第六十六話 せっかく異世界に来たんだから、仕事をしよう。
遅くなりました。
よろしくお願いします。
結局、シラユリと喧嘩をしてから三日ほど経ったが、リリシアが来ることは無かった。
人間慣れとは怖いもので日が追うごとにリリシアが来ないことに対しての焦りが減っていったのだ。
前に来た時もたくさんの兵士たちと一緒だった。
ハーキスタ領からまっすぐ来る道のりでは山脈を越えないといけないので、雪や悪道の可能性を考慮して回り道をしている可能性もある。
そう考えれば到着が遅れるのも仕方のないことだ。
「それじゃ、山に薬草取りに行ってくる」
「昨日もとりに行ってたじゃん」
「えっと、ほら。もうすぐ雪が降ると薬草が取れなくなるし、今の内取れる分はとっておきたいんだよ」
「ふーん」
シラユリはあの日と比べると大分物腰が柔らかい対応をしてくれるようになったが、やはりどこか機嫌は悪いようだ。
でも、ご飯は作ってくれるし、ノンノの様子を見てもくれている。
いつも感謝しているのだが。
「それじゃあ、行ってきます」
「はい、お弁当」
「ありがとう」
俺が弁当を受け取った時だった。
「おはよう」とノンノが起きてきたのだ。
いつも通りかわいい。
いや、いつも以上にかわいい
髪をまとめているピンクのリボンがちょっとずれているのがまた、いいアクセントになっている。
ノンノを抱きしめたくなる気持ちを抑えて家を出たのだった。
◇ ◆ ◇ ◆
村から出て少し離れた山の中に入っていった。
薬草取りの日はなるべく早めに山に入らなければいけないからノンノと少ししか会えなかった。
残念である。
〈配薬〉のスキルでここら一帯の薬草の効能は知っているが、〈採取〉のスキルは今だとれていないので、探すのに時間がかかる上に、一目では分からない薬草も多い。
その場合は実際に口にしないと〈配薬〉で薬草の効能を確認できないので時間がかかるのだ。
更に薬草の中には傷むのが早いものがあり、そういったものはその日のうちに調合しないといけない。
それに近場の薬草は来年の事も考えるとこれ以上取れないので遠くの山にまで足を運ぶ必要があったのだ。
「これだけか」
昼を少し過ぎた頃、採取バックを確認してため息をついた。
遠出した割には収穫が少なかったのだ。
収穫量が増える〈採取〉のスキルがあればいいのだが、とろうとこの三年間何度も山に入っているのだが、どういうわけか今だに取れていなかった。
このスキルがあれば感覚的にとろうと思った薬草や果実がどこになっているか分かるらしい。
〈調合〉のスキルを持ってる人は大体が持っているらしい。
相性がいい組み合わせなのだろう。
仕方なしに最後に俺は川辺の薬草を取りに行く。
水が豊富なところに生息する薬草ほど足が早いのだ。
「こんなところか」
俺は手ごろな岩に座って弁当を食べる。
「お、ルヴァンか?」
「ガンツ?」
ガンツはノンノと一緒によく遊んでくれているトントのお兄さんである。
職業は〈狩人〉で、よく肉を分けてもらっているのだ。
「お互い大変だな」
「そうだな。闇水支度をしないと、去年みたいに薬が足らなくなると困るし」
「去年は助かったよ」
去年の闇水の月の終わりの頃、カタハナ村やその周辺で風邪が流行ったのだ。
風邪になった場合薬の普及が進んでいないこの世界の対処は栄養の付くものを食べながら暖かくして直すか、回復魔法をかけながら治るのを待つしかない。
だが、去年は例年以上に冷え込み、畑などでも不作が相次ぎ、二十近くある村のいたるところで風邪が流行し多くの人が苦しんだのだ。
もちろん、俺は回復魔法をかけて回ったが俺一人では到底追いつく人数ではなかったのだ。
そこで、回復魔法の代わりに解熱剤と鎮痛剤、風邪薬を処方したのだ。
そのおかげで多くの人が救われたのだった。
だが。
「もう少し、多く採取していれば」
「仕方ないよ、親父は元々体が強い人じゃなかった」
俺が色々な村を駆け回っている際にカタハナ村でも患者が急増し、俺が置いていった薬だけでは足らなくなったのだ。
そこで、村の人たちは子供たちに優先的に薬を飲ませて俺の帰りを待っていた。
だが、俺が帰ってきた時にはガンツの親父さんを含めた三人が間に合わなかったのだ。
結果、俺はカタハナ村の三人を含めた七人を守ることができなかったのだ。
「後悔はしないように頑張ってきたのに」
「人間一人にできる事には限界がある。ギーレン公爵様の助けを待っていたら、まず間違いなくかかった奴らのほとんどが死んでいた。そうなれば犠牲者は百人はいってた。トントも俺も死んでた。お前は頑張ったよ」
「ありがとう」
俺はため息をついた。
後悔したくないから頑張ってきたんだけどな。
「お前何歳だっけ?」
「この前、十三歳になったよ」
「俺が十三歳の頃なんて年が近いやつらと走り回って遊んでた。お前はもっと力を抜いたほうがいい」
「そうかな?」
「なりは俺より小さいが、十七歳の俺より年寄りみたく見えるぞ。しかも、お前ってドワーフの血が入ってるだろ? ドワーフは背が小さいやつが多いからなおのこと年寄りに見える」
まあ、肌の色からして浅黒いし、銀髪で翡翠色の目をしていたら人間種ではないのは一目瞭然だろう。
「血もつながらないノンノちゃんを妹として育てて、スピレイちゃんとシラユリちゃんを養うだけの甲斐性があって、俺には到底無理だ」
「でも、ガンツも死んだ親父さんの代わりに家を守ろうと頑張ってるじゃないか」
「俺も成人したし、母さんに祖母ちゃん、トントを守れるような男にならないと親父に怒られちまう」
去年までは俺がシラユリと一緒に住んでいることが気に入らないようで何度も突っかかってきたが、こいつもだいぶ成長したのだろう。
「シラユリちゃんは大切にしろよ」
「だから、好きなら告白すればいいって言ってるだろ」
「お前本気で言ってるのか?」
ガンツは元々いかつい顔であるがその目がさらに鋭くなる。
「はあ、シラユリちゃんがかわいそうだ」
「なんでそうなるんだよ」
あいつは同郷の友達でそういう対象ではない。
第一、あいつは俺の事なんて男として認識すらしてないはずだ。
「とりあえず帰ろう」
これ以上この話題をすると喧嘩になりそうなので俺は適当に打ち切る。
「そうだな、村での仕事もまだ残ってるし」
ガンツも俺に同意したので俺達は森から出る。
そして、門をくぐり村に入ろうとした時だった。
なぜかノンノがあさ髪を縛るために使っていたピンクのリボンが落ちていたのだ。
嫌な予感がする。
「ガンツ、トントが村にいるか確認してくれないか?」
俺の持っているリボンを見てガンツは頷いて走り出した。
俺もノンノがいつもいる教会や家、遊び場に使われている広場を探し回る。
だが、ノンノは見つからなかった。
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