカップを指差して言う。

「みて!ラテの上にくまさんが描いてある!超かわいい!」

 凪も楽しげにカップを覗く。

「あ、私のはうさぎだ‥かわいい」

 祈とみかんは交互にスプーンを差し込み、パクパクとパフェを食べている。

 お腹を満たしてから、凪が言った。

「あれ、私たち何しに来たんだっけ」

 みかんが言う。

「ねえ、それより、みんなでオソロの物買いに行きましょう!さっき2階に可愛い雑貨屋ありました!」

 凪はいっぱく置いて言う。

「パンダグッズ、あった?」

「ありそうでした!」

 

 帰ってきてから目的を思い出す4人だった。



    ☆彡    ☆彡    ☆彡

 


 日曜日。

 四人は介護福祉施設に集合した。

 聡美も合流し、入口で待機する。

 外壁がクリーム色の、想像していたよりも大きな建物だ。駐車場も広く、すでに多くの人が集合していた。

 全員で職員の説明を聞いた。

「まず掃除をしてもらいます。1階2階、3階に分かれるので、ついてきて下さい」

 上靴に履き替え、中に入る。床はベージュの柔らかい床で、シンプルで落ち着いた感じが少し病院に似ている。広いパーテーションがあり、丸い大きな机や椅子が置いてあった。ここで交流をするのだろう。

 職員は3人いて、それぞれ集団が3つに分けられ、掃除する場所へ誘導された。

 くるみ達は3階で、雑巾を渡された。

「廊下、トイレと、四人部屋の窓拭きをお願いします。1時間後にまた招集しますので、よろしくお願いします」

 職員は床の隅を指差す。

「こういうところまでしっかりお願いします」

 それだけ言うと、職員は行ってしまい、ボランティアの人達は戸惑いながらも少しずつ掃除を始める。

 トイレの洗面所で雑巾を濡らしていると、凪がくるみに言った。

「かなり広いから、大変そう」

「そうだね、でも来たからには頑張ろう」

「うん」

 廊下へ向かうと、すでに祈は床に手をつき、廊下の隅をていねいに掃除している。

 多くの人は窓ふきだったり、箒をつかっているのに、祈は手や身体が汚れることを厭わないで、職員の指示通り、しっかり掃除をしている。なんて偉いんだ。

 くるみも反対側の廊下の端を拭いていると、女性の声が耳に入った。見ると、女性達は大学生くらいの年頃で露出の多い服を着ていた。チャラい集団だ。

 彼らは近くにいる人には聞こえてしまうくらいの大きな声量で喋っていた。


「隅の方、めっちゃ汚いんだけど。真面目にやってる人やばくね」

「ねぇ、あの女子見て。めっちゃ真面目」

「うわー、見た目からして優等生じゃん」

「ないわ」

「付き合いづらくて避けられてそう」

「アハハ、まさにそんなカンジ」


 スルーしようとくるみが踵を返そうとした時、祈は立ち上がって、彼女たちに向かって毅然と言った。 

「真面目のなにが悪いんですか?お年寄りの皆さんが快適に過ごせるようにお手伝いするのが私たちの仕事です。私は何もおかしいことをしていません。あなたたちこそ、喋ってないで手を動かして下さい」

 あちゃー。

 予想通り、女子大学生たちは顔をしかめて言い返す。

「は?何様のつもり?」

 くるみは祈に詰め寄る大学生の間に割り入った。

「すみません!私たち高校生で、まだ社会経験がないもので、いろいろ勉強中なんです。ゆ、許して下さぁぁい!」

 くるみは祈の手を引いて逃げ出す。

 祈は言う。

「くるみちゃん!」

「先輩、ああいうのはスルーに限りますよっ!」

「‥‥良くなかったかな」

「あー、えー‥」

 くるみは立ち止まり、はっきり言った。

「そうですね、言い争いみたいになったらそれこそ周りに迷惑を掛けてしまうので、あそこはスルーが一番よかったと思います。だって、先輩が正しいということは皆んな分かっていますから」

 祈はしょんぼりして言う。

「恥ずかしいわね、私」

「そんなことないです。あの人達が間違ってるんですから、先輩は気にする必要はないです。ただ、自分の意見を相手に理解させるという事自体、とても難しい事なので、ああいう癖のある人達とは、まともに取り合わない方がいい、というのがあたしの持論です」

