第三十話 せっかく異世界に来たんだから家事手伝いをしたい
遅くなりました。
本日二話目です!
神明の湖に着いた翌日、俺は湖畔の教会で掃除をしていた。
これは王都の教会でやっていたことと変わらなかった。
修道士見習いの間は教会の掃除や洗濯が主な仕事だからだ。
修道士として認められるまで、人々に回復魔法をかけることすら許されない。
また、本来見習の間に回復魔法や魔法の基礎を勉強するのだが俺はそれが終わっている。
その為、この一年はずっと教会の掃除とガシェルさんとカーシャさんの武術の訓練を受けていたのだ。
「なにこれ?」
アクアくんが俺の掃除した後の窓枠に指を這わせる。
そして、その指を見て言った。
「なんで、掃除した後でこんなに汚れてるんだ!?」
アクアくんの指は真っ黒に汚れていたのだった。
「いやあ、なんでかな?」
「教会は毎日掃除してるから、一日掃除してなくてもこんなに汚くならないぞ! なんで、ルヴァンが掃除した後はこんなに汚くなるんだ!」
「それが分かったら苦労はしないな」
どういうわけか、俺が掃除すると逆に汚くなるのだ。
セシアさんにも一から掃除の仕方を習い、その通りにやっているはずなのだが、習えば習うほど汚すレベルが上がっていった。
そこで、セシアさんは言ったのだ。
「あなたは何もしないのが一番の役にたちます」と。
まさに戦力外通告。
やさしいセシアさんですら匙を投げたのだった。
「ルヴァンくんは洗濯してきて」
「分かった」
俺はしぶしぶ洗濯に向かう。
さて、水の中にたっぷりの洗剤を「ルヴァン」
入れる前に声がかけられる。
振り向くといたのはセシアさんだった。
「外で武術の練習をしてきなさい」
やさしく俺に話しかけるセシアさんの目は笑っていなかった。
そして、いつものように練習を始めるのだった。
最初は体力を伸ばすために基礎的なランニングから始める。
もちろん昨日のようなデスパレードではなくごく普通のランニングだ。
いつもは王都を一周して戻ってくるのだが、今日は湖を二周ほどして教会に戻ってくる。
すると、いつものようにガシェルさんが汗だくになって待っているのだった。
「おはようございます」
「はい、おはよう」
もう昔のように鍛錬を控えろなんてことは言わない。
言うだけ無駄だからだ。
俺はいつものように〈介護〉をガシェルさんにかける。
鍛錬で体は丈夫になったが、元々ガシェルさんの病気は何なのか分からなかった。
もし、前世と同じパーキンソン病であるなら完治させることは難しい。
前世でも難病指定される病気だったからだ。
一介護士でしかなかった俺では完治させる方法など思いもつかないだろう。
だが、ガシェルさんはこの一年で驚異的な回復を見せた。
今では数日に一度ガシェルさんに〈介護〉のスキルを発動するだけで元気に過ごせている。
「どうですか?」
「やっぱりかけてもらった後の方が体の動きが違うよ」
ガシェルさんは自分の身体を確認するように動かす。
〈介護〉をかけ続けてきた結果、先日リハビリテーションのレベル8になった。
「さて、武術の練習をしようか」
「はい」
今日はガシェルさん直々に武術の鍛錬をするのだった。
俺は先手必勝と始まってすぐにガシェルさんに仕掛ける。
それをガシェルさんは難なくガードし、カウンターを入れてこようとする。
俺もこれは読めている。
自分が迫った際の衝撃を殺さずに脇腹の方へ体を滑り込ませる。
ガシェルさんは体が大きいので意外と死角になる部分が多い。
後ろを取って、再度拳を繰り出す。
「!」
俺は攻撃を取りやめて、姿勢を屈めて両手でガードの体制をとる。
その次の瞬間、俺の頭があった場所にガシェルさんの足が伸びていたのだった。
それより少ししたのちに俺に拳が襲い掛かる。
それを受けるのではなくなんとか流す。
それでも、大分後方へ飛ばされるのだった。
うまく受け身を取り、すぐに立ち上がる。
これだけやっても自分へのダメージは大きかった。
すぐに回復魔法をかける。
「その判断はいただけない!」
回復魔法発動に一瞬の膠着時間ができるその瞬間にガシェルさんが見逃すはずがなかった。
そして、拳が迫ってくるが俺は体をひねらせて避ける。
距離が開いていたため判断時間とそれを実行するための準備ができたのだ。
その上で回復魔法をかけたのだ。
もしこれが王都に来たばっかりの頃だったら、何の対策もできずに殴られていただろう。
ガシェルさんとの鍛錬でアルマルデ様のステータスに振り回されるなという、意味がよく分かった。
武術のスキルを得てガシェルさんとの鍛錬でレベルは4に上がった。
筋力もかなり上がった。
でも、レベル1だったころと同じで全くガシェルさんに勝てる気がしない。
ガシェルさんはそれほどに戦いになれていたのだ。
駆け引きがうまく、攻撃を避けたとしても本命の攻撃が待っている。
そして、体に似合わない細かい動きができるのだ。
これは筋力が高いから。
天職のレベルが高いからではとてもできるものではない。
長年の経験によるものだろう。
「シェアッ!」
「がはっ!」
避けながらやっと見つけた隙を狙って攻撃するが、バク転しながら繰り出された蹴りを防ぎきれずに倒されるのだった。
「今日の鍛錬はこれでお終いです。しっかりストレッチしてから上がってくださいね」
「は、はい」
倒れている俺を残してガシェルさんは自分の鍛錬に向かってしまった。
時間はもうすぐお昼だ。
俺は教会に戻ろうとした時だった。
一台の馬車が街道を通って教会の方へ走っていったのだ。
その馬車はシューラン様の馬車によく似ていたが、シューラン様は今アルマルデ様につかまって仕事をさせられている。
しかも、今日の朝帰ったばかりだ。
猊下ではないだろう。
では?
興味に駆られて走り出していた。
俺が到着するときにはすでに馬車は到着していて、中からアルマルデ様くらいの老婆と子供が下りてきた。
「どうぞおいでくださいました」
湖畔のシスターが頭を下げる。
「よろしくお願いしますね」
「お願いします」
老婆と子供が頭を下げる。
二人とも白いローブを着ている。
たぶん教会の関係者だ。
そして、子供はたぶん俺と同い年くらい。
あのこが俺と一緒に洗礼を受ける子になるのだろう。
「ルヴァン! お昼だよ」
アクアくんが呼びに来てくれたようだ。
「すごい汗臭いよ」
ご飯の前に水浴びが必要なだった。
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