第六話 せっかく異世界に来たんだから助けて上げたい
第六話です
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明日は仕事の都合でお休みします。
俺が普段のように動けるようになったのはスキルで倒れて、目を覚ましてから更に三日が経ってからだった。
目を覚ました時に言われたとおり今日から俺は魔法を教わる。
筈だった。
「ボルヴァード、お久しぶりですね」
なぜか俺はリシャリア様に呼ばれていたのだった。
「奥様、ご無沙汰しております」
綺麗なドレスを身にまとい、花の咲き乱れる庭園で優雅にお茶を飲まれる彼女はまさに貴族の奥様であった。
俺は彼女に拾われたのだが、物心がついてから会ったのはほんの数回だけだった。
だが、それは彼女が冷たいわけでも、ましてや俺を嫌ってるわけでもない。
ただ、彼女はとても多忙な人なのだ。
と、いうのもこのハーキスタ伯爵家の当主フルト様はとんでもなく無能なのだ。
民を見下し、金を巻き上げ、女癖が悪い。
わけではない。
ただただ、ダメなのだ。
何をしてもうまくいかず、人がいいから騙されやすく、数か月に一回鬱になるのだ。
そして、今はリリシアお嬢様があんなことになってしまい、絶賛鬱中なのだ。
そんなわけでリシャリア様はフルト様の仕事も一身に背負いこみ、目が回るほど大変なはずなのだ。だが、セシアさんに呼ばれていくと奥様が待っていたのだった。
「あなたには感謝しています」
え?
「あなたがスキルを使ってくれたおかげで、一日の間あのこは前のように活き活きとしていました」
そういえばセシアさんがお嬢様が治ったのは一時的だと言ってた。
俺のスキルは万能ではないらしい。
回復というよりは支援寄りの能力なのだろうか?
「あのこが久しぶりにおいしいと言いながらケーキを食べる姿を見ときは、昔を思い出して思わず泣きそうになりました。ありがとう。今思えばあなたを拾ったのも何かしらの運命だったのかもしれませんね」
リシャリア様にそこまで言っていただけるのはとても光栄である。
だが、彼女はすぐに浮かない顔をした。
「ですが、今はあなたのスキルが解けてまた激しい頭痛と苦しみに包まれています。どうか助けて上げてほしいのです」
「奥様!」
リシャリア様の言葉に反応したのは俺ではなく後ろで話を聞いていたセシアさんだった。
「彼のスキルはまだ分からないことだらけです。また、失った身体を一時的とはいえ直してしまったのです。それ相応の魔力が必要です。今の彼では死んでしまいます!」
セシアさんはリシャリア様相手に強く否定する。
だが、「落ち着きなさい」との一言でセシアさんを制止させる。
「確かに無理にスキルを使えばそうなります。ですが、スキルを理解し使える範囲で行ってくれればいいのです。何かあった時のために医者と魔力回復用のエリクサーを常備しましょう。どうです? リリシアを助けてくれませんか?」
本音を言えば嫌である。
一度は死にかけた。
そのせいでスキルを発動することを考えるだけでも怖いし、また同じ状況になる確率が高いのも確かだ。
でも、リリシアは一緒に育ってきて妹のように思っている。
助けて上げれるのであれば助けたい。
「わ、分かりました。出来る範囲で行わせてもらいます」
「そう言ってもらえると信じていました」
リシャリア様は嬉しそうに微笑む反面、セシアさんの不安げな顔で俺を見つめていた。
「それでは、さっそくスキル鑑定をしてもらいましょう」
「お、奥様!」
セシアさんがリシャリア様の発言に驚く。
なにがそんなに驚くことなのだろうか?
俺が疑問に思っているのをよそによぼよぼの婆さんが部屋の中に入ってくる。
「お待ちしてました、アルマルデ様」
リシャリア様が頭を下げ、セシアさんが床に額を付ける。
俺もセシアさんのように頭を下げると「顔を上げなさい」と、優しい声が聞こえた。
顔を上げて俺は彼女の顔を見る。
その顔は穏やかに微笑んでいた。
「それではさっそくスキル鑑定を行いましょう」
アルマルデ様は一瞬険しい目をするが、すぐに元に戻る。
「ふむ、彼は十個も天恵スキルを持っていますが、リリシア令嬢を助けたのは介護、介助、そして救急対応の三つでしょう。介護は状態異常を一時的に和らげる効果を持つスキルです。そして、介助は失った身体機能を取り戻すスキルのようです。そして、救急対応は身体状態が悪い人ほど放った支援、回復のスキルや魔法を短時間で本来の能力以上に効果を発揮するスキルです。何か質問はありますか?」
「はい!」
「どうぞ、坊や」
「俺はスキルを使った後に魔力欠乏症で倒れました。どのスキルが原因でしょうか?」
「それは介助のスキルですね。このスキルは体の欠損がある場合、魔力を消費することで一時的に義体を作ることができます。本来は蝋人形のような足ができるだけのようですが、天恵スキルという事と救急対応との相乗効果で本来の足を手に入れたのだと思われます」
でも、それだけのものを作り出すのには本来以上の魔力が必要だったというわけか。
これで、介護の方は魔力が無くても発動可能という事が分かった。
だが、前世での介護のスキルは介護者が寄り添ったり支えたりしてせいぜい補助をするだけのはずで、こんなに万能ではなかったはず。
どうして、こんなに違うのだそうか?
「さて、他に坊やは配薬、夜間行動、鑑定〈人間〉、魔法適性、体術、歌唱魔法のスキルを持ってるます。分かりやすいのは省くとして、配薬は薬を使う時正しい効能が分かる、自分または相手に使う時にその効果の効能を強める、持続時間を長くするスキル。夜間行動は睡眠欲が薄くなり、寝なくても数日間は起きていられるようになるスキルで、歌唱魔法は歌うことで聞いた相手へ支援したり妨害したりするスキルのようですね」
アルマルデ様は疲れたのか勢いよくソファに座った。
セシアさんはすぐにお茶を用意し、リシャリア様は他のメイドにお茶請けの用意などの指示を出す。
「寄る年波には勝てないものね」
「まだ、若いですよ、聖女様」
はい?
聖女様?
俺がリシャリア様の爆弾発言に驚いているとセシアさんが頭を小突く。
「アルマルデ様は国教であるファルマード教の聖女様です。頭が高いです」
「は、はい」
俺は頭を下げる。
だが、アルマルデ様は首を振って止めさせた。
「坊や、今は苦しんでる人がいるのです。助けることができるなら、それを最優先にしなさい」
俺は他二人に視線を向けると二人とも頷いてくれた。
「ありがとうございました」
「いや、私はほんの少し背中を押してあげただけ。坊やはもう自分で行く道を決めていたのだから、その道を信じて進みなさい」
「はい」
僕はリリシアお嬢様のもとに走り出したのだった。