 祈はうなずく。

「これから気をつける。ごめんね、くるみちゃん」

「気にしないで下さい。先輩のそんなところに、あたしは‥‥」

 うなだれる祈を励ましたくて、くるみは必死に言った。

「惹かれたんですから!!先輩の不器用さは世間的には短所でも、あたしにとっては長所です!」

 祈は頬を染めて笑った。

「ありがとう」


 四人部屋を掃除した。

 お爺さんとお婆さんがベッドで眠っている。

 くるみと祈は起こさないように、そっと窓ふきをしたり、床を掃除する。

 しばらくして、職員の人がやって来た。

「清掃の時間は終了です。ありがとうございました。次はレクリエーションの時間です。よろしくお願いします」

 いよいよ、折り紙の時間だ。

 作った名札を自分の首にかけ、パーテーションへ向かう。

 丸い大きなテーブルが複数あって、そのうちの一つに皆んなで丸くなって座った。

 お婆さんとお爺さんに挟まれる位置に椅子があり、くるみは少し緊張しながら椅子に座る。

「こ、こんにちは。初めまして」

 くるみが挨拶すると、お婆さんはそっと微笑む。

 くるみが話を振ろうとする前に、お婆さんはくるみの名札を指差し、話しかけて来た。

「ひなた、くるみさん。良いお名前ね」

「ありがとうございます!!お婆さんのお名前は?」

「古橋さちこ」

「古橋さん、よろしくお願いします」

「これ、作ったの?」

「はい」

 お婆さんはそっとメダルに触れる。

「上手ねえ」

「ありがとうございます」

「くるみさんは、学生さん?」

「はい、高校一年です」

「あら、一番楽しい時ねぇ」

 幾度か同じ話を繰り返しながら、折り紙を折った。

 メダルを作ってあげると、喜んでくれた。

 帰り道、みかんが言う。

「お姉ちゃんが説明の紙も見ずにメダル折っているのには、うち感心したよ」

「フフン、やれば出来るってことよ!」

 くるみは胸を張る。

 昨日と今朝復習しておいて良かった。メダル一つであんなに喜んでくれるなら、もっと沢山作ってあげられれば良かったかもしれない。それにしても、初めは濡れ煎餅みたいに凸凹で、へなへなだったのに、完璧にした自分は超偉い!

 さすがあたし!


 上機嫌なくるみの横顔を、祈は微笑んで見つめた。



    ☆彡    ☆彡    ☆彡



 とある休日、くるみ、凪、祈、うめがファミレスに揃った。

 みかんが遊びに出かけていて不在のパターンだ。三女のゆずと四女のすだちも遊びに出かけていて、両親も夜勤で爆睡しているため、くるみがうめの面倒を見ている。家に放ってはおけないので、連れてきた。

