第二十七話 せっかく異世界に来たんだからまた会いたい。
遅くなりました!
明日もこれぐらいの時間になります!
「すごい!」
俺は馬車から顔を出してそびえたつ大きな壁を見上げた。
ハーキスタやディートンの町よりもずっと高い壁なのに真っ白で綺麗な壁が、ずっと先まで続いているのだ。
前世の世界でもこんなものは見たことが無かった。
「どうやって作ってるんだろう」
魔法で作るにしろこんなにきれいな壁を作りにはそれなりのMPと技術が必要だろう。
そんでもって莫大な時間がかかってできているに違いない。
「ルヴァンくん、これは初代賢者様が一晩で作ったんだよ」
「え!?」
馬車の中からガシェルさんが教えてくれる。
こんなのを一人でしかも一晩で作ってしまう賢者に俺は驚きを隠しきれなかった。
しかも、初代という事は。
「これって、出来て何年たってるのですか?」
「およそ、千二百年かな。それまでに二度魔物の氾濫で王都が攻め込まれたけど、一度も落ちることは無かったんだ」
「そうなんですね」
それだけの時間が経ってもなおこの大きな壁が美しさを保って王都を守っていたことにさらに驚くのだった。
壁が見えて数時間が経ったがまだ入場門までつかなかった。
俺は途中で馬車の中に戻る。
それぞれが馬車を降りる準備をしていた。
そんな中、リアちゃんは俺が指輪を嬉しそうに見つめていた。
あの日からあの指輪を親指に嵌め、リアちゃんは嬉しそうに撫でている姿を何度も見た。
そして、俺と目が合うと頬を赤らめて微笑むのだった。
「何か嫌な予感がする」
指輪を返すという話が一度されたが、アルマルデ様が「ルヴァンの金で買ったものだ。ルヴァンが納得しているならあたしは何も言うことは無い」との事で、名実ともにリアちゃんの物になったのだった。
それよりも、こんな大きな壁が見えているのにリアちゃんが食いつかないのを不思議に思った。
ディートンの町では露店にあんなにはしゃいでいたのに。
「すごい壁があるよ」
俺はリアちゃんに言うと「そうね」とだけ返されるのだった。
なんか態度が冷たいような。
「ルヴァンくん、もうすぐお別れなんだよ」
「うん、そうだね」
「なのにあんな壁なんかにはしゃいでるんだ」
リアちゃんの言葉に棘がある。
何かしてしまっただろうか?
「ご、ごめん。あんなに大きいものを見るのは初めてで」
「ふーん。もう、一緒の旅も終わりなのに」
「そうだけど、別に一生会えないわけじゃないでしょ? 俺も当分は王都にいることになるし、リアちゃんも王都にいれば、その気になれば会えると思うんだけど」
「そっか、ルヴァンくんは「リア」
リアちゃんのお母さんがリアちゃんの言葉を止める。
なにかあったのだろうか?
でも、リアちゃんは笑いながら「準備があるから」と言ってお母さんのもとに戻って行ってしまった。
俺もアルマルデ様の近くに戻り光魔法の練習をするのだった。
せっかく〈レーザー〉を覚えた俺だったが、思った通りこの魔法は攻撃魔法だ。
その為、無暗に発動することができないので〈トーチ〉の強化版魔法の〈フラッシュ〉を練習していた。
ただ、光が漏れないように麻袋に指を入れて、その中で輝かせたのだった。
「大分光が強くなりましたね」
「そうでしょうか?」
「後は一瞬でその光まで持っていければ言うことは無いですね」
ガシェルさんが評価してくれた。
今までアルマルデ様はたくさんの事を教えてくれたが、ほとんど褒めてくれることは無かった。
だが、ガシェルさんは俺が頑張っているとたくさん褒めてくれたのだ。
それは武術だけでなく、魔法の分野でもだった。
「ルヴァンくんは天才だ」
「そんなこと言ってもらったことが無いので、その、うれしいです」
俺の言葉にガシェルさんはアルマルデ様を驚いた顔で見た。
何かあったのだろうか?
