舌きりスズメ(もうひとつの昔話 43 )
その昔。
ある村にじいさまとばあさまがいました。
この日。
山仕事をしていたじいさまが弁当を食べようとしたところ、一匹のスズメがじいさまの弁当を食べ、そのままそこでのんびりと眠っていました。
――あいらしいスズメじゃのう。
じいさまはそのスズメを家に連れて帰り、いつもいつもたいそうかわいがっておりました。
ある日のこと。
おなかがすいたスズメは、ばあさまが作ったノリを残らずなめてしまいました。
それを知った、ばあさま。
「とんでもないスズメだよ! 二度と悪さのできないようにしてやるからね」
スズメの舌をハサミで切って、家から追い出してしまいました。
それを知った、じいさま。
かわいそうなスズメに会いに山へと向かいました。
山の中、竹やぶでスズメの声がします。
そこはスズメの宿でした。
「よくぞ、おいでくださいました」
じいさまはスズメらに出迎えられました。
舌を切られたスズメもいます。
「だいじょうぶかい?」
じいさまは舌切りスズメに声をかけました。
「……」
舌切りスズメ、舌がないのでしゃべれません。
かわりに宿の主が、お世話になったお礼ですと言って、つづらを二つじいさまに渡しました。
「小さなつづらはおじいさんのもの。大きなつづらはおばあさんのものです」
「なに、ばあさまの分もあるのか?」
「はい。でも開けるのは、かならず家に着いてからにしてくださいね」
「わかった、それではな」
じいさまは舌切りスズメに別れを言い、二つのつづらをかかえてスズメの宿をあとにしました。
家に帰ったじいさま。
つい欲が出て、大きなつづらの方をおのれのものにしました。
ですが、それにはカワラのかけらばかり。
かたや、小さなつづらのばあさま。
「まあ、小判じゃないか」
たくさんの小判に大よろこびです。
小判のゆくえを知った舌切りスズメ。
――小判は、じいさまへの恩返し。カワラは、ばあさまへの仕返しだったのに。
毎日、くやしくてなりませんでした。
ある日。
舌切りスズメはばあさまのところに飛んでいき、さんざん悪口を叫びました。
ですが……。
ばあさまにふり向きもされません。
――そうか、あたしは声が出なかったんだわ。
ならばとばあさまの前に行き、それからアカンベーをしてやりました。
「うん?」
ばあさまが首をかしげます。
そこでよくわかるように、舌切りスズメは口を大きく開けてアカンベーをしました。
「オマエ、なにをしてるんだね?」
ばあさまは首をひねるばかりです。
それもそのはず。
舌切りスズメにはベロがないのでした。