 くるみはうめに言う。

「うめたん、もうポテトはおしまいよ」

「なんで?」

「食べすぎると病気になるから」

「‥‥」

「お野菜たべよう」

「イヤ」

「ほら人参さんよ〜」

 くるみがフォークで食べさせようとしても、ふいとそっぽを向いてしまう。

 くるみは考え、お子様ランチのケチャップご飯に刺さっていた旗を取った。

 五月に因んでか、鯉のぼりの柄をしている。

 くるみは鯉のぼりの旗をうめの前でひらひらさせ、アテレコした。

「ボクはコイ。あー、おなかが空いたなー、どこかに食べ物ないかなー、あ!あそこに美味しそうな人参さんが!」

 鯉の旗で、人参をサクッと刺す。

「アムアムアム、よーし、誰かに見つからないうちに、ぜーんぶ食べちゃおう」

「ダメッ!!!」

 うめは人参を差した旗をくるみから奪い、自分で食べた。

 凪が感心して言う。

「保育の才能がある」

 祈がふふっと笑う。

「うめちゃんは鯉のぼりって知ってるのかな?」

 うめが元気よく答える。

「ちってる!」

「あら!そうなんだ。よく知ってるね」

「うん!」

 くるみは思い返す。

「そういえば、幼稚園でストローと紙をくっつけたやつ、持って帰ってきてたね」

 くるみは閃いて言った。

「そうだ!季節の折り紙をしようよ。先月は終わっちゃったけど、これから意識するの」

 凪が「なるほど」と相槌を打って、メロンソーダを飲み干す。

 祈が手を合わせ、元気に言った。

「私も賛成!じゃあ5月も始まったばかりだし、明日は子供の日に因んだものを折りましょう」



 翌日、月ノ宮の離れにて、おりがみくらぶが始まった。

「子供の日とは何か、皆さん知っていますか?」

 くるみの問いかけに、みかんが手を翻してそっけなく答えた。

「ゴールデンウィークの休みでしょ〜」

「ノンノン。祝日法2条によりますと、子供の人格を重んじ、子供の幸福をはかると共に、母に感謝する事が趣旨である、と書いてあります」

 凪がふうんと相槌を打つ。

「なんか難しいわね」

 祈はスマホを開き、読み上げる。

「鯉のぼりについて説明するね。鯉のぼりとは、古くからの日本の風習で、江戸時代に武家で始まった端午の節句に男児の健やかな成長を願って、家庭の庭先に飾る鯉の形に模して作ったものです。はじめは黒い鯉だけでしたが、明治に入ってから赤い鯉も飾るようになりました。そして昭和からは青い鯉を添えて家族を表すようになりました。近年では色も増え、男の子だけでなく、女の子も含めて鯉のぼりを作るようになりました。子供の日は子供だけでなく、家族の存在を確かめ合う家族の日へと変わっていったのです」

 みかんが空中でレバーを倒す仕草をする。

「深〇イ!」

 祈は深くうなづく。

「法で定められているけれど、様々な解釈があるのね」

 くるみは言う。

「という事で、さっそく作っていきましょう!」


 

 鯉を折り紙で作り、割り箸に貼る予定だったが、くるみは途中で気がついた。

「あたしの家、7人家族じゃん!割り箸1本に貼りきれないよ!」

 祈がリビングから紙を持って来た。

「A4の紙なら入るんじゃないかしら。七人なんて、とっても縁起が良いわね」

「7つも折れないよ~」

 くるみが嘆くと、みかんが言った。

「うちが5つ折ってあげる。お姉ちゃんはうちとうめたんの分折ってよ」

「それならできるかも!」

 みかんが説明しながら、みんなで鯉のぼりを折る。

 凪が呟く。

「案外折りやすい。四角属性だからかな」

 みかんが凪の手元を覗いて言う。

「凪先輩が折り紙の基礎を分かってきたからだと思いますよ〜」

 くるみは机に突っ伏す。

「ダメだ、しっぽがうまく折れない。左右対称にならないよ~」

 祈が定規と鉛筆を持って、隣に来てくれた。

「たぶん、ここが折れ線も何もなくて、感覚で折るから難しいんだと思う。線を描いてあげるね」

「わあ、先輩ありがとう~」

 どさくさに紛れて抱き着いてみる。

 先輩は隠れ巨乳タイプだ。

「くるみちゃん、くすぐったいよ」


 そんな感じで、鯉のぼりが完成した。

 帰る時、祈が柏餅をくれた。

「家系が絶えないように、っていう意味があるんですって。みんなの家族が安全に過ごせますように、ちょっとだけど、どうぞ」

「ありがとうございます!」

 その日は家族みんなで柏餅を食べた。

 一人一個あったので、久しぶりに喧嘩が起こらず、幸せなおやつタイムとなった。


 

    ☆彡    ☆彡    ☆彡



 土曜日、祈からチャットが送られてきた。

「三つ子うさぎ、商品化しました!」

 桃色、黄色、緑の耳の三羽のうさぎの練り切りがぎゅっと身を寄せ合い、明るい色の懐紙に乗っている。

「実際に作ってみたらとても可愛くて、興味を持ったお客さんがどんどん買ってくれたの!一日で完売してしまったわ!懐紙も色つきのもので、少しポップにしてあるよ。みんなの意見が生きたわ、本当にありがとう!」

