第八十話 せっかく異世界に来たのだから束の間のまどろみを
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「ルヴァン、起きて」
リリシアの優しい声が俺の耳をくすぐった。
心地よい暖かさに包まれて、この時間がいつまでも続けばいいと思ってしまう。
「そんな寝坊助だと、いたずらしちゃうから」
どんないたずらをされてしまうのか。
まあ、彼女のいたずらなら、甘んじて受けるとしよう。
「じゃあ、まずはほっぺに」
柔らかな感触が頬に触れる。
寝てるフリをしなくてはいけないのに思わず顔が緩んでしまう。
それでも、リリシアはいかにも気づいていないように、反対の頬、額へとキスをしていく。
『なあ、いつまでルヴァン達の甘い空間を見せられないといけないんだ?』
先程まで重かった瞼をこじ開け、目を見開き声の方へ視線を向ける。
そこには、目を細めてこちらを見る松山くんと、両手で顔を隠しながらも指と指の間から視線を覗かせる東雲さんの姿があった。
『い、いつから、そこに?』
『リリシアさんに連れられて来たから、最初から』
東雲さんが申し訳なさそうにそう答える。
その時だった。
リリシアが唇にキスをして来たのだ。
しかも、舌を入れてくる。
平然を保とうとしていた松山くんも顔を真っ赤にして視線を晒す。
お、お嬢さま!!
「ちゃんと目が覚めたわね」
オーバーキル気味の目覚ましに、恥ずかしさを感じつつも、確かな幸せを噛み締めることにしたのだった。
しばらくするとメイドさんが部屋に入って来た。
本来なら俺を起こすのも彼女達の仕事なのだが、リリシアが無理を言ったのだろう。
ただ、言わせてもらいたいことがある。
「誰かに着替えを手伝ってもらうのは、精神的に疲れる」
今まで教会の祭事で沢山の装飾が散りばめられた、着方の分からない服の時は手伝ってもらったが、それ以外では基本自分でやっていた。
聖女の弟子だとか、聖帝の職を持つだとか、沢山の肩書きが今の俺にはあるが、結局は根っこは平民なのだ。
「それでは困ります」
その声に振り向くとそこにいたのはリリシアと一緒に来たメイドのジェーンさんだった。
俺がいた頃にはいなかったメイドだ。
まあ、ハーキスタ家を出てもう五年だ。
多少の入れ替わりもあったのだろう。
「早く慣れてください。これは必要な事です」
「ハーキスタ家の人間として、ですか?」
「そうです」
「そう、ですか」
ハーキスタ家を第一にということか。
もしかしたら、彼女なのでは? とも、思ったが、そうではなかったようだ。
早く足取りが見つかるといいが。
「こちらで皆様がお待ちです」
扉が開くとそこは大きなダイニングだった。
よく貴族の家にある無駄に長いテーブルにギーレン公爵を主賓席にし、その周りにリリシア、ノンノ、東雲さん、松山くん、スピレイが座っていた。
家主であるギーレン公爵はもちろんリリシアも堂々と座っているが、豪華な装飾や部屋の作りに他のメンバーは気後れしているのか、ソワソワと落ち着かないようだ。
だが、そんな中でもスピレイは我慢が出来なかったのか先に食べ始めていた。
「こちらです」
リリシアとノンノの間の席へ座るよう促される。
「おはよう。ルヴァンくん」
「おはようございます。ギーレン公爵」
公爵はさわやかな笑顔で挨拶をして来た。
こんなのが、モテるんだろうなあ。
「おはよう」
「おはようございます」
「おはよう、お兄ちゃん!」
ノンノは今日も元気でかわいい!!
そして、リリシアも改めて挨拶を返してくる。
そんな彼女の笑顔もかわいいが、先程の事を思い出して直視は出来なかった。
『おはよう』
『お、おう』
『おはよう、ございます』
そして、先程の光景を目にした二人はぎこちなく日本語で挨拶を交わしたのだった。
「……」
さて、では、現実を見ますか。
「す、スピレイ、さん」
モグモグモグ。
スピレイはパンを食べている。
「あの、ですね。その」
モグモグモグモグモグモグ。
スピレイはオムレツを食べている。
「申し訳なかったと、いいますか。その」
モグモグモグモグモグモグモグモグモグ、パリッ!!
スピレイはソーセージを豪快に噛みちぎった。
「ひっ!」
そして、冷たい眼差しで俺を睨む。
いつも、感情が表情にあまり現れないスピレイだが、確かに今は怒りの感情が露わになっていた。
「… 置いてかれた」
その呟きに頭を下げる。
「… お腹ペコペコだった」
更に頭を下げる。
「… バカ」
俺の頭は床に着いた。
「すみません」
「許さない」
ご飯を食べている今が一番機嫌がいいはずなのに、許してもらえない!?
そこまで、怒っていたのか。
だが、スピレイは食べる事が一番好きなのは確かだ。
「この街の美味しいもの食べて回りましょう」
「…」
なに!?
これでも、ダメ。
かくなる上は!!
「お腹いっぱいになるまで」
「許す」
そういうと、残りのソーセージを口に入れたのだった。
そして、俺のお財布はスピレイへの謝罪に耐え切れるか、不安だけが残った。
だが、カタハナ村にはキャラバンはそんなに来ない。
だとすると、今スピレイがここにいるのは。
「公爵様、すみません」
「いや、問題ないよ。先の偵察隊がこの街に戻る前に教会の状態を確認しに行ったら、置いてかれたって怒っていてね。二人とも一緒に連れてきて貰ったんだ」
「そうですか」
ん? 二人?
「ルヴァン」
声の方に振り向くとそこには鬼の形相をした、シラユリが仁王立ちしていたのだった。
長期の休載申し訳ありません。
コロナ禍ということもあり、仕事の方でなかなか休みが取れず、このような形になってしまいました。
これから、少しずつまた更新していこうと思いますので、これからもよろしくお願いします。
次は明日の昼頃までに頑張ります。




