第二十一話 せっかく異世界に来たんだから買い物をしてみたい。
いつもありがとうございます。
今日は三話目の投稿です。
ディートンの町に向けて動き出してから二日ほどでキャラバンは目的地に着くのだった。
町と名乗れるのは大きな防壁がある人口密集地だけのことをいうらしい。
だが、現実的に大きな防壁を作れる町など領主所在地ぐらいなので、領の名前の町と呼ばれることが多いそうだ。
そして、町と言われるだけあってハーキスタの町同様、大きな壁があったが中はハーキスタの方が活気があったように感じる。
「まあ、ドラゴン騒動で活気というより、てんやわんやって感じだったが」
キャラバンは本来立ち寄る予定がなかったので検閲を受けている。
だが、俺達はキャラバンとは別に検閲を受けることで一足先に町に入ることができたのだった。
現実的に子供連れの婆さんと女性だ。
脅威にはならないと思われたのだろう。
そして、リアちゃんもお母さんと一緒に町に入ったのだった。
「ルヴァンくん。遊びに行こう!」
「え、でも」
俺はアルマルデ様の顔を見る。
その顔はまるで聖女のような慈愛に満ちた顔だった。
いや、アルマルデ様は聖女だが。
こんなに穏やかな顔を見たことは無い。
しかし、こんな顔をしているのだ。
少しくらいはいいだろう。
「じゃ、じゃあ。あそことか行ってみる?」
俺はなんとなく一軒の雑貨屋に指をさす。
特に理由はない。
だが、あの雑貨店も含めて他にも何店か直感的に俺を呼んでいるような不思議な感覚に包まれていた。
「うん! 行こう!」
俺はリアちゃんに手を引かれる。
筋力が上がったおかげで、リリシアお嬢様に手を引かれたときのように一方的に連れていかれるというよりは、こちらが合わせて上げなくてはいけない感覚に少し変な気分だった。
店内の人は疎らだった。
商品もそこまで多くなく、隙間も見受けられた。
「うーん」
リアちゃんにはあまり面白くなかったのか、店内を一回りすると「次に行こう」と、手を引こうとしたのだった。
だが、俺は店内の奥に積まれた一番下の木箱が気になった。
「これって何が入ってるのかな?」
俺がそう言って首を傾げた時だった。
「どきな」
アルマルデ様が積まれていた荷物を退かし、その箱の中身を見ずに会計に向かう。
そして、アルマルデ様満足そうにいつのまにか持ってきていた荷台にそれを乗せるのだった。
「え、えっと、ルヴァンくん。次はどこに行こうか?」
リアちゃんもびっくりしたのか、言葉に詰まっている。
俺は今度は不思議な感覚に逆らって店に入った。
そこは装飾店だった。
煌びやかな装飾品にリアちゃんは目を輝かせていた。
「ルヴァン、それで、目当ての物はどこだい?」
「目当て?」
「さっきみたいに欲しいものはないか聞いてんだよ」
アルマルデ様はそう言って店内を見回す。
先ほどみたいに欲しいもの……
「この店には無いです」
「じゃあ次の店に行くよ」
俺の服を掴むと店外に出るのだった。
それにリアちゃんは不服そうについてきた。
「ルヴァンくんと遊びたい!」
「後にしな」
リアちゃんの主張にアルマルデ様はにべもなく一蹴したのだった。
そして、全部で十件ほど回った後、イアンが合流したのだった。
その間に荷台にはイアンの身長以上に何かが積まれていた。
それをセシアさんは軽々と動かしていた。
リアちゃんのお母さんはやることがあると別行動をしている。
「もうこんなに買ったのか、中は?」
「確認してないが大方予想はつく」
「なるほどな」
イアンは木箱に貼られたラベルを見て面白そうに笑った。
そして、上を向いた時だった。
イアンは頬を膨らませたリアちゃんと目が合ったのだ。
すぐに俺の方を向く。
「シスター様の買い物がつまらなかったみたいで、その場で癇癪を起したところ、乗せられました」
「な、なるほどな」
最後に俺は一か所の酒場にたどり着いた。
大通りの酒場と比べるとすごく小さく、客の数も二人がカウンターに座っているだけだった。
「他は連れてこなかったのかい?」
「連れてくるわけないだろ。量が飲めればいいだけの味なんか分からない奴らだ。シスターだって、調合師のおっさんを連れて来てねえじゃないか」
「そりゃ、安酒で満足するような貧乏舌は連れてこないよ」
あのおっさんだったら、何としてでもついてくると思っていたがそうではなかったか。
そして、店に入るとさっそく席に着いた。
その時だった。
カウンターに座っていた身なりのいいおじさんが「気分がいい」と大声を出したのだ。