 ダカダカダカ、とみかんが走ってきて言う。

「うちの提案した〈三つ子うさぎ〉商品化したって!」

「みたみた。ビックリしたよ。画像で見るとけっこう可愛いね。うめたん喜びそうだもん」

「うん!名前もうちが提案したんだよ、三羽だとさ、小さい子単位知らないじゃん?」

「なるほどね。悔しいけど、みーちゃんはセンスあるね」

 祈がチャットで、明日持ってくるねーと言ってくれた。



 日曜日。

 折り紙くらぶで聡美に一週間の活動を報告した。

「それで、こういう、鯉のぼりとか折ったんです」

「なるほど、すごく良いじゃない。これはくるみちゃんが折ったの?」

「そうです!」

「随分上達したのね」

「えへへ、お尻のところは祈先輩に折り線をつけて貰ったんですけどね」

「それでもすごいわ」

 今日は「ぴょんぴょんガエル」を折った。

 尻尾の部分を押して離すと、ぴょんと跳ねる。

 うめはとても喜びそうだ。

 折り紙くらぶが終わると、祈は持っていた月ノ宮の袋から、紙袋を出して一人ずつ配った。

「少しなんですけど、みんな食べてみて」

 袋に貼られたシールを取り、紙袋を開くと、長方形の和菓子のパッケージに、三羽の練り切りの兎がちょこんと身を寄せ合って並んでいる。

「超かわいい!!」

 早速、みかんが食べようとして、凪が遮る。

「ここ飲食だめじゃない?」

 聡美がいいよいいよ、皆で食べよ~とのんびり言う。

 凪がえぇ…とつぶやくが、既にみんなパッケージを開け、食べていた。

 小さいせいか、ふわっとしていて、舌ざわりが滑らかだ。しっとり甘くて、けれど甘すぎない。

「なんかもっと食べたくなるお味!」

 くるみが絶賛すると、祈が嬉しそうに笑う。

 凪も首肯する。

「小さいのも良いね。形可愛いし、親しみやすさじゃ満点なんじゃない?」

 聡美が三つ目を食べ終え、うっとりした様子で言う。

「ん~!美味しいし、下に敷かれたペールトーンの懐紙が可愛いわね」

 聡美はそうだ!と、手を合わせ、みんなを見回して提案した。

「急な話なんだけれど、私、幼稚園の先生をしているの。それで、バザーの出店が今年少なくて困っているの。ぜひ皆が参加してくれないかなーって」

「え!」

 くるみとみかんは身を乗り出す。

 すごく面白そうだ。

 凪も驚いて言う。

「聡美さんが幼稚園の先生なのも初耳なんですけど」

 祈がたずねる。

「バザーに出店なんて出来るのですか?」

「うん、食べ物関連の出し物が少ないんだ。地元で有名な、あの老舗「月ノ宮」が参加してくれれば、大盛況間違いない!祈ちゃん、どうかな?」

 聡美は妄想しているのか、うふふ、と楽しそうに笑う。

 祈もおとがいに指を添えて考え出す。

「うん。月ノ宮としても、良い宣伝になるかも。親に相談してみます」

「うん!お願いね。バザーは今月の末、5月30日、日曜日よ」

 祈はスケジュール帳を開く。

「え、マジでやるの?」

 凪のつぶやきは皆の話し声に埋もれた。



    ☆彡    ☆彡    ☆彡



 夕飯時、くるみは家族に、折り紙くらぶの皆で幼稚園のバザーに参加する予定だという話をした。 

 うめが首を傾げる。

「ばざー?」

「そっか、うめたんの幼稚園はバザーやるの秋だもんね。幼稚園のお祭りみたいなものよ」

「おまちゅりいく!」

「そうね、休日だし、ゆずにゃんか、すだちに連れて行ってもらいな」

 ゆずが、は?と振り返る。

「その日ゲームのアプデが来るから、すぐ潜りたいんですけど?まじでムリ」

「まあそう言うよね。すだちは?」

「別に良いけど」

 すだちは、ボーイッシュにカットされた短髪を掻き揚げ、頬杖をつく。

「くるみの友達に会うのは嫌だな」

「なんで?みんな良い子だよ」 

「くるみは誰にでもそう言うだろ」

 気難しい顔をするすだちに、くるみは調子よく言った。

「凪ちゃんと祈先輩は、裏表のない素敵な人です!」

「それ言わされてるやつだろ」

