第七話 せっかく小さい子が頑張ってるんだから俺も頑張らないと
遅くなりました。
今日中にもう一話投稿します。
良ければ、同時に書いている「フラれたショックで覚醒する。」もよろしくお願いします。
俺はリリシアお嬢様の部屋の扉を叩くが中から返事はなかった。
部屋の前で待機していたメイドに聞くがやはりお嬢様はいつも通り部屋にこもっているようだ。
再度、ノックし中に入る。
中は薄暗く、カーテンを閉め切っていた。
お嬢様はベッドの奥で丸まっている。
「い、痛い。もう、やだよ」
涙を流しながら頭を抱えている彼女は今にも消えそうな声で呟いた。
こんな小さな子供が苦しんでいる。
完全には治してあげれないが、せめて彼女の苦しみの一部を支えて上げよう。
「介護 発動」
スキルを発動してすぐにお嬢様の苦悶の表情は消える。
そして、疲れてしまったのかそのまま寝てしまったのだった。
「だ、大丈夫そうだな」
俺は軽く体を動かすが特に変化もなく気を失うこともなかった。
少し遅れてリシャリア奥様、アルマルデ様、セシアさんがお嬢様の部屋にやって来る。
奥様はベッドまで来るとお嬢様の顔をやさしくなでたのだった。
「ごめんなさい」
リシャリア様は悲しそうにつぶやく。
アルマルデ様はお嬢様の状態を見て「本当に痛みが引いたんだね」と驚いた表情を見せた。
「ルヴァン、大丈夫?」
「はい」
セシアさんの質問に元気よくうなずくと小さなため息をついたのだった。
「お母様?」
寝ていたはずのお嬢様が目を覚ます。
「リリシア、起こしちゃったかしら?」
「いえ、お母様の手は気持ちいです」
お嬢様は奥様に笑顔を見せる。
「痛みはどう?」
「体のどこも痛くないです」
「それなら、もう少し寝ていなさい」
「はい」
そう言ってお嬢様は瞼を閉じたのだった。
俺達は奥様とお嬢様を残して退出する。
そして、セシアさんに連れられるがまま客室に着いた。
「坊やのスキルはすごいね」
アルマルデ様はセシアさんの出したお茶をすすりながら呟いた。
お嬢様を完全に直せなかった。
しかも、彼女は聖女だ。
俺には嫌味にしか聞こえなかった。
セシアさんは俺の顔を見て頭を小突く。
「まだ、坊やは子供なんだ。そこまで畏まる必要はないよ」
「子供とはいえハーキスタ家で働く者です。最低限の礼儀は身に付けてもらわないと」
「こんな婆さんにそんなものは必要ないよ」
「いえ、あなた様は聖女様です」
「はいはい」
なんで、この方は聖女なのにこんなに腰が低いのだろうか?
俺はふと疑問に思った瞬間、アルマルデ様と目が合う。
「何か気になることでもあるのかい?」
疑問のままに残しておくのも気持ちが悪いので、率直に聞いている。
すると、アルマルデ様は苦笑いをしながら、頭をかいた。
「はっきり言うが、私はただの平民なんよ。他の人は聖女だなんだとまくしたてるが、私は一度も自分が聖女だなんて思ったことなどない」
「でも、聖女様と認められる何かがあったのですよね?」
「ちょっとした魔物の討伐に回復役として同行して生還しただけだよ。それで、聖女だったらこの世は聖女だらけさ」
俺はセシアさんに視線を向ける。
「アルマルデ様、魔王がちょっとした魔物ならこの世はとうの昔に滅んでいます」
М・A・О・U?
それって、ゲームで世界の半分を、とか言っちゃう系のラスボス?
「あたしは後ろで回復魔法を掛けてただけだよ」
「屈強な戦士たちが何千人と命を落とした戦いでした。戦場に出て、戻ってこれただけでも相当な功績ですよ」
すごい。
すごい!
すごいぞ!!
これぞ、ファンタジー!
異世界に来た醍醐味だ!
まあ、今の時代に魔王が復活しても俺は戦いに行きたいとは思わないがな!
でも、そんなすごい人なら。
「お嬢様を助けて上げることはできないのですか?」
「結論から言えば無理だね。あの毒は回復魔法でどうにかできるものじゃないんだよ」
アルマルデ様は鞄から一冊の本を取り出す。
そして、あるページを開く。
そこには一人の男性が盃を落とし、苦しみだす絵が描かれていた。
「理由は三つ、その一つ目があの娘の飲んだ毒が〈原初の毒〉と呼ばれるものだという事。この毒は反魔法の性質があり完全には解毒しづらい。今もあの子の中にその毒は残っているのさ」
対魔法使い用の毒という事か。
アルマルデ様の口ぶりからするとこの世界は魔法に頼りすぎて医療技術がそんなに高くないのではないだろうか。
「二つ目が体の欠損が今も続いていること。私の持っている〈リカバリー〉という魔法で体の欠損を直してあげることもできるが、残っている毒のせいで直したところですぐに体をむしばむ。それにリカバリーは何度も同じ人にかけると治りが悪くなる性質があるからね」
確かに今なおしても痛みを感じる場所が多くなるだけ。
しかも、また悪くなることも分ってるし、治りが悪くなるのなら〈リカバリー〉はここぞというところで使いたいのだろう。
「最後に今のあの子では強い回復魔法に耐えられないことだね。どの回復魔法にも言えることだが、回復の際に大きな負担をかけてしまうことになる。強制的に体に変化を与えるのだもの。あんな弱り切った小さな体では耐えられないだろうね」
「そうでしたか、それなら俺の介助も危ないのでは?」
「あれは義体であって、あの子の身体を直したのではない。一からあの子にあうように作られた身体だからね。坊やに負担はあってもあのお嬢には何もないよ」
「分かりました」
つまり、俺が魔力量を上げれば介助でお嬢様を助けて上げることができるのか。
あんな小さな子が頑張ってるんだ。
「頑張らないと」
「「……」」
なぜか二人とも黙って俺を見つめる。
セシアさんんは複雑そうに笑う。
アルマルデ様が紅茶を飲み干した。
「坊や、回復魔法に興味はあるかい?」
「え?」
そして、立ち上がる。
「坊やにその気があるなら、私の弟子にしてやろう」
俺は間髪入れずに「はい!」とうなずいた。