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国を捨てて自由を掴む  作者: 神谷アキ
1、『ブックカフェ ラーシャ』
7/53

7



 残された私は、ひとまず自己紹介を始めた。



「私はこのお店の店長で、サラよ。あなたのお名前は?」


「テル」


「テル君ね。テルって呼んでもいい?」


「うん」


「じゃあ待ってる間サンドイッチがあるから、こっちにいらっしゃい。先に手を洗おうね」


 テルの細い腕を引きながらキッチンに入る。蛇口をひねり、石鹸を渡しながら腕のケガを確認する。ところどころにすり傷があり、血が滲んでいる箇所もあった。袖をまくると痣まで出来ている。まさか、と思って服の裾を上げるとお腹にも大きな跡が残っていた。



「どうしてこんなところまで……」



お腹の左側に一際大きな跡がある。服も土で汚れているし、もしかして蹴られたあと……?



「ねえテル。嫌だったら無理に答えなくていいけど、誰かに蹴られたの?」


「一昨日仕事で失敗したら明日から来なくていいって言われて……。そしたらお金が入らないから昨日の分を渡せなくて……。」


「ベティさんの言ってたことは本当だったのね。じゃあそれはお金が払えずに蹴られた跡?」



そうするとテルは小さく頷いた。食べる前に消毒をしようと奥に連れて行く。ガーゼを貼っていて気づいたが、見た目以上に痩せていて不健康だ。

 全身に貼り終え、よし終わったと立ち上がり冷蔵庫へ向かう。今日はなにが残っていたっけ?サンドイッチだけだと栄養が足りない。あ、そうだ。



「テル、バナナ好き?」


「バナナ?あまり食べたことない…」



 バナナは栄養価も高く、風邪の時にも食べやすい。今の弱っているテルに最適なはずだ。ちょうどアイス用に沢山用意してある。

 あ、どうせなら一口サイズに切ったバナナに、バニラアイスをトッピングして食べさせてみよう。きっと喜んでくれるはず。



「はい、じゃあこれ食べてて。少し作ってくるものがあるから」



 カウンターにサンドイッチを置くと、お腹が空いていたのか麦茶と同様にすごいスピードで胃に収まって行く。バクバクという音がキッチンまで聞こえてくるようだ。

 そう思いながらお皿を探し、切ったバナナを置いていく。最後に真ん中にバニラアイスを載せれば完成だ。



「はい、特別メニューよ。バナナとバニラアイス。美味しいから食べてみて」



 テルはちらっとこちらを見上げると、またアイスを見てゴクッと喉を鳴らした。おそるおそるアイスをすくうと口に入れる。



「甘い……」



 さっきまでとは反対に、味わってアイスを食べていく。その様子を眺めていると、ベティさんが子供を連れて帰ってきた。



「サラちゃん、この子が」


「おにいちゃん!」



小さな女の子がテルを見つけ、駆け寄っていく。この子も痩せているが傷などはないようだ。



「ヒナ!」


「ベティさん、ありがとうございます」


「すぐに見つけたから簡単だったさ。テルの妹を探しているって言ったらあっちから寄ってきたからね」



 テルもすぐに駆け寄って行く。

 ベティさんの話によると、仕事を探しに行くと言って出かけてた兄が、ずっと帰ってこなくて心配だったらしい。

 カフェにいると伝えるとすぐに着いてきたそうだ。



「ヒナちゃんね、こんにちは。ヒナって呼んでもいい?何才?」


「うん、いいよ!6才!」


「ありがとう。6才なのね。私はこのお店で働いているサラよ。サラって呼んでね」


「わかったサラお姉ちゃん!」



 ついヒナが可愛すぎて抱きしめたい衝動に駆られた。兄妹そろってどこか日本風の名前で愛着があるし、ヒナなんて名前似合いすぎだよ……。あぁ〜、抱きしめたい!!

 1人悶絶していると、ヒナがカウンターの上を見ながら話しかけてきた。

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