 何だかんだツッコミを入れてくれる、優しいすだちだ。

 ゆずが無言で野菜をみかんの皿に乗せる。

 みかんはすだちの皿に、みかんの野菜を足した山盛りの野菜を乗せる。

 すだちは無言でそれを食べる。

 すだちはそういう性格だ。

 くるみは言う。

「無理はしなくていいのよ、あたし食べるから」

「してない。ご馳走様」

 すだちは部屋に戻ろうとする。

 ゆずはすだちに声を掛けた。

「すだち、待って。お小遣いあげるから、ゆずの家庭科の宿題やってくれない?」

 ゆずは自分のことを「ゆず」と言う。

 すだちは振り返って問う。

「いくら?」

「500」

「無理」

「800」

 競りをするかのように、ゆずは身を乗り出して言った。

「1200!!」

「なにをすれば良いんだ」

「ティッシュケースが作れない。生地は持ってる。全部作って」

「は?授業でやらなかったのかよ」

「ちゃんとやった。けど、どっかいった」

「うわ、マジでズボラだな、引くわ」

 二人はグチグチ言い合いながら、部屋へ行く。

 母親が微笑んで言う。

「なんだかんだ仲良いわね。やっぱり双子ちゃんだからかな」

 そう、日向家はみかんが中学3年生だが、下のゆずとすだちは中学2年生で、双子なのである。末っ子のうめは幼稚園の年少さんで、10歳近く離れている。

 みかんが言った。

「今思ったんだけどさ、一応、おりがみくらぶで出店するわけじゃん?なんか可愛いエプロンとか作りたくない?」

 くるみは立ち上がって言った。

「お揃い!めっちゃいいじゃん!」

 みかんは首を傾げる。

「でもさ、うちらの中でエプロンとか作れる人いる?」

「どうだろう。凪ちゃんは苦手というか興味なさそうだし、祈先輩も手芸が得意って話聞いたことないな」

 みかんが牛乳をたっぷり注ぎ、飲み干して言う。

「すだち誘ってみようよ」



    ☆彡    ☆彡    ☆彡



「でもさ、どうして来てくれたの?」

 土曜日、月ノ宮の離れで折り紙くらぶが始まった。

 くるみの問いに、すだちは落ち着いて答える。

「ぼくが和菓子を好きだって分かっていて誘っているのかと思ったよ」

「あげるなんて言ってないけど?」

 すだちは少し恥ずかしそうに言う。

「だって、くるみとみかんが今日のお菓子がどんなに美味しかったか、よく話しているから気になったんだ。お土産のおやつも全部月ノ宮さんのところで美味しかったし」

 祈は手を合わせ、うんうん!とうなずく。

「教えてくれる代わりに、ぜひご馳走させて。すだちさんはどんなお菓子が好きなの?」

「なんでも好きです」

「あら、嬉しいわ」

 くるみは思わず言った。

「あたしもなんでも好きですよ」

「うふふ、知ってるよ。でもくるみちゃんは、動物の形とか柄が特に好きよね」

「んな!ばれているだと!」

 すだちは呆れた顔で言う。

「くるみ、張り合わなくていいから」

「そ、そんなんじゃないわ。すだちは黙ってて」

 凪が腕を組み、意地悪気な笑みを浮かべて言う。

「くるみ、ご教授くださる先輩に、その物言いは無いんじゃない?」

「うっ」

 すだちは言う。

「ああ、大丈夫ですよ。ぜんぜん気にしてませんから」

 凪が目を丸くする。

「同じ環境で育っても、くるみとみかんとは大違いね」

 みかんが唇を尖らせて主張する。

「凪先輩、勘違いしてます!すだちはこう見えて、かなり不真面目なんですよ。元々なんでも出来るからって…」

 祈がパンパン、と手を叩く。

「折り紙くらぶの五か条を思い出して。みんなで楽しく折り紙をすること。そして、活動は真面目に行うこと。活動に直接つながってくる、このエプロン作りは、真面目に行わなければいけないわ」

「はーい」

 みかんは不服そうに返事をする。

 すだちは言う。

「皆さんの、手芸が得意ではない、というのは、どういう感じですか?例えばミシンの扱いができないとか、エプロンを作った事がない、とか。状況によっては数日で完成させるのは難しいかもしれません」

