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「はい今日もお疲れさま」
「楽しかった!食べ物持っていくとなでなでしてくれるの!」
「そう? 楽しめてるならよかった。テルも初めての接客ちゃんと出来てたね」
「うん」
2人を引き取ってから3日目、昨日から接客を任せ始めたけどかなり評判がいい。小さい子どもが一生懸命働いている様子は、見ていて和むんだとか。ベティさんもコーヒーを飲みながら目尻を下げて笑っていた。
お客さんと2人を見守りながら仕事をこなしていたが、テルは要領がいい。注文も間違えずに伝えてくれるし、ときどきヒナをサポートしながら仕事ができている。
ヒナはまだお客さんに、食事を運ぶことしか頼んでいないけど、ありがとう、と頭を撫でられ可愛がられている。
ヒナに運んでもらおうとコーヒー、アイス、ホットコーヒー、紅茶……と何回も注文をしてくれるおじいちゃんもいた。
しっかり売り上げにも貢献している。
「あのね、服が似合っていてかわいいねってたくさんほめられたの! ヒナもこの服好き!」
それは2人が家に来た日、買ってきた服だ。接客業だから清潔感も必要だしね。普段着をいくつかと、お店用の服。ヒナは濃い緑のワンピースに白いエプロン。フリル付きだ。テルは上は深緑、下は黒で白のギャルソンエプロンを買った。
ヒナはキャッキャと喜びながら、大事そうに買った服を抱えていた。
それに、制服をきて仕事をする2人は顔が整っているためとてもかわいい。テルは年齢より体が小さいけれど、同世代の女の子にモテると思う。
あとから年を聞いたら、11歳と答えた。そんな年から働かせることに罪悪感もあったが、楽しいようでイキイキとしている。
ビートは「え!? 子持ちだったのか!? 2人も……」なんてバカなことを言っていたが、話を聞くとホッとしていた。私はまだ15才よ。4才で子供が産めるわけないでしょ……。
ため息をつき、なぜそんなに焦っていたのか不思議に思っていると、お客さんが入ってきた。
カランカラーン
「こんにちはサラさん、また来たよ」
「エリオールさん! いらっしゃいませ。お久しぶりですね」
「前に言っていた、私の友人を連れてきたんだ。カイル、この人がこの間話したここの店長だ」
エリオールさんの後ろに背の高い男性が立っていた。少し吊り目がちで、焦げ茶色の髪を短く切っている。目が合うと、少し前へ出てぺこりと頭を下げた。
「無愛想でしょ? 小さい頃から一緒にいるけど、こいつ滅多に笑わなくて」
「余計なお世話だ」
言葉に遠慮がなく、本当に親しい友人だとわかる。
「ふふっ、では、空いているお席へどうぞ。テル、お水を準備してくれる?」
「うん、わかった」
「あれ? 前は子供いなかったよね?」
「はい、この間からここで一緒に住んでいるんです。男の子がテル、女の子がヒナです」
「ヒナだよ!」
いつの間にいたのか、ヒナが隣に立っていた。手をあげて自分をアピールしている。
「こんにちは、ヒナちゃん。私はエリオール、こっちにいるのがカイルだよ。よろしくね」
「うん、よろしく!」
にっこり笑いながらヒナに自己紹介をしている。
「じゃあ挨拶も済んだし、どこか座ろうかな」
「では、注文がお決まりになりましたら、お知らせください」
お辞儀をしてキッチンへと戻る。チョコアイスを食べさせたいって前に言っていたから、多分それを頼むはずよね?
以前話していたことを思い出し、アイスの準備に取り掛かる。魔法も上手く使え、チョコアイスが完成する。
「うん、完璧」
「サラさん、注文が入ったよ。えっと、フレンチトーストと紅茶、ホットコーヒーとチョコアイスがそれぞれ1つずつ」
「了解。飲み物とチョコアイスはもう出来ているから運んでくれる?」
「うん」
手早く飲み物を準備し、アイスと一緒にトレーの上に載せる。
「はい。じゃあこれ。こぼさないように気をつけてね」
テルに声をかけながら、フレンチトーストの準備に入る。ボウルに浸けてあるから後は焼くだけね。
このお店のフレンチトーストは、ボウルの水分がなくなるくらい漬けるからしっとりと柔らかく、人気メニューだ。前世のお母さんの得意料理で、たまに出てくると夢中になってパンにかぶりついていた。
懐かしく思いながら、焼き目を見て裏返し、蓋をした状態で弱火で3分ほど焼く。
焼き上がったらお皿に盛り付け、粉砂糖とメープルシロップをかけて完成だ。最後にはちみつをかける人もいるらしいが、私はメープルシロップ派だ。少し独特の香りと、優しい甘さがパンによく合う。
テルかヒナを呼ぼうとするが、2人とも忙しいようだ。テルは食べ終わったお客さんのテーブルを拭いて、ヒナは隣でそれを見よう見まねで手伝っている。
これくらい私が運ぶか、とお皿を持ってエリオールさん達の席へ行く。