「ガキは褒めるとすぐに図に乗る」
「ルヴァンくんはそんな子じゃないだろ」
「分かってるよ」
「じゃあなんで?」
「そういうのが、苦手なんだよ」
ガシェルさんは俺の頭をなでる。
セシアさんと比べるとごつごつした手だったが嫌ではなかった。
「馬車の検閲をするぞ」
そう言って兵士が馬車の中に入ってきた。
つまり入場門にいつの間にかついていたようだ。
検閲中は馬車にいる人は一度出なくてはいけない。
そして、壁を間近にしてもう一度驚いた。
壁は綺麗な白色なのだがよく見ても傷一つなくツルツルしているのだ。
これが千年以上保たれていると考えると魔法の偉大さを感じた。
「よし行っていいぞ」
兵士の一言で馬車に乗り込むと王都の中に入るのだった。
王都は今までの町のどれよりも賑わいを見せていた。
しかし、馬車の隣を歩いているイアンさんは王都を見てため息をついた。
「活気が無いな」
「そうなのですか?」
思わず俺はイアンさんに質問してしまった。
イアンさんは頷く。
「いつも、昼前のこの時間は人がごった返していて、これの比じゃないほどだ。だが、大通りを馬車が通れるほど人は少ないし、所々露店が閉まっている。たぶん、王都から避難しているのだと思う」
「それって」
「そうだな、王都近くの銀鉱山に住み着いたドラゴンのせいだな」
それだけドラゴンという魔物が人々にとって恐怖の対象になっているのだろう。
イアンさんと話をしていると急に大きな建物の前で馬車が止まったのだった。
そして、ポーションの入った箱が次々に運び出される。
「それじゃあ、坊主俺はここで降りるな」
全ての荷物が出されるとおっさんはそう言って馬車を降りたのだった。
って、そういえば!
「おっさん、名前なんて言うの?」
「知らなかったのか!」
「知らないよ!」
だって一度も名前を教えてくれなかったのだもの。
第一、馬車の中では大体酒を飲んでいるか寝ているかだったので聞くタイミングが無かったのだ。
「俺はオリバーだ。覚えとけ!」
「はい!」
そう言葉を交わすとオリバーを置いて馬車はまた動き出したのだった。
次に馬車は大きな教会の前で止まった。
今度は俺たちのようだ。
「それじゃ降りるよ」
アルマルデ様の一声に俺たちは馬車を降りた。
荷物も少ないのであっという間に下りてしまった。
俺とアルマルデ様、セシアさん、ガシェルさんがここで馬車とはお別れだ。
「ルヴァンくん」
リアちゃんが寂しそうな顔で馬車の中から俺を見つめたてきた。
その表情がリリシアお嬢様に似ていて、いつのまにか馬車に戻って彼女の手を握っていた。
「大丈夫。きっとまた会えるさ」
「本当?」
「リアちゃんが俺と会いたいって思っていてくれれば、会いに行くから」
「約束だよ」
「うん、約束」
リアちゃんがにっこりと笑ったのを確認すると俺は馬車を降りるのだった。
すると、カーシャさんが近づいてきた。
「まだ、依頼が終わってないので、達成次第戻ってきます」
アルマルデ様と話し合った結果、ガシェルさんはしばらく治療があるので俺と同じ教会に身を置くことになった。
そして、カーシャさんもしばらくはガシェルさんのもとにいるという事になったのだ。
イアン、カーシャさんはリアちゃんの乗った馬車を警護しながら王都の奥へと消えていったのだった。
「あれ? 俺たちが乗ってた馬車が一番警護があつかった?」
「今更気づいたのかい?」
アルマルデ様が呆れたように話しかけてくる。
「え、え? イアンさんたちって何を守ってたんですか?」
「そのうち分かるさ」
俺達は教会の中に入ったのだった。
「ルヴァン、私が渡した十字架を胸から出しな。それと、あんたの親指についている物も見えるようにしとき」
「はい」
言われたとおりに黒い翼に包まれた十字架に、ハーキスタ伯爵家の家紋が描かれた指輪を周りから見えるようにする。
「おかえりなさいませ、アルマルデ様。……!!」
一人の修道女がアルマルデ様に頭を下げてすぐ隣にいた俺に視線を向けるとその目を見開いた。
そして、アルマルデ様に視線を戻す。
アルマルデ様は修道女に頷いた。
「お、おめでとうございます!! やっと、やっとなのですね!!」
修道女のお姉さんは泣きながら喜んでいる。
それに気づいた他の修道士もあつまり、全員がアルマルデ様に祝いの言葉を投げかけていく。
「神聖な教会で騒ぎ立てるとは何事か」
奥からおっかなそうな高価そうな修道服を着たのお爺さんが出てきた。
見るからに怒っている。
修道士の人たちが大声を出して喜んでいたことが原因のようだ。
「シューラン猊下様! アルマルデ様がお弟子様を見つけてきました!」
「なんだと?」
シューラン猊下は俺の目の前に立ち、抱き着く。
「やっと、やっと!」
少しずつ抱き着く力が強くなって、って!
「ギブギブギブギブギブッ!!」
「やめな、クソじじい」
そう言ってアルマルデ様はシューラン猊下の頭を殴って止めて、シューラン猊下は俺を離す。
「な、なんなんだ」
ここで、これから俺は暮らすことになるのだが不安しかなかった。
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