 祈は言う。

「私はミシン。角を曲がる時とかに、たまにくしゃっとなってしまうの」

 凪もうなづく。

「まあ、似たような感じかな。授業で習ったことはとりあえず出来るけど」

 すだちは分かりました、と答えて言う。

「くるみとみかんは玉結びすらまともにできないので、まずぼくは二人に付き添うことにします。生地は買ってありますか」

「ええ、見ごろの型もあるわ」

「見せていただけますか」

「もちろん。昨日みんなで買って来たの」

 祈は袋からエプロン製作のキットを取り出す。袋には布と型、作り方の紙が入っている。

「説明書通りやっていけば大丈夫そうですね。布を切るところから始めましょう」

 各々、作業を始める。

 すだちが言う。

「くるみとみかんはチャコペンを出して。まず製図からだ」

 結局、その日は布を切ったところで終了した。

 祈と凪は首紐、腰紐、ポケットのステッチが完了した。

 途中お菓子タイムが入り、お喋りをしていたらあっという間に日が暮れてしまったのだ。

「ミシンが足りないわね」

 祈がおとがいに指を添え、考える。

 打ち解けたすだちが言った。

「ぼくの家に3台ミシンがあります。良かったら皆さん家に来ませんか?」

「3台もあるの?」

「はい。祖母と母親とぼくの物です。ぼくの家は、かなりぼろいし、先輩のお家とは違って、牛乳位しかおもてなしは出来ませんが」

 祈は首を振り、笑顔で言った。

「おもてなしなんていいのよ。良かったら使わせて欲しいな」

 日向家に祈と凪が来ることが決まった。



    ☆彡    ☆彡    ☆彡



 休日友達を家に呼ぶと予め言っていたにもかかわらず、ゆずは忘れているのか、ソファーで爆睡していた。

 起こそうか迷ったが、面白いのでくるみはそのままにしておく。

 チリンチリン、と呼び鈴が鳴る。

 建付けの悪い木の扉を蹴ってスライドさせると、祈と凪が立っていた。

「こんにちは!どうぞ上がって下さい」

 みかんがあとからやってきて「ご足労まことにありがとうございます」と言う。

 その後ろをうめが走ってきて、くるみとみかんとうめが小鳥のように一斉に喋りだすので、祈と凪は顔を見合わせてくすくす笑った。

 祈が月ノ宮の袋を差し出すと、うめは歓喜して裸足で玄関に降り、受け取る。

 くるみはうめに言った。

「うめたん、ありがとうは?」

「ありがと!ちぇンパイ!」

 袋を抱え、うめはリビングへ走っていく。

「あー、すみません、あたしが先輩って言っていたから覚えちゃったみたい」

「ふふ、可愛いわね」

 祈が嬉しそうに目を細めて笑った。

 今日はジーンズに白いカットソーというラフな出で立ちだ。髪を後ろで縛っていて、首のライン、鎖骨の美しさが目立つ。スタイルの良さが際立って、めちゃくちゃ格好いい。

 祈と目が合う。

 くるみは慌てて言った。

「せ、先輩のシンプルなお洋服、とってもスタイリッシュでかっこいいです」

 祈はぽっと頬を染めた。

「ありがとう」


 祈と凪をリビングへ招き入れる。

 くるみはソファーから飛び出た足を指差して言った。

「3女のゆずです。4女すだちと双子で中学二年生。特技はゲームで、あたしはよく知らないけど、オンラインの大会とかも出てるっぽい。嫌いなものは野菜と規則正しい生活で、休日はかんぜんに昼夜逆転してます」