その後、何かが入った袋をカウンターに置いた。
「ここの支払いは私が払おう。好きに飲んでくれ!」
そして、出て行ってしまった。
店内には俺達だけ。
イアンは俺を担いでカウンターに連れてくる。
「どれにしますか? 今日はどれを飲んでもタダですよ」
やさしそうなバーテンダーがそう言ってくる。
「ルヴァン、どれだ?」
イアンはそんな言葉に耳を傾けずそう言ってくる。
いや、どれだって。
見えるものの中でこれってものは無いな。
見えるものだけでは。
「あそこの戸棚の下、後床下に、他にも奥の調理場になんとなく感じます」
「よし行くぞ」
「お、お客様!」
バーテンダーの制止を振り切りイアンは中に入っていく。
俺は感覚でこれがいいというものを探していく。
そして、全部で七本のお酒をもってアルマルデ様の元に戻ってきたのだった。
「タダでこれだけの酒が飲めるなんてな」
「ルヴァン様様だな」
そう言って、三人はお酒のボトルを開けだした。
セシアさんもいつのまにか混ざってグラスをまわしていた。
イアンは嬉しそうに香りをかいでいる。
そして、アルマルデ様は一口酒を口にしたのだ。
「うまい」
「ああ、いい酒だ」
「こんなの初めてです」
お酒の値段は分からないが、アルマルデ様がこれだけ幸せそうな顔をしているという事は相当高いお酒なのだろう。
「グスッ」
そういえば、忘れていた。
リアちゃんが泣きながら恨めしそうに俺を睨んでいた。
「セシアさん」
「どうしました?」
「ちょっと、リアちゃんと遊んできます」
「気を付けてくださいね」
「はい」
そう言って俺が酒場から出ようとした時だった。
「ちょっと待ちな」
アルマルデ様が俺を呼び止めると、小さな麻袋を投げてきたのだ。
中身を見るとお金が入っていた。
しかも、銀貨も入っている。
「今日の駄賃だよ」
「シスター、銀貨が四枚も入ってるよ」
そう聞くと三人が顔を合わせる。
「全然たらないな、外のを王都で売ればとんでもない額になるぞ」
「持ち合わせがもうそれしかないんだよ」
「それに今の段階でも十分に子供に持たせる額ではないですよ」
三人が話し合うが酒が入っている状況ではどんどん話がそれていく。
そして、俺の今後の育成方向について話が進んだ所で俺は諦めてリアちゃんと町に繰り出すのだった。
「さっきの宝石屋さんに行きたい!」
リアちゃんは先ほどすぐに出ることになった装飾店に戻っていた。
「きれー」
やはり、女の子だけあって宝石類は好きなようだ。
その姿を店員のお姉さんは微笑ましそうに見ていた。
「わあ」
色とりどりな宝石がちりばめられた指輪を見て嬉しそうにリアちゃんは声を出す。
「綺麗でしょ?」
お姉さんはリアちゃんにそう言って笑いかけた。
それに頷いてリアちゃんは笑い返したのだ。
「好きな人に贈ってもらえると嬉しいね」
「うん」
そう言って、なぜかお姉さんとリアちゃんが俺を見る。
いや、そんな目で見られても。
「ダメ?」
潤んだ瞳でリアちゃんは見てくる。
何と返していいか分からなくなり、俺は思わず黙ってしまう。
「こら、そこは男の甲斐性を見せないとだめよ」
お姉さん、そうは言うが俺まだ九歳だぞ。
普通は甲斐性なんて見せられないぞ。
だが、リアちゃんはお姉さんの言葉に期待を膨らませる。
「じゃあ、その。それを」
「え!?」
俺は目の前にふとあった指輪を指さした。
その指輪はリアちゃんのピンク色の髪によく似た小さな宝石が一つはめられている。
更に他の指輪と比べると微かに金色に光っていた。
高価そうに見える。
本当に買うとは思っていなかったのだろう。
お姉さんが驚きの声を上げた。
「やったー!」
リアちゃんは両手を上げて喜んだ。
お姉さんは「本当にいいの?」と確認をしてくる。
結構な値段ではあるが別にぽっと出た金だ。
執着も何もない。
それに、この後の旅で「いつ買ってくれるの?」など何度も聞かれるよりは大分ましだろ。
値段は銀貨五枚だがおっさんから日々徴収している〈キュア〉代を合わせればギリギリ間に合う。
俺は銀貨四枚と銅貨二十五枚を渡す。
だが、一瞬お姉さんが渋い顔をする。
「ああ。まあ、いっか。サイズを合わせてあげるからおいで」
「はい!」
リアちゃんはお姉さんに手を出して指輪の大きさを調整してもらった。
お姉さんは指輪に魔力を込めるとサイズが縮んいき、リアちゃんの親指に入った。
「ありがとう、ルヴァンくん」
「どういたしまして」
ちゅっ
俺の頬にリアちゃんはキスをすると頬を紅くしたのだった。