 凪がそっとゆずの寝顔を見て言う。

「白くて細くて、美人さんね」

「全く外に出ないから紫外線に当たっていないだけで、細いのも不摂生しているだけよ」

「感想に困るわ」

 すだちが部屋から出てきて、祈と凪に挨拶をする。

「あ、こんにちは。今日はよろしくお願いします。コンセントがこっちにしかなくて、申し訳ないんですけど、こちらの部屋に来て頂けますか」

「うん」

 交代でうめの相手をしながら、五人で懸命にエプロンを折った。凪と祈が完成し、くるみとみかんを手伝う。一区切りついてリビングへ戻ると、寝ぼけ眼のゆずと鉢合わせた。

「どうも」

 ゆずは小さく頭を下げ、ふわっと大きくあくびをする。

 祈が言った。

「ちょうどいいし、お菓子タイムにしましょうか」

 皆んなでおやつを食べる。

【三つ子うさぎ】の試食だ。

「少しあんこを変えたのだけれど、前回とどっちが良いかな」

 凪が味わって言う。

「どっちも美味しいと思いましたが、今回の物はさっぱりした甘さで食べやすい気がします」

 すだちもうなづく。

「それ分かります。良い意味で和菓子っぽくないというか、舌ざわりが更に滑らかになっていて、癖が無いですね」

 祈が「すごい!」と目を大きくする。

「二人ともよく分かるわね。練り切りの餡子は餡子の中でも難易度が高いんだ。【あん】と【求肥 】と【水あめ】を使うのだけれど、求肥の製法を水練りじゃなくて、茹で練りに変えて、より滑らかで柔らかくする工夫をしたの。それから、水あめの割合を少し増やしたわ。乾燥防止に繋がるの」

 くるみは感心した。

「すごい。当日のために沢山考えているんですね」

「うん」

「でも配合を変えたりするの、すごく難しそうですね」

「そうね。けど、食品関係は同じ事をしている所は多いよ。ジュースとかアイスなんかも、季節によって配合を変えているらしいわ」

「え?!」

 驚くくるみに、祈は言う。

「チョコアイスとか冬は濃厚じゃない?」

「あれ錯覚じゃなかったんですか?」

「全部が全部そうって訳じゃないと思うけれど、うちは変えてるよ、今この瞬間、お客さんが美味しいって感じてくれるものを作りたいから」

 へえ、とみんなが驚く。

 そのあと些細な話をして、遂にエプロンが完成した。



    ☆彡    ☆彡    ☆彡


 

 バザー当日。

 くるみは、みかんと幼稚園へ向かう。

「あ!先輩!凪ちゃん!」

 門の前で祈と凪と合流した。

 みんな動きやすいように、Tシャツとジーンズの格好だ。

 祈が言う。

「みんなおはよう、今日は頑張ろうね!」

「はい!あ、先輩持ちますよ」

 祈は「月ノ宮」の上りを抱えている。半分受け取った。

「あれ、品物とかは無いんですか?」

「あとでお兄ちゃんが搬入してくれるから、取り敢えず場所だけ作っちゃいましょう」

「はい!」

 園内へ入り、用意していた関係者の札を胸からぶら下げる。

 由緒ある幼稚園らしく、門扉は黒い鉄製の意匠が凝っていて、外国のお屋敷にありそうな感じだ。外壁も桃色のタイルで覆われ、花壇には色とりどりのポーチュラカが花を咲かせている。

 祈が胸に手を当てて言う。

「なんか、わくわくしてきた!」

 くるみも思わずジャンプした。

「あたしもです!!」

 凪が小さくため息をつく。

「なんか心配なんですけど」

 みかんが凪の背を押す。

「凪先輩!大丈夫ですよ!うち接客には自信あるんです!」

「みかんが?絶対ウソでしょ」

「えへへ、大船に乗ったつもりでいて下さいよ!」

「泥船の間違いじゃないの」


 幼稚園のバザーというのは園内全体を使ったお祭りのようなもので、教室ごとに「工作①」「工作②」「絵本読み」「スライム作り」「お芝居」というように区切られている。

 くるみ達の出店は、「バザー」という場所で、お手製のお菓子や手芸の物を売る奥様方と同じ部屋だ。くるみたちはしっかり挨拶をした。

 全員でエプロンをつける。髪を纏め、三角巾を巻いた。

 くるみは手を突き出す。

「さあ、円陣を組むのよ」

 凪が「恥ずい」とぼやく。

 みんなが順繰りに手を重ねて、凪を見る。

「なーぎちゃん」

「凪先輩」

「凪ちゃん」

 凪がおそるおそる手を重ねる。

 みんなの手が重なった。視線を交わす。

 くるみが音頭をとる。

「おりがみくらぶ、月ノ宮、幼稚園コラボ始動!」

「おー!」



 長机を二つ用意し、手前は接客、奥の机は品物の包装用に分ける。

 祈は凪に指示をする。

「この上り、そこに立ててくれる?」

「了解です」

 くるみが問う。

「なにか手伝うことありますか?」

「そうね、テーブルを拭いてくれる?」

「了解です!」

 バザーが始まり、少しずつ人が増えてくる。

「いらっしゃいませー」

 くるみとみかんは集客を担当する。

 祈は慣れた手つきで「三つ子うさぎ」のパックを袋に入れ、明るい笑顔と共に、お礼を言って渡す。凪がお金を受け取り、おつりを返す。

 はじめは人が少なかったが、10時ごろになると人が増え始めた。

 12時になると、ピークを迎え、列が出来てしまった。

 後ろで「三つ子うさぎ」を袋に包装している凪が言う。

「なぜこんなに混んでいるんだ」

 くるみはお金を入れたプラスチックのケースを漁り、五百円玉を取り出す。「ありがとうございます!」と元気よくお釣りを渡す傍らで、凪に答えた。

「おそらく…バンドワゴン効果ってやつね」

「何それ」

「お客さんが増えて列ができると、それに興味を引かれた人が来て、更に混むってやつ」

 祈がくるみを肘で突いて言ってくる。

「美味しいからって言いなさい」

「はい!それはモチロンです!」

「よしよし」

 月ノ宮の商品は三つ子うさぎだけでなく、ほかのお菓子も売っている。列が出来始めたので、予め注文を聞く方法を取っていたが、急にそれが途絶えた。

 見ると、みかんの姿が消えていた。

「あの子、さては遊びに行ったのね。この人手が足りない時に〜」

 祈と凪は働きづめなので、少し休ませてあげたい。

 その時、横から声がした。

「くるみ、手伝おうか?」

「すだち!」

 ジーンズにTシャツ、つば付き帽子を被った、すだちが立っていた。

「人手足りないだろ?祈さんも凪さんも疲れているだろうし、交代で入るよ」

「ありがとう!うめたんは?」

「ゆずと昼寝してる。こんな事だろうと思って様子を見に来たんだ。先輩方に迷惑は掛けられないだろ」

「すだち~大好きよ~」

「分かったから」

 すだちはリュックを下ろし、エプロンを取り出して着換える。

「え!すだちも作ったの?」

「生地が余っていたからな」

 というわけで、交代で休憩をとり、ラッシュを凌ぐ事ができた。

 午後になり、完売か?と思いきや、祈の兄が追加の品物を持ってやってきた。

「子供達をがっかりさせる訳にはいけないからな」

 というセリフを残し、爽やかにイケメンは去る。

 バザーの親御さんが一斉に喋りだす。「あのお店の人?」「やばくない?背も高いし、俳優みたいにカッコ良かったね」「今度お店行ってみようかな」

 凪はつぶやく。

「最大の集客効果なんじゃ」



 交代でくるみと祈は休憩を取った。

 二階のカフェへ向かう。こちらも屋台方式で、パックに入ったサンドイッチを買い、窓際の席に座った。ここからだと外を見おろせる。みんな笑顔で楽しそうだ。

 くるみは大きく伸びをした。

「ふう、よく働いた~」

「くるみちゃんお疲れ!」

「先輩も!はやく食べましょう!」

 くるみはハムのサンドイッチにかぶりつき、美味しさの余り悶えた。

「ん~っ美味しい!」

「こっちの卵サンドも美味しいよ、食べてみて」

 祈が半分に割った卵サンドを分けてくれる。

「ほんとだ!ほんのり甘くておいしい!」

 ふと、会話が聞こえた。

 くるみは耳を澄ませる。

「月ノ宮のうさぎのお菓子、ほのかちゃんのお母さんに頼まれて二つ買ってきたのよ」

「うちもそうよ~。下の子が欲しい欲しいってうるさくて、結局二つ買って来たの。子供はうさぎとか好きね」

「でも月ノ宮さんのところだから、味もしっかりしていて美味しかったわよ」

「そうなんだ、交差点のところにある和菓子屋さんよね」

「そうそう、私あまり行ったことなかったけど、今度ほかのお菓子も食べてみたいって思ったわ」

 くるみと祈は視線を合わせる。

 大成功だ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